今年2013年の3月20日に1stミニアルバム「黒キ渚」をリリースし、現在全国ツアーを開催中のバンド「黒木渚」。デビュー曲「あたしの心臓あげる」をはじめ、少し過激なテーマと吸い込まれるような世界観が印象的な彼らだが、その世界観はどこから生まれ、また生み出す彼らはどんな人物なのか。5/2(金)、京都museでのライブを控えた黒木渚に、それぞれの曲に込めた思い、そして今後について語ってもらった。
バンド名「黒木渚」の由来
――本日は宜しくお願いします。まず、お名前とパートを教えてください。
黒木 ボーカルの黒木渚です。
サトシ ベースのサトシです。
本川 ドラムの本川です。
――皆さんPVの印象と全然違いますね。
黒木 それはお会いする方に絶対言われます(笑)
本川 そう、よく言われます(笑)
――PVのダークな雰囲気のイメージがあったので意外でした。では、バンド「黒木渚」結成の経緯を教えてください。
黒木 もともと3人とも大学が一緒で、音楽サークルに入っていたんです。そこで私とサトシが前身となるバンドを組んでいて、ドラマーを探していたらもっち(本川)と出会ったんです。その時にバンド名も変えて、正式に「黒木渚」を結成しました。
――バンド名の「黒木渚」はボーカルの黒木さんのお名前なのですね。
本川 そうですね、他にもいくつか候補はあったんですけど、歌詞と曲を書いているのは彼女ですし、何よりインパクトのある名前なので。
黒木 ずっと使ってきた個人名を他の人と一緒に使うというのはすごく不思議な感覚だったんですけど、名前を分け合うことは運命を分け合うことにも繋がると思ったんです。ちょうどプロの音楽家を目指すことを決めた時期でもあったので、決意の表れとしていいなと思って。
――「黒木渚」は曲も印象的なものが多いですが、曲作りはどのような流れで行っているのですか?
本川 歌詞と曲は渚が作っているので、まず渚の発表会があるんですよ。原型のメロディーをギター1本で弾き語りしてもらって、それをみんなで聞いて、その後に色々ディスカッションをしてアレンジをしていきます。
サトシ 曲の構成までがらっと変わることもあるよね。
本川 うん、でも誰かが引っ張っていって決めるとかじゃなくて、本当にみんなで決めていく感じ。
黒木 そう、すごくナチュラルな雰囲気です。
本川 一番大事にしているのは、聞いている人の中に歌詞が入っていくような曲にすることなんです。だからアルバムの中の「砂金」っていう曲も、最初はギターが入っていたんですけど、この歌詞が生きるのはピアノとボーカルだけなんじゃないかっていう結論になって、最終的に2人だけの構成になりました。形にはあまりこだわらないです。
1st ミニアルバム「黒キ渚」に込めた思い
――先日、初のミニアルバムをリリースされましたが、おひとりずつアルバムの中で思い入れのある1曲を教えてください。
黒木 私はやっぱり全曲好きですけど、今回のアルバムの分岐点になっているという点では「カルデラ」です。というのも、私はずっと自分の為だけに曲を書いていて、それによって人を喜ばせたい、とかは思っていなかったんです。でもここ最近、お客さんが増えていくにつれて「期待に応えたい」と思うようになった。視線が自分だけではなくてお客さんにも向くようになったというか…。その分岐点がこの「カルデラ」っていう曲でした。だからAメロの歌詞には、「もしもあなたが私についてきてくれるなら、絶対に幸せにしてあげる。だから最高な日も最低な日も、私のところに会いに来て。」っていう、お客さんへの想いが込められています。
サトシ 僕は「赤紙」ですね。個人的にはシンプルなベースラインが好きなんですけど、この曲では珍しく細かいアレンジとか色々なことにチャレンジしていて、アルバムの中で一番ベースが目立つ曲になりました。あと歌詞も好きですね。渚自身の体験を、時代背景を変えて表現しているんですけど、それが面白いなと思って。
黒木 この曲は私自身が親子関係の中で感じたことが根幹になっているんですよ。ただ、聴くと分かるように時代設定を変えて物語風にしています。自分の経験をそのまま歌にすると、聴く人にとっても私にとってもあまりに生々しくなりますからね。
本川 僕は…やっぱり「骨」かな。一番最近レコーディングした曲だから、今一緒にツアーをまわっているメンバーで作り上げた曲っていうのもあるんですけど、何より歌詞の内容に思い入れがあって。メンバーで実際にやっている遊びがそのまま歌詞になっているんです。
黒木 その遊びが「墓石ダービー」っていうんですけど、「死ぬ時に自分の人生に点数をつけて墓石に掘ろう」っていう、遊びというか約束事のようなものです。現世ではその点数の勝敗は分からないわけですけど、向こうでみんなと会った時にお酒でも飲んで墓石を眺めながら、「勝った」「負けた」って、楽しく話したいなと思って。「死ぬ」ってすごくネガティブなイメージですけど、この「墓石ダービー」にとっては「今の人生を私が一番楽しんでやる」って思えるためのスパイスになるんです。
本川 僕、昔は死ぬのがすごく嫌だったんですよ。バンドマンになろうと思ったきっかけも、ジョン・レノンの没後〇周年追悼式みたいなのをテレビで見て、「あ、有名なバンドマンになったらみんなの心に残るから死ななくて済むんだ」って思ったからなんです。だから、渚からこの曲のテーマを聞いた時に、すごく良い曲だなと思って。そういう意味で、思い入れのある曲ですね。
多少グロテスクな言葉でも、世の中に存在するもの、伝えたいものに嘘をつかないのが「黒木渚」らしさ
―― 「黒木渚」の曲には、グロテスクな題材やオカルト的な要素をテーマにしたものが多いですが、そこには何か理由があるんでしょうか?
