【DWK2018|OPEN FACTORY】見学レポ《2》(有)西村商店(引箔)
DESIGN WEEK KYOTO 2018|工房見学レポート
「京都をよりクリエイティブな街に」をコンセプトに、京都在住の職人やクリエイター有志により開催されているプロジェクト「DEDIGN WEEK KYOTO」。
今年は1週間限定で実際のモノづくりの現場を公開するオープンファクトリー企画を開催、22か所の工房が参加しました。
DESIGN WEEK KYOTOに広報協力を行った「京都で遊ぼうART」では、そのうち4つの工房をスタッフが実際に見学!その様子を改めて、少しですがご紹介します。
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【2】(有)西村商店(引箔)
2か所目に訪れたのは、(有)西村商店さん。西陣織に用いる「引箔」を作る工房です。
引箔とは、西陣織の生地のベースになる素材の一つ。
和紙に金銀やアルミなどの箔や色漆などの素材と、加熱や特殊加工など多彩な技を駆使して模様を描き、これを上の写真のように糸状に細く裁断して織り込むことで、織物の柄や地にキラキラとした輝きやグラデーション、パターンなどの風合いを生み出します。
西陣織が、織物なのにまるで絵具のような滲みや漆器の蒔絵のような風合いをつけることができるのは、この引箔のおかげなのです。
でも織り上がった状態の生地からは、引き箔はいったいどんなものなのかは知ることができません。
それを見ることができるのは、工房見学ならでは!
西村商店さんは親子代々の引箔職人である西村さんがお一人で経営されています。
工房見学の前に、まずこれまでに手掛けた引箔の見本帳を見せていただきました。
ご自身で作られたものもあれば、先代であるお父様の作品、またもっと以前に作られた今ではどうやって制作したのか方法がわからないものまでが収められているそうです。
※引箔のデザインは織り上げる図柄にあわせてオーダーメイドで制作することが多いため、見本帳の引箔も企業秘密(非公開)扱いの作品が多々。写真はその中から大丈夫なものを選んで撮影させていただいています。
引き箔は、和紙(原紙)全体にベースとなる色漆やラッカーを塗り、その上に他の色漆で模様を描いたり金銀箔を貼るなどして模様を描くことが一般的。色の組合せや特殊加工の付け方によって表情は無限に変わります。
下地が青か赤かだけでも、上に撒かれた金箔の色合いがちょっと違って見えますね。
箔を貼るにも、そのまま貼るか艶消しをするかだけで、色合いも表情も全く違うものになりますし、紙をわざと揉んでくしゃくしゃにすることで生まれるシワを模様に利用することもあるそうです。
他にも、写真のような銀に熱を加えると変色する性質を利用して、焼き鏝などで熱を加えて虹色のような変化をつける「焼箔」や、マーブル模様のような効果を出す「墨流し」、引き箔自体に絵を描く「絵箔など。このような技法をさまざまに組み合わせて模様を生み出します。
見本帳に収められた引き箔の多彩なパターンは、それだけでもとってもアーティスティック!
それこそ織物の形にせずともこのままで十分作品として成立するほどの美しさです。
織物にした際には裁断して糸状になってしまうのでこれらは見えなくなってしまうのですが、それがとてももったいなく思えるほどでした。
では、いざ工房へ!
実際制作されているところを見せていただくと...
まず箔を撒いたりする作業の部屋。箔は大変薄く、ちょっとしたことで破損してしまうため、作業には慎重さが求められます。
一口に箔といっても、金銀のほか、アルミにプラチナ、青色や赤色など色のついたものもあります。
箔ごとに特製も色合いも、柔らかさもすべて違うので、それを踏まえて取り扱う必要があるのだとか。
刷毛で模様を描いたりする作業もこちらで行います。
そして驚いたのが、下地の色漆やラッカーを塗る作業部屋。
足を踏み入れるとそこにあったのは...
大量のスプレーガン。
並ぶポリタンク、防塵マスク、そして巨大な換気扇!!!!
繊細な作品と豪快な制作環境のギャップにびっくりです。
引き箔に塗る色漆やラッカー類は、揮発性が高く匂いもきつい素材のため、広範囲に吹き付ける必要がある下地塗りなどの作業時は、このような巨大な換気扇で換気をしないといけないのだとか。また、飛び散った漆やラッカーが落としやすいよう、撥水性を逆手にとって常に換気扇のある壁に水を流しておくなど、工夫されています。(下の写真参照)
これは先代から受け継いだ設備で、西村さんは「これを見て、職人を継ごうと決めた」と仰っていました。轟音を立てながら動く換気扇を見ていると、確かになんだか子供心に憧れた秘密基地のような感じがしてちょっとワクワクしてきます。
美しい作品が作られる現場を見ることができる、オープンファクトリーならではの体験でした。
最近では織物に用いるだけでなく、引箔そのものの美しさを活かし、コースターなどの小物やパーテーション・テーブルなどのインテリア用品にも応用した商品を開発中だそうです。
西陣織の工程としては裏方にあたる引箔自身が主役になるというのも、新しい伝統工芸の展開。今後どんな作品が生まれてくるのか、楽しみです!
西村さん、ご案内いただきありがとうございました!
(撮影:浜中悠樹/文責:染川裕美子)
■(有)西村商店についてはこちら:http://www.designweek-kyoto.com/jp/store/detail/?id=5***