【レポ】2023年度龍谷大学文学部博物館実習 十二月展「天つ星 天体と人のつながり」(龍谷ミュージアム)
龍谷大学「十二月展」は、龍谷大学文学部の博物館実習受講生たちが、展覧会を準備・企画・運営すべてを手掛ける、年に一度の学生主体の展覧会です。
博物館・美術館で働く学芸員の資格取得を目指す博物館実習自体は多くの大学で行われていますが、学生が実際の学芸員と同じように一つに展覧会をつくり上げるというのは、かなり珍しい試み。
龍谷大学では40年以上にわたりこれを行っており、今回で44回目の開催となります。
展覧会の開催にあたっては、テーマ選定から展示作品の選定、所蔵元への貸出依頼や資料調査、展示空間の構成や図録制作、関連イベント企画や広報活動まで、膨大な作業があります。これを今年は50名余りの学生さんが分担して行ったそう。学芸員を目指す学生たちの、学びの集大成です。
2023年度の十二月展「天つ星 天体と人のつながり」は11/29~12/2の日程での開催。
昨年に続き、今年も初日に取材をさせていただきましたので、展示の様子や見どころをご紹介します!
※写真は御許可を得て撮影させていただいたものです(展覧会自体は撮影禁止です)
歴史資料から美術、文学まで。多彩な角度でひも解く、星々と人々のものがたり。
太古の昔から現代まで、夜空や星、月や太陽といった天体は人々の暮らしに何かしらの形で関わってきました。
十二月展「天つ星 天体と人のつながり」では、「天仰ぐ黎明」「天文学の回天」「星願の煌めき」「月影を紡ぐ」の四章構成で、人と天体の関わりを紐解きます。
展示品は龍谷大学の所蔵品を中心に関西圏の各所の施設から集められたもの。このテーマでなければなかなか見る機会がないユニークで貴重な資料も多数並んでいます。残念ながら貸出が叶わなかった資料も、パネル展示&解説でしっかりフォローされていて、充実の内容になっています!
第一章「天仰ぐ黎明」
第一章では「人が天体をどのように見ていたのか」、そのまなざしを感じられる品々が紹介されています。
会場に入ってすぐに目に入る大きな望遠鏡は、江戸時代の望遠鏡製作者・岩橋善兵衛が制作した天体望遠鏡《窺天鏡(きてんきょう)》の復元品。他にも、江戸時代に使われた一閑張(つまり紙製!)の望遠鏡や太陽と月など天体の位置を表した模型《渾天儀(こんてんぎ)》、岩橋が自作の望遠鏡で天体観測をした際の月のスケッチなどが並んでいます。昔の人も天文学や天体観測を嗜んでいた様子がわかる資料です。
その他、この章では天体に関する記述がみられる日記や古典文学も紹介されています。本展では見どころ箇所は矢印や線で示されているので、古文が読めなくてもわかりやすくて安心です。
平安時代の藤原道長の時代を描いた『栄花物語』では、月の宴の様子が描かれています。天体を愛でる対象として見る人々のまなざしが伺えます。その一方で、南北朝時代の軍記物語『太平記』では、彗星と客星(超新星など、普段はないところに突然現れたように見える星)が同時に出現したので占ってもらったところ「大凶」と出たので動乱の前触れと考えられた、という記述が。また、鎌倉時代の『吾妻鏡』には月食の日は不吉だと出かけるのをやめて宿に泊まった話などが紹介されています。
昔の人々にとって天体は愛でる対象であると同時に、人知が及ばぬ畏れの対象でもあったことがわかります。だからこそ「どういう状態が良いか悪いか」、意味を見出そうとしたのかもしれません。それを判断するには、天体の動きを観察・記録する必要があり、そこから天文学が発展していきます。
第二章「天文学の回天」
未知なるものへの畏れから、知るべき対象となることで学問になる。第二章ではそんな日本の天文学の発展の歴史に注目して資料が紹介されています。
ここで注目したい展示品の一つが上の写真の《平天儀》。今の星座早見表にあたるもので、展示品は江戸時代に作られたもの。紙の円盤を回転させることで地球を中心に月ごとに見える星座とその位置、月の満ち欠けが一目でわかるようになっています。(隣の《平天儀図解》はより《平天儀》を詳しく見るための解説書)
当時の人たちがイメージしていた天体や宇宙のすがたに触れられる資料です。
なお、日本の天文学は、中国を経由して伝わったそうで、中国の天文学では地球を中心とした天動説がベースになっていたので、日本でも長く天動説が主流だったそうです。それを大きく覆すことになったのが、江戸後期に流入した西洋の天文学でした。展覧会では、天動説を解説している本と、西洋から齎された最新学説だった地動説を紹介している本、両方を見比べることができます。それまでの常識をひっくり返すような学説に触れた当時の学者たちの驚きはいかばかりだったか、思いを馳せたくなります。
第三章「星願の煌めき」
第三章では思想や信仰の対象としての天体の在り方に注目。天体への畏れは、学問にもつながりましたが、天体そのものを不思議な力を持つ存在、神仏そのものとして見る信仰へと変化していきます。この章では天体に人々が向ける願いや祈りの視点が感じられる資料が紹介されています。
北極星や北斗七星を仏様として崇める妙見信仰や、滅多に見られない南極星を「見られたら幸運だから寿命が延びる」と考えられ七福神とまで結びついた南極信仰など、祈り生まれたイメージの世界はバラエティ豊かで驚かされます。
江戸時代の百科事典《訓蒙図彙(きんもうずい)》。天体の項目では天の川や彗星、日食や月食の仕組みなどが丁寧な図解つきで紹介されているのに、太陽の図には八咫烏(太陽の化身)、月の図は餅つきをする兎が!
