【速攻レビュー】『ソラニン』の隠喩、落穂拾いなど - この春、音楽を糧に生きている人は必見の映画。
※映画の内容に触れる形で感想を書いておりますので、『ソラニン』を視聴予定であらすじなどを知りたくない方はそっとブラウザを閉じてください。また、スタッフ一号の根は真面目で根暗な面が出ておりますので手っ取り早く映画やCDの情報だけ欲しい!という人は最下部をご覧下さい。
前提
浅野いにおさんの作品は苦手です。というのは、昨今の若者ははただでさえ生きづらいと感じているのに、何も創作の世界でまで私たちの心をえぐらなくったっていいじゃないか、と思うから。でも、得てして感傷的で自己陶酔的な作品が映画化されると、映像的にはとても美しいものになる(例:『リリィ・シュシュのすべて』)し、なにより宮崎あおいさんが好きなので、ある種の覚悟をして観に行くことにしました。
はじめに断っておくと、結局3回くらい泣いた
一応あらすじ。
OL2年目で会社を辞めた芽衣子(宮崎あおい)と、音楽の夢をあきらめられないフリーターの種田(高良健吾)は不透明な未来に確信が持てず、互いに寄り添いながら東京の片隅で暮らしていた。ある日、芽衣子の一言で仲間たちと「ソラニン」という曲を書き上げた種田は、芽衣子と一緒にその曲をレコード会社に持ち込むが......。 Yahoo!映画より引用
まず、種田と芽衣子の生産性のない日々を見て、ほとんどの若者は自分を重ねあわせずにいられないでしょう。大学卒業後、フリーターを続ける種田、そこそこ稼ぎのいい仕事をしながら、大人になりきれずに仕事を辞めてしまう芽衣子。そしてそれをとりまく友人たち。
浅野作品は「現実をストーリーの比喩にする」のが非常に巧みです。仕事を辞めてしまった芽衣子は種田との暮らしを貯金で支えていくのですが、そこで観客は「ああ、この話は終りがあるのだな」と理解します。話を知らなくても、そこでもう「終わり」というメタファーが通奏低音のように流れはじめる。現実を厳しくつらいものと実感するのは日々の雑踏の音がふっと途切れて、その通奏低音だけが聴こえるようになったときです。根底に隠れている自分の本性とか、本音みたいなものがそこで顔を出して、あやふやにしていた自分の存在を目の当たりにして、路頭に迷ってしまうのです。
そういうことを繰り返していくにつれ、気持ちが麻痺していきます(芽衣子の言葉で言えば、「疲弊してくたびれて」「体に毒がたまっていく」)。そういうタイミングで、種田と芽衣子が『ソラニン』を持ち込んだレコード会社の佐伯が言ったように、プライドより大事なものがあれば、そちらのために生きることを選ぶことができます。
じゃあその選択の瞬間に、選ぶことができなかったら?答えられる人はいるのでしょうか。たぶん多くの人が笑ってごまかすでしょう。しかし、笑ってごまかせなかったから、種田はああいう結末になってしまったのです。展開としては見え透いていましたが、涙がこぼれてしまいました。若者とカテゴライズされるすべての人に、種田の想いは他人事ではありません。
『ソラニン』のMUSIC - 後藤正文の作曲による「ソラニン」は無二の名曲でした
種田と加藤とビリーのバンド「ROTTI」が、たびたび劇中で繰り返すにもかかわらず、きちんと演奏することのない曲はくるりの「東京」という曲です。この選曲は映画の演出のようですが「東京」という街に出てきた若者が行くあてもないままさまようという内容は、そのまま芽衣子と種田の行くあてのなさを隠喩しています。
種田がそんな日々を打開しようと作った曲が「ソラニン」です。くるりやナンバーガールというゼロ年代の音楽の影響を大きく受けているアジカンの後藤正文が作曲しているあたりが、非常にうまく構成されています。
疾走感あふれるチューンに仕上がった「ソラニン」は後藤正文のその分野の権威としての面目躍如といったところです。劇中音楽にバンドサウンドを採用した名画『スワロウテイル』並に、語り継がれる劇中曲と言えるようなクオリティではないかと思います。
まとめ - 音楽に救いを求めたことのあるすべての人のためにある映画
音楽に無軌道な若者の青春をのせて効果的に訴求した映画というと『トレインスポッティング』が思い出されますが、『ソラニン』は、青春映画として不動の地位にある同作に匹敵する名作であると断言できる映画でした。
若者が感じる生きづらさ、それに起因する変われなさは、音楽によってしか救われることのないと言っても過言ではありません(だって歌は現実の比喩なのですから)。少なくとも、音楽がそういった答えのない気持ちを救ってくれた経験があるから浅野さんはこういう作品を書いたのだろうし、映画『ソラニン』が絶大な支持を受けているのも、多くの人が心のどこかでそういうことを思っているからではないでしょうか。
DVDで観るなんて言わず、目を背けたくなるくらいの青春を、大画面で観てはいかがでしょうか。永遠に続く救いではないのはわかりきっていますが、そんな救いを食いつないで生きていくのが青春というものかもしれませんよ。
視聴場所やその他情報について
と!真面目に書きすぎましたのでいつものテンションで記事をまとめます!
スタッフ一号が『ソラニン』を観てきたのは河原町の MOVIX京都。4月3日に公開したばかりなので、お客の入りはなかなかのものでした。4月いっぱいは良席確保のためにチケットを事前に買っておくことをオススメします!MOVIX京都のほか、イオンシネマ久御山・ワーナー・マイカル・シネマズ高の原でも上映中です。
劇中で出てくる「ROTTI」による『ソラニン』CDはローソンのページにて購入可能(芽衣子vo.バージョンはラジオなどでは放送されたようですが、市販はされていないようです。DVDに期待かな?)。また、サウンドトラック『ソラニン サウンドトラック feat.ent』や劇中の音楽の「ソラニン」スコアブックなども発売中!これを買って練習して、学園祭なんかで歌ったらカッコいいかもしれませんね。
そして!エンディングテーマの『ムスタング mix for 芽衣子』を含む、アジアンカンフージェネレーションの『ソラニン"』も発売中!要チェックですね。