【レポ】「福田どうぶつえん」(福田美術館)&「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)
身近な生き物から空想上の幻獣まで出会える、美術な動物園&花鳥園にようこそ!
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
夏休みシーズンは、さまざまな美術館・博物館でお子さんも親しみやすいテーマの展覧会が多数開催されます。
嵐山にある福田美術館では「福田どうぶつえん」、嵯峨嵐山文華館では「嵯峨嵐山かちょうえん」と題し、動物や鳥をテーマにした作品だけを集めた展覧会が開催中です。
どちらも「絵で見るからこその楽しみ」や「絵だけでない楽しみ」の工夫がいっぱいの展覧会。今回はその内容をご紹介します。
※この記事は取材時(2024年7月)の内容に基づきます。観覧時期によって内容が変更となっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
大橋翠石による猛獣画コーナー。
福田美術館ではコレクションの中から選りすぐった動物画を前後期あわせて約80点を紹介しています。
第1展示室で最初に登場するのは、ライオンやトラなど迫力ある猛獣たち。
細密で写実的な動物画で近年注目が集まっている近代画家・大橋万峰・翠石兄弟の作品が迎えてくれます。
大橋翠石《乳虎渡渓図》20世紀 福田美術館蔵【前期展示】
弟・大橋翠石の《乳虎渡渓図》は仔トラをお母さんトラが咥えて渡ろうとする場面を描いたもの。お母さんトラは迫力たっぷりですが、川を見つめてちょっと不安そうな仔トラと、それを心配そうに見つめているきょうだいたちの姿が愛くるしい作品です。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
大橋万峰《猛虎図屏風》20世紀 福田美術館蔵
兄・大橋万峰の屏風は本物のトラを目の前にしているかのような、今にも咆哮が聞こえてきそうな迫力があります。巧みな筆遣いで毛並みのモコモコ感を表現しているところもポイント。思わずさわりたくなっちゃいます。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
トラの解説パネル。実際の動物の特徴と絵に描かれた動物を見比べても楽しめます。
近くには実際のトラの特徴を解説した写真パネルや、比較対象として江戸時代に想像で描かれたトラの絵もあります。如何に大橋兄弟が実物のトラに基づいて描いているのか、チェックしながら楽しめますよ。
このような動物の生態解説は他の作品にも随所に置かれているので、絵に描かれている動物のリアルの姿をイメージしながら楽しむことも可能です。
**
続いては人の生活で身近な動物を集めたコーナー。鹿やイノシシ、猿など野生の生き物や、農耕に欠かせなかった牛や馬、そして鶏や犬猫を描いた作品が並びます。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
山内信一《春光》1931年 福田美術館蔵
目を引く作品の一つが山内信一の《春光》。日展出品用に描かれた大作で、壁いっぱいのサイズの紙面に、猿や鳥、犬と様々な動物が描かれています。描かれてるイヌは見るからに洋犬、猿も外国の猿です。緑色の鳥はワカケホンセイインコ。当時珍しかった海外の生き物たちを集めた、まさに1枚で動物園のような作品です。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
原田西湖《夏の夕》20世紀 福田美術館蔵
こちらは京都画壇の画家・原田西湖が実家の山口に帰省した際に見た光景を絵にした《夏の夕》。農耕馬と、荷物を載せようとしている農家の女性が描かれています。
農耕用に飼われる家畜は地域で傾向があり、東日本では馬、西日本では牛が主体だったそう。でもこの絵に描かれているのは馬です。山口は西日本なのでは...?
実はこれ、山口では県の南では牛、北では馬を飼う人が多いという地域で、原田の実家は北側だったためだとか。一枚の絵から色々な情報がわかるのも面白いですね。
**
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
2階の第2展示室の前半は小動物コーナー。ヘビやカエル、うさぎ、リスなどを描いた作品が並びます。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
松本奉時《群蝦蟇図》18世紀 福田美術館蔵
ユニークな一品が松本奉時《群蝦蟇図》。松本は江戸時代の大阪で表具師をしながら絵も描いていた人。とにかくカエルが大好きで、カエルの絵ばかり描いていたとか...
この絵は元々絵巻として描いたものを掛軸に直したもの。身近な人をカエルに置き換えて描いているそうですよ。誰か知っている人に似ているカエルも見つかるかも?
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
左:円山応挙《竹に狗子図》1779年【前期展示】、右:伊藤若冲作の《仔犬図》18世紀【前期展示】
いずれも福田美術館蔵
2階の後半以降は犬や猫を描いた作品が並びます。
犬といえばやはり円山応挙や長沢芦雪の丸くてころころした仔犬の絵は外せません。
写真左、応挙の仔犬の絵には背景に竹が添えられていますが、これは「一笑図」と呼ばれる縁起のいい組合せ。竹+犬の感じを組み合わせると「笑」に見えることから連想されたようです。
右隣には伊藤若冲の仔犬の絵もあります。若冲は応挙のような現実の犬というよりは、ひな祭りで飾られる安産の御守りの「犬張子」をイメージしているようです。誰かの家のお祝いとして描いたのかもしれませんね。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
西村五雲《狗児図》昭和13年(1938)福田美術館蔵【前期展示】
こちらは近代の画家・西村五雲の《狗児図》。
たれ耳の仔犬が座っている図なのですが、お尻が地面について足を投げ出してふにゃっとした座り方になっています。これは応挙や芦雪の仔犬図でも見られますが、まだ仔犬なので足腰がしっかりしていないためだとか。
竹内栖鳳の弟子である五雲は動物画の第一人者といわれるほどたくさんの動物画を描いた人。展覧会でも多くの作品が紹介されています。
**
続くパノラマギャラリーも犬猫ゾーンです。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
手前:橋本関雪の《芍薬白猫図》1930年 福田美術館蔵
白い高貴なペルシャ猫の絵は橋本関雪の《芍薬白猫図》。実は1階にはお弟子さんが同じ構図で描いた白猫の絵があります。師弟の違いを見比べて楽しめるのもポイント。
「福田どうぶつえん」(福田美術館)展示風景より
大橋翠石《仔猫図》20世紀 福田美術館蔵
そしてこちらは冒頭にも登場した大橋翠石の子猫の絵!背景のバラとも相まってとても西洋風に見えます。実は翠石、もともとネコをよく描いていましたが、それを見た人から「ネコが描けるならトラもうまく描けるのでは?」と言われたことからトラを積極的に描くようになったとか。勇壮な猛獣を描く翠石の原典は可愛らしい子猫だった...と思うと面白いですね。(翠石の描いた赤ちゃんトラが物凄くかわいらしかったのは子猫で鍛えた故、なのかも...)
