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【内覧会レポート】ドレス・コード?――着る人たちのゲーム(京都国立近代美術館)

2019/08/09

8月9日(金)からスタートの「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」(京都国立近代美術館)内覧会に行ってきました!

この展覧会は、京都国立近代美術館と、京都服飾文化研究財団(KCI)による共同企画。5年に1度、毎回テーマを変えてファッションに関する様々な展示を行っています。
今年はちょうど世界博物館会議(ICOM)京都大会の関連で服飾に関する研究部会(コスチューム部会)が行われるため、世界に向けての発信も視野に入れられているそう(チラシも最初から日英版が!)

最近はハイブランドが自ら企画して美術館で展覧会を開催することも増えており、ファッション展が一種のメディアとなっている流れもあります。

これに対し「ドレス・コード?」展はそれとは異なり、批評的視点を持ったファッション展として、「着る」という行為そのものを、KCIのコレクションを中心にどのように表現できるか、という考えに基づき企画したとのこと。
ファッションの他、現代アート、写真、映像、漫画やアニメ、SNS...といった他の分野との関連性にも大きく視野を広げた内容となっています。


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展覧会は0~12、計13のセクションで成り立っています。

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「裸で外を歩いてはいけない?」といったように、全て質問文になっているのが特徴。見る人が考えながら展示を見て欲しいという意図からだそうです。

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漫画「イノサン Rouge」とのコラボ展示コーナー。実際にKCIが所蔵する漫画と同時代(フランス革命時頃)の衣装と、それをキャラクターに着せた描きおろしイラストが並びます。とにかく細工の細かさは必見!(コラボグッズもありますよ)

展示される服はKCIがこれまでに収集した歴史的に貴重な服飾資料から、コム・デ・ギャルソンやゴルチエ、ルイ・ヴィトンなどなど外題の有名ハイブランドや世界的デザイナーの手掛けたものまでが揃っています。


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こちらは1900年代から現代までのスーツをずらっと並べた一角。年代ごとのスタイルの違いを見比べて楽しめます。

「スーツ」「ミリタリー」「タータンチェック」といったようにアイテムごとにまとめられた形での展示が多く見られます。これはSNSで使う"ハッシュタグ"をイメージしたそう。
ファッションの普及に今やSNSは欠かせないもの。一般の人が自らファッションをカテゴライズし発信していく感覚を取り入れたかったとか。

会場デザインを担当した建築家の元木大輔さんも、「作品ひとつひとつを楽しむこともでき、群れとして見ることもできるように」というイメージで空間を作っていったそうです。
"群れ"として見ると、その服のジャンルが持つ特徴が見えてきます。
例えばスーツは、本来は組織に属する人の制服的位置づけであったり、フォーマルさをイメージさせるものでした、それが時代を経るとその「スーツはフォーマルなもの」と言った感覚、いわばスーツのもつドレス・コードから逸脱したデザインや色柄のものが生まれていくことがわかります。

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こちらはミリタリー。今ではお馴染みの迷彩柄やトレンチコートなども、元は軍隊で使うために生まれたもの。それがいつしかそのドレス・コードから外れ、こんなにバリエーション豊かに。

元は炭鉱の労働服として生まれたデニムが、ジェームス・ディーンが映画で着用したことでお洒落なものとして認識・一般化された例が知られますが、時代を経て当初とは違う昨日や意味に変化していくというファッションの特徴の一つを感じることができました。

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中にはセクションの表示板に飾られているものも!
こちらはアート作品とコラボレーションしたもののコーナー。「描かれているものが何か」をわかるとより楽しいものです。

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いわば着られる・身に着けられるアート。本来なら美術館にある作品を持ち歩くことができたり、それどころか自分自身がアートの一部になってしまうような...

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こちらは全部シャネルブランドのスーツ!創業者であるココ・シャネルによるものから、カール・ラガーフェルドがデザイナーを務めた現代の作品まで大集合しています。
手掛ける人が変われば同じシャネルスーツでもその印象は大違い。また、シャネル自身も女性の社会進出のアイコンとなり、シャネルスーツもその象徴になりました、まるで時代を映す鏡のようです。20190808_165206.jpg


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ファッションはパリコレなどのファッションショーで披露されるようなハイブランドだけではありません。ここから一般の人、ストリートのファッションへと目が向けられていきます。
こちらは街行く人のファッションを撮影したストリートスナップを、色や共通したものなどで分けた《フォト・ノート》。これも"まとめてみると、バラバラではわからなかった色々なものが見えてくる"作品ですね。フレームごとに何で分けたものなのか考えながら見るとより楽しめそうです。

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特に注目がこちら、漫画やヒッピー文化、ジェンダー、様々な要素を取り入れた多彩なファッションと、左右の壁にびっしりと貼り付けられた様々な人々の姿。ツッパリにロリータファッション、アレンジ着物をまとった新成人、ホームレスの人にバブリー真っ盛り時代のお姉さん...これ、全部日本!こんなに日本のファッション文化は多彩で豊かなものなのかと驚かされます。まさに個性の洪水。

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第二会場(4階)もお忘れなく!こちらは 現代美術家・マームとジプシーによる《ひびの、AtoZ》というインスタレーション作品。アルファベットに対応した26人の人物の寝間着姿+寝るときのもちもの+KCIのコレクションから彼らが選んだ服の写真が展示されています。机の上には彼らが交わした会話の一部を書いたカード(持ち帰り自由)があり、これらを見てその人の人となりを想像してほしい、という趣向です。見る、見られることで、その人がどんな人かを伝え、想像させる。ファッションの持つ意味を実感させられる展示でした。

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普段は私たちが当たり前に享受している「着る」ということ。あまり日常生活の上では気にしていないものですが、展覧会を通して様々な角度や分野・文脈で見ることで、そこにはさまざまな意味が込められている。時代性、性別、生き方、価値観、人となり。ファッションというものが内包するものの大きさ、「着る」という行為とは何か?を改めて考えさせられる展示内容でした。

日々何気なく選んでいる自分の服を見る目も、少し変わってきそうな予感がします。
ファッションが大好きな人も、普段そこまで意識していない人も、さまざまな見方・楽しみ方ができる展覧会です。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

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なお、今回のミュージアムショップはこんな感じ。特設スペースではなく、常設ミュージアムショップ内にコーナーが設けられているので、ご注意を!
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真ん中は「イノサン Rouge」とのコラボグッズ。描きおろしイラストの他、衣装の一部を基にしたブローチも!右はイラストレーターの西淑さんとのコラボレーション。手描きイラストが可愛らしい文具や、アイシングクッキーなど。

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こちらは19世紀に実際に使われていた着せ替え人形の復刻版。展覧会限定で販売です。
昔の人はこれでコーディネートを考えたり注文をしたりしていたそうですよ♪
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