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【レポート】秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)

2024/10/25

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景

仏教において、如来や菩薩など、信仰の中心となる仏さま(主尊)の周りには、それに付き従う従者たち「眷属」があらわされることがあります。その姿かたちは、武人だったり貴族風だったり、子どもだったり、時には動物、鬼など妖怪のようなものまでさまざま!そんなバラエティ豊かな「眷属」たちにスポットを当てた展覧会が、龍谷ミュージアムで11/24まで開催されています。

2024年の年始に特集展示として開催され、SNS等でも話題になった「眷属」展が、特別展としてパワー&ボリュームアップした本展。普段は脇役の眷属たち、こういう機会でもなければ会えない珍しいもの、ちょっとマニアックなものも登場しています。
この記事では、その展示の様子をご紹介します!

※本記事は2024年9月の取材内容(前期展示)を元に構成しています。観覧時期により展示内容が異なる場合がありますのでご注意ください。
※写真は許可を得て撮影させて頂いたものです(通常撮影禁止です)

もうなんでもあり!?バラエティと個性豊かな「眷属」の世界へようこそ!

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景

展覧会はまずは「眷属とは何か?」の紹介に始まり、役割や姿かたちに分けて多彩な眷属たちの作例が紹介されます。眷属はメインとなる主尊ごとに紹介されることが多いそうですが、今回は普段は脇役の眷属たちを中心とするので、眷属自体の特徴に合わせた展示構成になっています。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
本展のマスコットキャラクター、「こんがらさん」と「せいたかさん」。
館内にはふたりと記念写真がとれるフォトスポット、ショップにはグッズもあります。

随所に不動明王の眷属としてよく登場する二童子をモデルにした「こんがらさん」「せいたかさん」のキャラクターが登場し、案内をしてくれますよ。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
《仏涅槃図》南北朝・貞治3年(1364)京都・誓願寺蔵【前期展示】

そもそも「眷属」という言葉自体は仏教用語ではなく、一族郎党や親族を指す言葉。仏教がインドから中国に伝わり、経典を中国語に翻訳した際に、仏さまの弟子たちや付き従うようになった神様たちなどに「眷属」という漢語をあてました。

冒頭で紹介される涅槃図には、横たわる釈迦如来の周りに弟子たち、菩薩や「天部」と呼ばれる仏教を守る神々、在家の信者、霊獣、動物たちが描かれていますが、彼らが「眷属」にあたります。また、仏教における宇宙観を描いた曼荼羅図でも、主尊を中心に取り囲むように菩薩や眷属となる神々が描かれ、そのまた眷属をその周りに配す形で表現されています。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
国宝《十二神将立像のうち安底羅大将立像》鎌倉・建永2年(1207)奈良・興福寺蔵

続いては仏教を守ってくれる神様とされた眷属たちを紹介。「天部」と呼ばれる眷属たちの多くは、元はヒンドゥー教など別の宗教の神様。他の神様を「敵」ではなく「仲間」としても受け入れてしまうところは仏教の特色のひとつです。

ここでの目玉は、奈良・興福寺の十二神将立像から特別展示されている《安底羅(あんてら)大将》!
普段安置されている興福寺の東金堂が2024年現在閉堂中のため、今回特別に出張が叶いました。
運慶・快慶に代表される慶派仏師の最盛期(鎌倉時代)の作で、活き活きとした動きのあるポージングが格好いいお像です。今回展示されている仏像の多くは360度見られるようにされているので、お寺ではなかなか見られない背面の造形も要チェック!

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景

十二神将とは薬師如来にお仕えする武人姿の眷属たちで、それぞれ十二支に対応しており頭に十二支の動物のモチーフをつけて表現されます。安底羅大将は「申(さる)」神なので、猿がちゃんとあしらわれています。他にも十二神将を描いた仏画が並んでいるので、自分の干支の十二神将を探してみてもいいですね。

十二神将のように、眷属たちはグループがあり、展覧会では般若菩薩や釈迦如来に仕える十六善神、閻魔大王も属する十二天(元はインドの神様たち)、有名な「阿修羅」や鳥の顔をした「迦楼羅」などの属する八部衆/二十八部衆(千手観音の眷属)が紹介されています。
あの風神・雷神も眷属ですし、毘沙門天のように十二天に属しながら「四天王」の多聞天でもあるなど、複数グループを兼任していることも。(なんだかアイドルグループのよう...)

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
《普賢十羅刹女像》鎌倉時代 東京藝術大学大学美術館蔵【前期展示】
十二単姿の十羅刹女たちが描かれた珍しい作品。

また、十羅刹女という女性の眷属もいます。元は人を食らうとされる鬼でしたが、釈迦如来の説法によって改心し、法華経の守護者となりました。法華経では女性も成仏できると説いていたことから、女性たちの帰依の象徴、守り神的な意味も込められていたと考えられます。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
《十羅刹女立像》平安時代後期 京都・実光院蔵
右端の像が十羅刹女の一人「藍婆(らんば)」とされたことで十羅刹女の群像と判明したそう。
この藍婆さんは他の作例でも巻髪を下したヘアスタイルで描かれているそうで、探してみては。

