【レポ】ddd DATEBASE 1991-2022(京都dddギャラリー)
2022年7月に太秦から四条烏丸へ移転した「京都dddギャラリー」。その移転リニューアル後最初の展覧会として開催されたのが、「ddd DATEBASE 1991-2022」です。
その展示の様子や見どころをご紹介します。
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オンライン(情報)とオフライン(感覚)。
二つの柱で描くグラフィック・デザインの「これまで」と「これから」。
「ddd DATEBASE 1991-2022」は、dddギャラリーが設立された1991年から2022年に現在へ移転するまで、約30年間に開催してきた展覧会のポスターやチラシデザインを網羅した展覧会。全231回にも及ぶ展覧会を「データベース」という形で振り返るとともに、これからのグラフィック・デザインに活用していくための場をつくることをコンセプトとしています。
展覧会は会場(オフライン)と特設WEBサイト「ddd DATEBASE」(オンライン)の二本柱。
会場では、これまでにdddの活動に関わった関西縁のデザイナー12名が歴代の展覧会の中から選んだポスター全85点が、壁一面と廊下に向けた巨大パネルに敷き詰める形で展示されています。
ポスターは歴代の各ギャラリーと年代やテーマ毎に分類されているので、展示室を一巡りすればddd約30年のあゆみを自然と辿ることができます。
窓ガラス側に向けたパネル展示は、廊下側からパネル全体が見えるように絶妙な角度で調整されています。これだけ大量のポスターが見えると圧巻!つい目を留めてしまいますね。
会場内で配布されている目録もポスターサイズになっているところがユニーク。こちらには展示されるポスター全種の縮刷のほか、選者を務めた各デザイナーからのコメントが記載されています。取材は展覧会のキュレーションと構成を手掛け、自らも選者を務めた後藤哲也さん。
この展覧会で選者はそれぞれ「自分の展覧会を入口にこの展覧会を読み解くためのキーワードを設定し、それに呼応する展覧会のポスターをピックアップする」という形式でポスター選定を行ったそう。コメントでは選んだポスターと展覧会についてや設定したキーワードについて、参加された展覧会の裏話などを読むことができます。こちらを見た上でポスターを見ると、各デザイナーの意図や心情が重なってまた新たな発見ができそうです。
展示室に展示しきれなかった展覧会ポスターも、全ての展覧会の情報が保存されている[ddd DATEBASE」からチェックすることができます。会場に設置されているデジタルサイネージの他、特設WEBサイトで自宅や出先からでも閲覧可能です。
この「ddd DATEBASE」には、各展覧会の概要は勿論、展示の様子がわかる会場写真、関連イベントをまとめた動画などの情報も満載。また、各年ごとに世界の出来事やグラフィック・デザイン界の出来事などにも触れられています。広告媒体と表裏一体であるグラフィック・デザインにとって時代背景は切り離せないもの。展覧会は勿論、展覧会に取り上げられたデザイナーがどのような状況で活動していたのか、何故そのデザインが生まれたのか、その土壌にまで触れることができます。
それだけオンラインで見られるのならオフラインで展覧会を開催する意味は?と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに膨大な量の情報を一か所に集め、まとめて見ることができる点はオンラインの強み。ではオフラインならではの強みや見どころは何なのでしょうか?
それは、"感覚"です。
ポスターに使用した紙のサイズや厚み、質感の他、ビニール膜で紙をコーティングすることでツヤツヤの質感にしたり、ホログラムを貼ったり、型を押して凹凸をつけたり...こういった特殊加工によるあしらいもデザインの一部です。見る角度を変えれば光の照り返しなどで見え方も異なります。
また、一部を除いて展示品には手で触れることも可能なので、視覚だけでなく触感でも作品が鑑賞できます。こういった部分はデジタル画像では反映されないところ。実物を見ることができる会場展示ならではの要素となっています。
デジタルでは不得手な"感覚"に訴えかける部分の情報は会場(オフライン)で、会場では不得手な文章量の多い"情報"はデジタル(オンライン)で、相互に補い合うことでこの展覧会は成立しています。つまり、グラフィック・デザインとは"感覚"と"情報"、ただ見るだけではなく様々な側面からの働きかけを内包しているものなのだということも実感させられました。
展示品の多くは使われずに保管されていたもの、いわばデッドストック品だそうですが、中には実際に掲示に使われていたものも。「海外のデザイナーの作品なので日本語表記がなく、後からシールで情報を追加した」など、実際に使用されていた当時の様子を今に伝える品もあります。これも実物だからこそ伝わる要素です。
また、田中一光や永井一正といった日本を代表する著名デザイナーの作品の他、海外のデザイナーによるポスターも多数見られるところも特徴です。
姉妹ギャラリーであるギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)が日本の大御所や欧米のデザインを中心に取り上げていたこともあり、dddはあまり日本で見る機会の少ない国・地域のグラフィックデザインも紹介しようと長年展覧会企画を手掛けてきたそう。
中国や韓国、ヨーロッパ、アフリカ、東南アジアなど、これまでに展覧会として取り上げたデザイナーの出身国は様々。普段目にすることがない、各国独自の文字を活かしたデザインなどは大変ユニークです。
会場内には歴代の展覧会のチラシをアーカイブしたコーナーも。各チラシは直接手に取って閲覧することができます。
時系列順に並んでいるので、展覧会の年表のようにも見ることができます。文字のフォントや配置の仕方の変遷を見比べてみたり、どの年代にどんな作家が登場しているのか探したり...いわば立体化したアナログ版のデータベースです。
オンラインでは一瞬で調べられるところですが、自分の手で行うと時間がかかる分、想定以上に色々な発見が得られます。ちょっとした宝探しのような感覚も味わえました。
今回の展覧会の会期後も、特設サイトとデータベースは残し、今後開催する展覧会も随時追加していく予定とのこと。これからの京都dddギャラリーの歩みも、データベースに記録されていきます。
これまでを振り返り、これからに歩みだす、リニューアルに相応しい内容の展覧会でした。
今後はどのような展覧会が、どのような未来のデザインがデータベースに「記録」されていくのか、これからの展開が楽しみです!
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■ 「ddd DATEBASE 1991-2022」展(2022/7/16~9/25)についてはこちら