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美術作家による震災遺児支援展「3.11きずな展」開催!

2012/05/11

2011年3月11日の東日本大震災。既に一年が経過したとはいえ、その衝撃は今なお、私たち日本人の心に傷跡を残しています。
そしてこの衝撃的な出来事は、多くの美術作家たちの心も突き動かすことになりました。

5月17日から京都高島屋にて開催される「3.11きずな展」は、震災の衝撃に心動かされた美術作家の有志たちが自発的に呼びかけ、行われるチャリティ・オークション展です。
先月、開催に先駆けて出展作家の皆さんも参加しての記者発表会が開催されましたので、そこでのお話を交えてご紹介します。

作家の熱意と思いが生んだ展覧会。

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展覧会記者発表の様子。出展作家さんも出席されました


「この展覧会に代表はいない。作家の自発的な試みであることを強調したいと思います」
(川嶋渉さん/日本画)


この3.11きずな展の実行委員会には、代表者が明確に定められていません。
というのも、あくまでこの展覧会は作家の皆さんが自発的に開催を企画し、人づてのネットワークを通じて呼びかけたもの。参加者は皆並列、同じ立場であるという考えから、あえて代表を置かなかったのだそうです。
呼びかけに応じて今回の展覧会に参加した作家は全部で123名。一人一作品ずつ制作された新作が並びます。

「作家の何かしなければならない!という気持ちが詰まっています」
(森田りえ子さん/日本画)

実は17年前の1995年にも、同じような作家有志によるチャリティオークション展が開催されていたそう。
それは、阪神大震災を受けての復興支援展「100人展」でした。今回の参加作家にはその際にも出展した作家の方もいらっしゃいます。
また、関西在住の作家も多く、実際に阪神大震災で被災した経験を持っている方もいます。

「私も阪神大震災で被災した経験があります。そのとき、たくさんの人の支援があって、生き延びることができた。今も絵を描き続けていられるのは、その支援のおかげなのです。同じ経験をした身として、今度は自分から何かできないかと思っていました」(安田育代さん/日本画)

「いろいろなところから支援というものはありますが、美術界としてはチャリティオークションか絵の展示ぐらいしかできません。しかし、まだ現地の方に展示をゆっくり見て頂ける時期ともいえません。まずは自分たちが今できることをしていきたいと思いました」(青木敏郎さん/洋画)

「チャリティも、そう何度もたくさん行うことはできません。本当に役立つのか?と自問することもあります。しかし、今は目に見える形で、絵描きとしてできることを何かしたいと思ったのです」
(黒光茂明さん/日本画)


311kizuna (14).jpgまた、この展覧会は京都のほか、東京、そして被災地のひとつでもある岩手県も巡回の会場となっていました。
何か、自分にできることは...被災地に向けた作家たちの真剣な思いと熱意が込められた作品。それを被災した人たちにも実際に見てほしい。
唯一被災地から参加した藤井勉さん(洋画)のそんな強い希望から実現したのだそうです。

震災から1年。確実に時間は過ぎています。

「被災した人間にとって、一番恐ろしいのは、時の経過とともに忘れられること。回復には時間がかかるのです」(安田さん)

1年の節目に開催されるこのチャリティ展は、その上でも、とても大きな意味があるといっていいでしょう。

参加作家のラインナップはとても豪華!

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参加作家はどれも第一線で活躍している方ばかりです。

日本画からは現在京都造形芸術大学学長を勤めている千住博さんや、仏教美術の造詣の深さで知られる畠中光享さん、金閣寺方丈の杉戸絵も手がけた森田りえ子さん、先日開催されたART KYOTO 2012にも出品されていた三瀬夏之介さんなど79名。

洋画・彫刻・版画からは、触れられそうなほどのリアルな写実画の第一人者・青木敏郎さん、大河ドラマ「新撰組!」のOP画像を手がけた木田安彦さん、現在も人気の奈良のマスコット「せんとくん」のデザインで話題になった彫刻家・藪内佐斗司さんなど26名。

また、工芸分野からは永樂善五郎さん、大西清右衛門さんといった「千家十職」に名を連ねる名職人のご当代や、清水六兵衞さん、近藤髙弘さん、八木明さんなど京都を代表する陶芸作家さんなど18名が参加されています。
(そのほか参加作家の詳細については、公式サイトをご確認ください)


京都在住の方、美術大学・芸術大学で教鞭をとられている方から、最近話題の作家まで。実に多彩な作風・ジャンルの作品がそろっています。こんな豪華な内容の展覧会はほかで見ることはできないでしょう。
また、どれもサイズは室内に飾ることを意識して幅は30cm以内に収められています。

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展示作品の売り上げは、すべてあしなが育英会を通じて、震災で親をなくした子供たちのために寄付されます。

「皆一人ひとり、ハリと熱意のある作品を寄せています。皆の東北への思いがこもっています」(川島陸郎さん/日本画)
「少しでも多くの方に参加していただき、この思いを子供たちに届けられればと思います」(森田さん


期間中には「奇跡のピアノ」コンサートも開催。

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遠藤洋さんと「奇跡のピアノ」(写真は遠藤さんのお店「ピアノショップいわき」にて)

展覧会の期間中には、被災地で津波の被害に遭ったものの、地元の調律師さんの手でよみがえった「奇跡のピアノ」によるコンサートも開催されます。

このピアノは、もともと福島県いわき市の豊間中学校で使われていたもの。3月11日当日も、午前中に行われた卒業式で使用されていました。その後津波に襲われ、後で自衛隊が発見した際には体育館で海水と砂まみれになり、鍵盤は剥がれ落ち塩で真白になっていたといいます。

これを地元で33年間ピアノ調律師をしている遠藤洋さんが無償で引き取り、家族総出で丁寧に洗浄・塩分除去を施し、40日間かけて見事に蘇らせたのです。

「学校の周辺の住宅街は、津波ですべてなくなってしまいました。亡くなった方もいらっしゃいますし、学校も骨組ばかり。だからこそ、復興の第一歩としてこのピアノを直さなければならないと思いました」(遠藤さん)

その後、このピアノは話題となり、昨年末の紅白歌合戦でも「ふるさと」の伴奏で使われています。

「このピアノにとっても、取り上げられたことは、一度死にかけたことですし、とても喜ばしいことだと思います。今後もこのピアノを後世に伝えていきたいですね」(遠藤さん)

コンサートは開催期間中毎日開催。初日のみ3回、あとは一日2回の公演です。

初日にはシンガーソングライターの普天間かおりさんの歌とともに演奏されます。
(普天間かおりさんは5/17の14:00~、16:00~のステージに参加されます)

※入場無料

美術作家による震災遺児支援「3.11きずな展 チャリティーオークション」

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