【速報レポート】「上村松園展」(京都国立近代美術館)に一足早く行ってきました!
実際の展覧会の様子をご紹介している展覧会レポート。
今回は、スタッフが一足早く行ってきた、話題の「上村松園展」をレポートします!
「上村松園展」 @京都国立近代美術館
(2010/11/02-12/12)
プレス向けの内覧会ということで、企画を担当された学芸員さんにもお話を伺うことができました。スケジュールの都合上、ちょっと駆け足で見て回ることになったのですが、出来る限り展示の雰囲気や見どころをご紹介したいと思います。
行く予定の方もちょっと迷っている方も、ご参考にしていただければ幸いです。
実はちょっと「穴場」になっていた上村松園。
有名な画家の回顧展は数あれど、何故か上村松園だけは人気画家にも関わらず今までまとまったものは開催無し。「エアポケット的に抜け落ちてしまっていた」のだとか。つまり、近代の日本画家の中では一種の穴場的存在になってしまっていたのです。
そこで、今回の展覧会は、その分「全体像がはっきりとつかめる」「可能な限り代表作を展示する」をコンセプトに企画されたそう。有名作品はもちろんですが、今まで殆ど大きな展覧会で出される機会のなかった作品も網羅。作品作りに欠かせない、素描も展示されています。
現在もファンの多い上村松園ですが、詳しい方でも見たことがない作品もあるかもしれませんよ?
いきなり大作・『序の舞』がお出迎え!
会場に入ると、いきなり『序の舞』がお出迎えしてくれました!
ポスターやチラシにも使われている、松園の代名詞的作品です。上村松園を知らない人でも、この絵はどこかで見たことがある...という人もいるかもしれませんね。(何年か前に、記念切手のデザインにも使われていたそうです)
舞う女性の一瞬を切り取ったようなこの絵は、松園自身も自分の理想の絵そのもの、と言っていたほどの傑作です。
しかし、いざ本物を目にしてみると...とにかく大きい。(高さは2m以上!)その大きさに圧倒されてしまいます。
背筋を伸ばして、凛と立つ女性の姿。静かなようで、次の瞬間には動き出しそうな、緊張感があります。部屋全体に漂うきりり、とした空気は、これだけで「松園」その人をあらわしているようです。
確かに、最初に目にするには一番相応しい作品かもしれません。
※『序の舞』は、前期のみ(~11月23日)の展示です。その後は『草紙洗小町』に替わる予定です。
絵のすぐ傍には、京都限定展示として、舞の練習をする松園と息子の松篁の写真パネルと、お世話になった金剛流の先生へ松園が贈った品が展示されています。松園の能や謡曲との関わりの深さを感じさせるコーナーです。11/6には、『序の舞』を金剛流の方が実際に舞ってくださるイベントもあるのでチェックを。→ イベント情報はこちら
京都画壇デビューから円熟のときまで、松園の生き様と魅力を堪能。
展覧会は主に1)明治期、2)大正期、3)昭和期の3部から成り、(昭和期は作品数が多いため、そのなかでもまた3つに分かれています)それに素描(デッサン)が加わった構成になっています。
ほぼ時系列順に並んでいるので、順番に見ていくと松園の絵の変遷を辿っていくことができます。モチーフの表現の仕方や、人物の表情、色使いなど、共通点も変化した点もよくわかります。
印象としては、最初の頃は昔の大和絵に近いような、ちょっと古典的な感じ。松園は周囲に女性像を描く人がいなかったので、最初は昔の絵を手本にして勉強していたそうですから、その影響が強く出ているのかもしれません。また、初期の頃は暖色系の色を多く使っているようにも思えます。
時代を経ると、色も多彩に、鮮やかになっていきます。(浅葱色を使った作品が多いような気がしたのですが、松園はこの色が好きだったのかも...?)また、松園は同じモチーフや構図で何度か似た作品を描いています。そっくりですが、使っている色や細かなところが微妙に異なっています。隣接しているものもあるので、見比べてみると面白いのではないでしょうか。
また、上村松園といえば、綺麗で繊細なタッチの絵というイメージが強そうですが、作品を実際に見てみるとそんなことはないようです。結構、線自体はしっかりはっきりと描いているものが多いんです。師匠の鈴木松年の影響か、強いタッチの作品もあるそう。綺麗だけど「骨格がしっかりしている(尾崎館長)」というのは、女性ゆえの苦難の中で強く生きた、松園自身を表しているようです。
■ 女性画だけじゃない、意外な作品も!