▼展覧会の詳細はこちら
「福田どうぶつえん」(福田美術館)2024/7/13~10/1
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)展示風景
続いては嵯峨嵐山文華館の「嵯峨嵐山かちょうえん」へ。
世界の草花と鳥たちとのふれあいが楽しめる「花鳥園」。実はその誕生は平成の時代に入ってからと意外に最近のことです。花と鳥の組合せは古くから日本では絵画などの題材になり、日本の美意識を感じさせるモチーフ。ここを結び付け、花鳥園で花や鳥にふれあう感覚で楽しめる花鳥画展をコンセプトにしたのが今回の企画となっています。
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)展示風景
手前が今尾景年《余物百種図》1907年 福田美術館蔵
1階は人の身近にいる鳥を描いた作品を中心に紹介。
冒頭に展示されている今尾景年《余物百種図》はさまざまな草花や魚介類、虫、そして鳥をミックスして描いた作品。何が描かれているか観察しながら楽しんでもいいですね。
ここで登場する鳥は「ウソ(鷽)」。首の周りのピンク色がかわいい小鳥です。
展覧会の随所には、絵に描かれている鳥たちの紹介と鳴き声を聞くことができるQRコードを表示したパネルが添えられています。
実際に花鳥園にいくとあちこちから生の鳥の声が聞こえてきますが、それを美術館のなかでも体験できるようになっています。
絵を見ながらその鳥の声を聴くと、本当に絵の中から鳥がさえずっているようで、より身近に感じられるかも。
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)展示風景より
今尾景年《花鳥図屏風》19-20世紀 福田美術館蔵【前期展示】
こちらも同じく今尾景年の作品。
鶴に鴨にホトトギスと、色々な鳥たちを集めて描いた作品です。
鶴や鴨たちは冬になると日本にやってくる冬鳥。そしてホトトギスは夏にやってくる夏鳥。なので本来同時に見られることはあり得ない...のですが、それができてしまうのが絵の世界。
絵だからできる、季節を越えた鳥たちの共演が楽しめます。
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)展示風景より
左:速水御舟《飛鴨図》1934年、中:円山応挙《⻩蜀葵鵞⿃⼩禽図》1773年、右:円山応挙《雪中南天鴨図》1793年
いずれも福田美術館蔵
こちらは鴨とガチョウ、水辺に棲む鳥たちです。
左端は速水御舟の《飛鴨図》。飛んでいるコガモを描いた作品...なのですが、なんだか躍動感がイマイチ...実は猟師に撃たれた鴨をモデルにしたのでこうなったそう。御舟はコガモの綺麗な羽にビビッときてこの絵を描いたといいます。丁寧に描かれた羽に注目したいところです。
**
続けて二階へ。ここではスズメやハト、鷺(さぎ)など身近な鳥たちのほか、日本ではお目にかかる機会の少ない珍しい鳥を描いた作品も紹介されています。
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)展示風景より
今尾景年《牡丹唐⼭雀図・巻丹錦鶏図・胡枝花渡雁図・寒菊⾶鴨図》1870年 福田美術館蔵【前期展示】
こちらも今尾景年の作品ですが、左2幅にはマガモとマガン、右2幅にはキンケイとサンジャクが描かれています。鴨と雁はともかく、キンケイやサンジャクは動物園か花鳥園でもないとほとんど見る機会がない鳥です。
こんな珍しい鳥に出会えてしまうのも絵画の世界ならでは。
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)展示風景より
望月玉渓《鳳凰図屏風》1928年 福田美術館蔵
そして極めつけが望月玉渓の《鳳凰図屏風》!タイトルの通り、描かれているのは伝説の鳥・鳳凰です。中国の神話では「良い王が現れた時に姿を見せる」「霊験あらたかな泉の水しか飲まず、食事も120年に一度しか実らない竹の実しか食べない」と言われる鳳凰。もちろん想像上の生き物=幻獣なので実際にその姿を目にすることは叶いません。が、絵画ならそれができてしまうわけです。これは現実の花鳥園ではできない展示ですね。
▼展覧会の詳細はこちら
「嵯峨嵐山かちょうえん」(嵯峨嵐山文華館)2024/7/13~10/1
身近なモチーフから絵を見ると、自分の感覚と結び付けて絵の世界も身近に感じられるはず。お子さんの展覧会体験にもぴったりの内容です。
ちなみに福田美術館、嵯峨嵐山文華館、どちらも8月中の開館日は小学生以下無料となっています。夏休みの自由研究や思い出作りにもいかがでしょうか?