【レポ】木下有理個展「木漏れ日」/KURA MONZEN Gallery
KURA MONZEN GALLERY 外観(写真提供:KURA MONZEN GALLERY )
京都にはギャラリーが沢山ありますが、実際に訪れるのにはちょっと勇気がいる...そんな方も足を運びやすいのが企画展のタイミング。
今回はギャラリーで開催の企画展を取材させていただきましたので、ご紹介します。
会場の「KURA MONZEN Gallery」は、大徳寺からほど近い新大宮商店街の中にあるギャラリー。
一見普通のビルのようですが、中は「ウナギの寝床」と呼ばれる京都の町家の構造の名残を感じさせる奥行きのある縦長構造で、奥には坪庭も備えています。
木下有理個展「木漏れ日」
今回紹介する展覧会は、京都出身のSculptural light Artist、木下有理さんの個展「木漏れ日」。
木下さんはご実家でもある京都の呉服店で勤務し、海外の布を使った着物や雑貨・照明器具の企画販売を手掛けた後、「より自分を表現できるクリエイティブな仕事がしたい」とアーティストに転身された方。現在はアメリカ・シアトルを拠点に、主に和紙の素材感を活かした独自の照明をデザイン・制作されています。
企画展示室に入ると、目に飛び込んでくるのは大きなオブジェ風の照明と、その下に作られた池で構成されたインスタレーション。
室内に池!?と驚きますが、これは木下さんの水鏡を設置したい、というリクエストに応えたものなのだそう。
池の水面に映り込んだ照明はまるで月明りのようで、ぜひ覗き込んで鑑賞してほしい、とのこと。水底を黒くすることで照明の映りも良くなると共に、水底が見えない分実際以上に深さを感じさせる視覚的効果もあります。まるで空間が床の下へと続いているようです。
池の周囲には砂利が敷き詰められ、日本庭園のようなテイストになっていますが、これは展示室に隣接する坪庭を作られた庭師さん(植裕園 代表の庭師・ 比果 裕司)に監修いただいたそう。
坪庭には枯山水で水の流れが表現されており、池はその庭から流れて来た水が部屋に湧き出たイメージをされているそうです。
窓に映り込んだ照明も庭の風景とも一体化していて、屋外と屋内に連続性をもたらしています。
展覧会のタイトル「木漏れ日」のとおり、木下さんの照明はどれも和紙から光がこぼれるようなデザインが特徴です。これは障子や行燈など、日本の伝統的な明かりの見せ方に材を得たものだといいます。日本の昔ながらの間接照明のテイストを、木下さんは西洋的・現代的な空間に馴染む形に仕上げられています。
中には花の形などユニークなものや、よく見ると和紙の中には繊維や、時には模様(なんと円形のものはパスタを使っているそうです...!)が漉き込まれた作品も。
和紙だからこそできる光の表現が楽しめます。
木下さんの展示は8/16まで。期間が長めなので、ゆっくり鑑賞できますよ。
KURA MONZEN GALLERY
KURA MONZEN GALLERY 1階展示風景(通常会期中)(写真提供:KURA MONZEN GALLERY )
展覧会の会場となっている「KURA MONZEN GALLERY」は元々は会社ビルだったものをオーナーで美術品バイヤーであるロバートさんが数年がかりでリノベーションされたギャラリー。
1階は今回展覧会に用いた企画展示用のスペースの他、普段は主に現代作家による陶芸作品や絵画作品を中心に展示するコレクション展を開催。
一方の2階は武具や彫刻、家具類などさまざまな古道具・骨董品が並ぶスペースとなっています。
ギャラリーの名前「KURA」は「蔵」の意で、蔵=さまざまな時代の宝物が詰まった空間、というロバートさんのイメージから名付けられたそうです。
そのイメージが特に感じられるのが、こちらの2階のスペース。色々な時代のものをミックスして並べた「蔵」のようなスタイルで展示されています。
大まかなジャンル分けはされているものの、時代ごとにきれいに整理して...という形ではありません。桃山時代の品の上に近代の焼物を置いておいたり、江戸時代の漆器と明治時代の漆器が順不同で並んでいたり...
とにかく色んなものが色んな所に並んでいるので、さながら宝探しのような感覚になります。それでいて全体的に明るくモダンな雰囲気も保たれているので、骨董屋さんはちょっと敷居が高くて...と躊躇している方も入りやすい空間づくりがされています。
展示されている作品の多くはロバートさんが長く日本で暮らす中で出会った美しいもの、素敵だと感じるものをご自身のセンスと審美眼で収集されたもの。時代や作家を選ばず、良いと感じたものを展示する。これもギャラリーの見せ方のひとつです。きちんと整理された展覧会とはまた違う、誰かの好きに囲まれた空間ならではのワクワク、面白さが味わえるはずです。
海外からも多くのお客様が素敵な一品を探しに訪れているそうです。
しかし、ギャラリーは「中に入ったら何か買わなきゃいけない」というわけでは決してありません。覗きに来るだけでも気軽に足を運んでほしい、とのこと。
大徳寺近くを訪れる機会がある際は、足を運んでみてはいかがでしょうか?