展示作品では主に普賢菩薩にお仕えする形で描かれていますが、その姿は中国風だったり平安時代の貴族風(十二単を着ているものも)だったりとさまざま。このバリエーションの豊かさも魅力的です。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
《不動明王二童子像》南北朝時代 京都・永観堂禅林寺蔵【前期展示】
不動明王の足下、右が矜羯羅童子、左が制吒迦童子。
不動明王は童子(子ども)の姿をしているとされることから、従者となる眷属も子どもにされたのだそうです。

続いては子どもの姿をした眷属・童子たちが紹介されています。
案内役の「こんがらさん」「せいたかさん」のモデル、矜羯羅童子(こんがらどうじ)と制吒迦童子(せいたかどうじ)は不動明王にお仕えする童子たち。経典には矜羯羅童子は「色白の15歳くらいの少年」とされ、真面目でおとなしそうな雰囲気に。制吒迦童子は「紅蓮色の肌の少年」とされ、きりっとした眼差しと活発そうな雰囲気が印象的です。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
国宝《不動明王八大童子像のうち 阿耨達童子坐像、指徳童子立像》鎌倉~南北朝時代 和歌山・金剛峯寺蔵
右の龍に乗っているのが阿耨達(あのくた)童子、左の武人の姿をしているのが指徳童子。
八大童子の揃った彫像はあまり多くないそう。
この2体は鎌倉時代に作られたオリジナルが失われた後に補われたものだそう。
「八大童子を全員きちんと揃えてあげたい」という人々の思いが伝わってきます。

矜羯羅童子・制吒迦童子も含め、童子にも「八大童子」「三十六童子」というグループがあります。それぞれ役割も異なり、衣装や持ち物、造形で個性がつけられているので判別可能。大人顔負けの精悍な武人姿の童子もいれば、涼やかな顔の美少年の童子もおり、こちらもキャラクターが豊富です。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
《大威徳明王像》鎌倉時代 東京・霊雲寺蔵【前期展示】

こちらの《大威徳明王像》では、駆ける水牛に大威徳明王が乗り、周囲に走る八大童子たちが躍動感たっぷりに描かれています。大威徳明王は文殊菩薩が変身した姿ともされ、文殊菩薩と眷属の童子たちは普段は獅子に乗るとされることから、童子たちの頭には獅子の冠が描かれています。獅子のパワーをもらって走っている!ということなのでしょうか。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
《厨子入 天川弁才天曼荼羅》田中主水作 江戸時代 大阪・正圓寺蔵(大阪市教育委員会保管)
天川弁才天は三面十臂の異形の姿であらわされます。よく見ると眷属にも蛇頭姿の従者が!
江戸時代にはこんな変わった神仏の像がよく作られていたそうです。

明王の他にも童子を眷属とする存在はいくつかおり、そのひとりが弁才天。弁才天は十五童子を眷属とし、ともに表された作例が展覧会でも紹介されています。
その中に、なんと弁才天の顔が人間ではなく、蛇になっているものが!こちらの《厨子入天川弁才天曼荼羅》は、弁才天が日本古来の蛇の神様・宇賀神と習合した「天川弁才天」を立体化したもの。双方ともに金運や豊穣、水に関する存在であることから合体させてしまったようなのです。

このような日本の神様と習合して生まれた日本独自の仏の例は他にも、元はインドの鬼神だったのが仏教の眷属となり、その後日本で稲荷信仰と習合した荼枳尼天などが紹介されています。日本の神仏習合の発想の自由さに驚かされます。

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秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)展示風景
写真手前:重要文化財《持国天眷属・増長天眷属立像》康円作 鎌倉・文永4年(1267)東京国立博物館蔵
右が持国天の眷属(赤ら顔で精悍な顔つき)、左が増長天の眷属(肌が黒く口を尖らせたひょうきんな表情)。
元は奈良のお寺にあったもの。四天王は鬼たちを従えるともいわれ、
他にも鬼のような姿の眷属が描かれた作例が紹介されています。異国の人のような風貌も目を引きます。

また、なかには全く名前がわからない"名無し"の眷属の作例も!上の写真手前に写っている2体のお像は四天王の持国天・増長天の従者(旗持ち)らしいのですが、名前は不明。それにしては表情は片やひょうきん顔、片や精悍と個性ははっきりしていて、しっかりキャラ付けがされているように見えます。
「眷属の眷属」といったレベルまで具体的に姿形を与えられ図像化されるようになっていたことに、キャラクターを次々に作り出す人々の創造力の豊かさを感じずにはいられません。


姿かたちも千差万別、表情も豊かな眷属たち。元々その造形の面白さは他の仏教美術の展示でも常に感じるところでしたが、改めて「眷属」を中心に据えてじっくりと見る機会は少なく、新鮮な気持ちで楽しむことができました。何よりここまで個性豊かである種‟なんでもあり"だとは...!
日本の文化の何でも一種のキャラクターにしてしまう創造力の豊かさ、そして仏教の懐の広さを、多彩な眷属たちは体現しているように感じました。

賑やかでユニークで多様な仏教美術の面白さ、バラエティ豊かな世界をたっぷり味わえる貴重な機会。どうしても仏教美術はみんな同じに見えるな~という方こそ、ぜひ一度見に行って欲しい展覧会です。

開催は11/24まで。

秋季特別展「眷属」(龍谷ミュージアム)

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