特にユニークな資料が、《須弥山儀・縮象儀》。江戸後期の天台宗の僧侶・円通が、仏教の宇宙観で西洋の天文学を解釈しようと試みて設計した立体模型の図解です(今回の展示はありませんが、立体模型も龍谷大学に所蔵されているそう)
仏教では須弥山という大きな山が宇宙の中心にあり、周囲を囲む四つの大陸のうち一つに人間が住んでいるとされており、それを示したのが右の須弥山儀。対する左の縮象儀は人間が住む大陸から見た宇宙の姿を表しています。よく見ると、縮象儀は日本列島を中心にした地球儀風で、アメリカやユーラシア大陸、南極大陸らしきものも描かれています。
第四章「月影を紡ぐ」
そして最後の第四章。ここでは、月が登場する様々な古典文学や美術工芸品を通し「うつくしいもの」として人々に愛でられる対象としての天体を紹介しています。
『源氏物語』の名場面を描いた《源氏絵》では、光源氏が月明りの下で美しい姫君(朧月夜)と出会う「花宴」の場面が紹介されています。絵画として描かれることで、物語をドラマティックに彩る舞台装置として月が強く印象付けられます。会場内にはその『源氏物語』の作者・紫式部が石山寺で過ごす姿を描いた《紫式部観月図》も。石山寺は紫式部が源氏物語を執筆した場所として有名ですが、同時に観月の名所でもあり、双方の繋がりが感じられました。
ほかにも、古今和歌集などに登場する月を詠んだ和歌や、『竹取物語』のかぐや姫が故郷の月へと帰る場面を描いた絵、月の浮かぶ風景をあしらった陶器などなど、バラエティ豊かな資料を見ることができます。夜空に浮かぶ月は物語の場面を彩り、人々の心を魅了する、美の象徴でもあったことが伝わってきます。
「天つ星 天体と人のつながり」展のマスコットキャラ、ミチルとカケル。こちらも学生さんがデザインされています。
展覧会の随所で登場し、ナビゲートしてくれます。フォトスポットもあるので要チェック!
「天体」というとてもスケールの大きなテーマながら、各章の構成やアプローチが明確で、それぞれの個別でも楽しめ、かつ全体の流れもしっかりと感じられる展覧会でした。対象は同じ月や星でも、人の見方や託したものがここまで幅広いとは!
展覧会は「ものを見せることで人に伝える」もの。設定したテーマを如何にわかりやすく、飽きさせずに見る人に伝えるのかが問われますが、学生さんたちが真剣に、かつ丁寧に向き合って練られている、努力の成果を確かに感じることができました。
取材にあたって代表の西村さんにお話を伺いましたが、「さまざまな専攻の学生が集まっているので、普段の学びとは違う分野を担当することもあった。その分解説文を専門外の自分でもわかりやすいように意識して書くなど、良い方向に働いていたと思います」とのこと。様々な人と協力する場としても、十二月展が良い化学反応を生んでいるそうです。
会期は短めながら、とても充実した内容。近くの龍谷大学大宮学舎では関連イベントも開催されているそうなので、お近くにお越しの方はぜひ足を運んでみてください!
■ 2023年度龍谷大学文学部博物館実習 十二月展「天つ星 天体と人のつながり」(龍谷ミュージアム・2023/11/29~12/2)