【レポ】《3》京都市京セラ美術館リニューアル!リニューアル内容&オープニング・ラインナップ発表
《OPTICKS 008》2018年 ©Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
新館「東山キューブ」:開館記念展「杉本博司 瑠璃の浄土」
現代アートを紹介することを目的にオープンする新館「東山キューブ」のこけら落としは、写真家・アーティストとして国際的に活躍する杉本博司さんの個展です。
1970年代より大型カメラを用いた高い技術と独自のコンセプトによる写真作品で世界で高い評価を受けてきた杉本さん。古今東西の古美術や歴史資料の蒐集家としても知られる他、建築や舞台演出など幅広い芸術活動を行い、時間の概念や人間の知覚、意識の起源に関する問いを探求し続けられています。
現在ニューヨークと東京に居を構えている杉本さんですが、京都をモチーフにした作品も手掛けられ、大変思い入れ・造詣が深く、これまで幾度となく足を運ばれています。(杉本さんご本人いわく、今年だけでももう20往復したかも、とのこと)
京都市京セラ美術館リニューアル準備室のゼネラルマネージャーを務める高橋信也さんに、杉本さんを招かれた理由をおたずねしたところ、「こけら落としとなる展覧会は、まだ色のついていない状態である新しい美術館に、魂を吹き込むようなものです。それには京都に深い理解と造詣を持つ杉本さんは相応しい方だと思います」というお話を伺いました。
記者発表では、京都市京セラ美術館の新館長・青木淳さんと杉本博司さんのミニトーク形式で、展覧会の内容やコンセプトの紹介が行われました。お二人とも以前から親交がおありということで、大変和気藹々とお話されていました。
展覧会「杉本博司 瑠璃の浄土」は、京都市京セラ美術館の立つ岡崎の地にかつて白河院の建てた法勝寺をはじめとする6つの大寺院があったということから発想し、展示を通じてこの地に"仮想の御寺"を構想するというものです。
白河院が御寺を建てた地に建つ美術館のリニューアル展。これにあたり杉本さんは「何をリニューアルすべきか?」を思考し、「日本人の辿ってきた精神性のリニューアル」をひとつのテーマとされたそうです。
白河院の時代(平安末期)は、人々が浄土、すなわち死後の世界を理想郷(ユートピア)と考えていた時代であり、御寺はそのひとつの具現でした。しかし、現代では人々は死後の世界に対しそこまで関心を持っていません。では、現代人にとっての「浄土性」とはどういうものなのでしょうか?
今回の展覧会は、平安時代の御寺に対する一種のコンセプチュアルアートとしての位置づけで、現代人にとっての浄土性、人類が普遍的に求める安寧の形を"仮想の御寺"で表現し、日本人の浄土を求める心のありようを見つめ直そうという試みです。
タイトルにもある「瑠璃」は、ラピスラズリの群青色やガラスそのものとしての意味を持ちます。また、薬師瑠璃光如来という仏様もいることから、仏教・浄土の思想とも繋がり、展覧会を象徴する色となっています。
OPTICKS 008、2018 © Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
今回展覧会に登場予定の杉本さんの新作写真作品「OPTICKS」はこの色に繋がる作品。
杉本さんの写真作品といえばモノクロームが主体でしたが、こちらは色に注目したものとなっているそうです。
物理学者・ニュートンの著書『光学』の挿絵にあるプリズムの実験を2005年に自宅で再現する試みをして以来、色に対するアプローチを続けていたという杉本さん。近年になって技術の進歩もあり、理想的な色を表現できるようになり「ようやく人に見せられるものになりました」とのこと。
しかもこの展覧会が世界初公開!この貴重な機会に、杉本さんの表現の原点である写真作品の新作をこの目で拝見したいものです。
《法勝寺 瓦》平安時代末~鎌倉時代初期 撮影:小野祐次
ちなみに、杉本さんが今回の展示のお話をいただいた後、コレクションの整理をしていた際に偶然、岡崎にあった白河院の御寺・法勝寺の瓦が出てきたのだそうです。
「実はそれまで持っていたことをすっかり忘れていたんです(笑)でもこれは(展覧会を)やれよ、ってメッセージなのかな、と思って」と杉本さん。
この瓦も展覧会で展示される予定とのこと。
杉本さんと京都と岡崎の歴史、さまざまなご縁が重なって開催される展覧会。開催が待ち遠しいですね!
「杉本博司 瑠璃の浄土」
京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」
なお、展覧会以外にも、関連プログラムとして杉本さん作品の展示やパフォーマンスイベントの開催も予定されています。
《ガラスの茶室 聞鳥庵》を日本庭園に設置!
杉本博司《ガラスの茶室 聞鳥庵》ヴェルサイユ宮殿での展示風景、2018年
©Hiroshi Sugimoto, Architects: New Material Research Laboratory / Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida. Originally commissioned for LE STANZE DEL VETRO, Venice / Courtesy of Pentagram Stiftung & LE STANZE DEL VETRO. The image is from the exhibition "SUGIMOTO VERSAILLES" organized by Palais de Versailles.
今回の展覧会のキーワードのひとつ「ガラス」との繋がりから、ヴェルサイユ宮殿の庭園展示でも話題を集めた、杉本さん作のガラスでできた透明な茶室「聞鳥庵(モンドリアン)」が京都市京セラ美術館の日本庭園に登場!
この作品のコンセプトについて、「千利休の頃には、その精神の中に既に近代的な抽象表現の概念があった、ということの証明として制作しました」と杉本さんは言います。
利休の茶室は"外を見ない"茶室を通して外界と自身を切り離す空間を生み出したのに対し、杉本さんは、ガラスを用いることで"外と一体化する"茶室を創り出しています。
杉本博司プロデュース&野村家親子三代による能楽『月見座頭』『三番叟』!
『三番叟』写真提供:小田原文化財団 ©Odawara Art Foundation
舞台演出も手掛けマルチな活動を行っている杉本さん。今回は展覧会の関連イベントとして、能楽の舞台をプロデュースします!
演じるのは、野村万作・萬斎・裕基の野村家親子三代!
人間国宝・野村万作さんは極め尽くした最高の芸で『月見座頭』を、
野村萬斎さんと息子・裕基さんは美術館のオープニングに相応しい、祝いの席で舞われる演目『三番叟』を躍動感たっぷりエキサイティングに演じます。
展覧会と併せて、杉本さんの世界観を野村家親子三代が共演する夢の舞台が楽しめます。
こちらは2020年4月25日(土)、美術館近くのロームシアター京都 サウスホールにて開催予定。チケット情報などの詳細は10月上旬ごろに発表予定です。
2020年春の京都は、展覧会で、野外で、舞台パフォーマンスで、さまざまな形で杉本ワールドが楽しめます!