黒木 私としては別にあえてそうしているわけではなくて、ただ当たり前に、世の中にはそういうものが溢れているなと思っていて。それをありのままに表現したいだけなんです。例えばニュースキャスターの人がそれを伝えたいと思っても、決まった言葉で決まった枠の中で話さないといけないじゃないですか。でも私はアーティストだから、感じたままに伝えることができる。ちょっとはばかられるような言葉でも、その言葉が伝えたいテーマを表現する上で忠実なものであればそのまま使うべきだと思っていますし、そこに嘘をつかないことが、「黒木渚らしさ」だと思っています。
―― なるほど。でも、中にはグロテスクな言葉を出すことで一歩引いてしまう方もいらっしゃるかもしれないですよね。
黒木 そうですね、実は今回のアルバムのタイトルはそういう方へのメッセージでもあります。タイトルの「黒キ渚」は「黒≠渚」という意味とかけてあって、「私たちは別に猟奇的な思考を持っているわけではないし、グロテスクなテーマばかりを歌っているわけでもない。むしろ陽気で愉快な部分もたくさんあるし、怖い人たちじゃないよ。」って(笑) だからちょっと抵抗感のある方にも、まずは「骨」のような明るい曲から入ってもらって、そこから少しずつ黒木渚を知ってもらえればと思っています。
――「黒木渚」が曲を通して伝えたいことは?
黒木 私たちが曲を通して伝えたいことって、かなり抽象的なものだと思うんです。子どもの頃、寝る前に布団の中で考えていたような、「死ぬって何だろう」「生きるってどういうことだろう」「神様っているのかな」っていうような素朴な疑問に似ていて、どれも答えが出ないものばかり。それこそ人間が一生かかって探すようなものですから、いくら私に文才があったとしてもそれを表現することはきっと難しいことなんだろうなと思います。だから、答えのない抽象的なテーマを伝える時に私たちがどういう手法を取るかというと、「周囲」を描くんです。伝えたい抽象的なものの周囲を描写することで、お客さんに中身を想像してもらう。「この中心にきっと何か大切なものがあるよね」って、お客さんに問いかける。これは、どの曲にも共通して言えることですね
「黒木渚」のこれからについて
――最近ますます注目を集めつつある「黒木渚」ですが、今年の目標を教えてください。
黒木 私は新しい作品作りかな。
サトシ うん、僕もそうかな。アルバム出したばっかりではあるんですけど、まだ未発表の曲やライブでしか演奏していない曲もたくさんあるので。音源化を待ってくださってるお客さんもいますし、それに応えたいなと思います。
黒木 あと色々な場所で独演会(ワンマンライブ)をやりたい。今は福岡と東京でしか独演会をしていないんですけど、やっぱり時間が長い分やりたいことが表現できるし濃い時間にできるので、色々な地方でやりたいですね。
本川 僕は…今年できるかどうかは分からないですけど、できればホールで演奏をしてみたいと思っています。ライブハウスは設備が整っていてもちろん演奏もしやすいですけど、飾り付けるのはどうしても限界があるじゃないですか。でもミュージカルとかができるようなホールなら、もっと表現の幅も広がるし、本質的な「黒木渚」の世界を見せられるんじゃないかなと思っています。ぜひいつかやってみたいですね。
――最後に、この記事を読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。
黒木 私たちはどうしても曲の世界観に注目されがちなんですけど、このバンドの魅力は人間性でもあると思っています。無尽蔵なエネルギーというか、生きることに貪欲な姿勢を見てほしい。疲れている人や無気力状態の人が私たちのライブを見に来てくれた時に、「なんて逞しい人たちなんだ」って思ってもらえるような存在でありたいんです。それによって、「自分もこの人たちみたいにガツガツ生きて、今の人生をめいっぱい楽しんでやる!」って思って、外の世界へまた飛び出していってくれたらいいなと思います。
――本日はありがとうございました!
実際にお会いしてみると、PVのイメージとは全く違い、明るく柔らかい雰囲気のメンバー3人でした。
グロテスクな言葉を用いた歌詞や独特の世界観は、決して非人間的な冷たさから生まれたものではなく、むしろ「人間の本質」を伝えたいと思う彼らの方法。そんな魔法が解けたような思いでその晩のライブに行ったのに、曲が始まった瞬間やはり彼らの世界のど真ん中に引きずり込まれてしまい、「あぁ、この両面性が黒木渚なんだ」と勝手に納得しながら、スタッフは曲に合わせてゆらゆら揺れておりました。そんな 「黒木渚」の人間性と世界に触れられる彼らのライブは引き続き各地で開催中です。詳しくは公式HPをご覧ください。
黒木渚公式HP http://www.kurokinagisa.jp/