松園は女の人ばかり描いている...かと思いきや、決してそんなことはありません。
確かに圧倒的に女性の姿を描いて作品が多いのですが、男性を描いた作品もちゃんとあります(なかなか表に出ないので見る機会も少ないようですが...)今回は、2点ほど展示されています。
女性画だけではない松園の力量、是非確かめてみて下さい。
「あえて「美人画」と表現しないようにしました」
今回企画を担当した研究員の小倉さんが仰るには、「今回の企画は「美人画」は半ばNGワードのようにしていたんです」とのこと。
「美人画、というと現代では表面的なものとイメージされがちですが、松園のものはそれとは異なります」
松園が数多く描いた女性像はもちろんどれも美しいのですが、ただ「美人」とは言い切れない深みがあります。
それは、松園が描こうとしたのは、「美しき人」というだけではなく、「よき人」の姿でだったから。
内面が美しい人こそ、外見も美しい。そんな「よき人」への憧れを松園は作品に描き続けました。最初の頃、昔の物語に出て くる「よき人」を取り上げて描いていたのも、後年になって母や周囲の強く生きた女性たちを描いたのも、その表れだったのです。
ただ綺麗なだけではない、本当の意味での美しさ。松園の作品が本当に美しく感じるのは、きっとそれが確かに息づいているからなのでしょう。
■ 研究員さんのお勧め作品は?
京都の街に暮らす普通の女性の日常生活をモチーフにした作品。特に、日暮れ時に、僅かな光で針に糸を通そうとする様を描いた『夕暮れ』は、松園自身が幼い頃の母の思い出を題材としたと語っています。女手一つで松園を育てた母が亡くなると、松園は彼女との日々を懐かしむように、このような作品を多く描きました。
「一番、肩の力が抜けて、素直に描かれている作品だと思います。松園自身の気持ちがよく現れているような気がします」(小倉研究員)
京都の繁華街にある商家に生まれた松園の描いた女性は、ほとんどは「京女」。自分が生まれ育った、幼い頃から目にしてきた京都の街の女性たちでした。
とりわけ彼女にとって「よき人」の一番の手本となったのは、いつも自分を見守り支えてくれた母親や、辛いことがあっても強くたくましく生きる身近な人々の姿だったのです。
また、これらの作品には、古きよき京都の日常生活の様子も描かれています。年月が経つにつれ、次第に消えていく昔ながらの暮らしを、松園は懐かしみ、惜しんでいたのかもしれません。
師匠・兄弟弟子・ライバル...松園関係者ずらり、の常設展も併せて見るべし。
(下の写真)右手前から松年、楳嶺、栖鳳の作品。皆、京都画壇を牽引した立役者でした。その系譜を、松園も確かに受け継いでいます。 |
「上村松園展」には出展されなかった京近美所蔵の松園作品のほか、松園の師匠である、鈴木松年、幸野楳嶺、そして竹内栖鳳の三人の作品、鏑木清方や菊地契月といった同時期の画家による美人画などが並んでいます。
鏑木清方は、「西の松園、東の清方」と並び称された美人画の巨匠。松園の絵についても記述を残しているなど、非常に影響と感銘を受けていたそうです。
また、竹内栖鳳門下に共に在籍していた、橋本関雪の作品も今回常設展にて見ることができます。
(関雪と松園の関係については、白沙村荘・橋本関雪記念館の橋本眞次副館長のコラムにてもご紹介を頂いております。こちらも是非ご覧下さい。→「白沙村荘の庭から」)
松園が受けた影響、与えた影響などもよくわかる展示内容です。こちらも併せて見るとより展覧会が楽しめること請け合い!
(他の作品も女性作家の作品が多めにラインナップされていました。「マイ・フェイバリット展」にも出ていた笠原恵実子さんの作品も!)
松園の作品は、松園の息子である松篁氏と孫の淳之氏の寄贈作品を所蔵する松伯美術館(奈良)のほかには、あちこちに散らばってしまっているため、まとまった数を一度に集めた展覧会はなかなか開催しにくい、という現状があるそう。
今後これだけの規模と内容の展覧会はなかなか機会が無いかもしれません。気になる方は、迷わず見に行くことをお勧めします!
お目当ての作品を見逃すな!展示期間確認をお忘れなく。
ちなみに、前後期併せて展示作品は82点。入れ替えもあるので、お目当ての作品の展示期間は、公式ホームページの作品リストでご確認をお忘れなく。(例えば、今回の内覧会は前期展示だったので、『焔』はまだありませんでした。こちらは後期でお目にかかれます。)京都展限定の作品も5点あるそうなので、東京展に行った方もチェックして損は有りませんよ!
京都展は、12月12日までの開催です。京都ゆかりの作家の作品だからこそ、この機会に京都で楽しんでみてはいかがでしょうか?
※ちなみに、twitterでは#shoen2010のハッシュタグで見に行った方の感想や、耳寄り情報がチェックできます。「京都で遊ぼうART」も随時寄稿中。こちらも是非ご覧下さい。
関連リンク
「上村松園展」(展覧会情報ページ)京都国立近代美術館(施設情報ページ)
京都ゆかりの作家「上村松園」(特集記事)