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【レポ】没後50年 鏑木清方(京都国立近代美術館)

2022/06/22

kiyotaka2022-repo (1).jpg近代の日本画壇で活躍した「美人画の名手」として、上村松園と並び称される鏑木清方。この度、鏑木清方の関西では久々の大規模回顧展が京都国立近代美術館で開催されています。

清方は生涯を生粋の明治東京人として送り、関西とはあまり縁がありませんでした。また、関西では京都生まれ京都育ちの松園の方が馴染み深かったのか、清方の作品をまとまった数で展示する機会は少なかったそう。京都での大規模展も今回がなんと45年ぶりとのことです。

100件近くの清方作品を一度に楽しめる貴重な機会、その様子をご紹介します。

※この記事は内覧会時の取材内容等を基に制作しています。一部展示品などに時期によって変更がある場合があります。
※会場の写真は全て許可を得て撮影したものです。

祭り、芝居、小説、街並み...
愛おしい暮らしと文化を「人」の姿に託して。

京都での清方展は久しぶりということで、展示構成は鏑木清方の画業と人となりがわかりやすい、スタンダードな時系列順になっています。主に大きく明治・大正・昭和戦前・戦後の4つの時代、清方が引越をしたタイミングを人生の節目と捉えた章立てで、作品を通して清方の人生を辿っていくような感覚です。

「美人画」で知られる清方ですが、確かに美しい女性を描いた作品は多いものの、必ずしも「美人を描く」ことを目的にしていたわけではありませんでした。東京の下町に生まれ育った清方は、幼い頃に見た明治の風俗――人々の暮らしや文化に強い思い入れがありました。移り変わる各時代の暮らしや文化の姿を描き残したいと考えていた清方は、それを"女性像"に託して描いたのです。

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今回の展覧会の目玉である《築地明石町》(写真・真中)もそんな作品のひとつです。
タイトルになっている築地明石町は、関西で言うところの神戸のような、明治大正の頃は先進的でハイカラな空気の港街と認識されていたそう。そんなおしゃれな街への憧れを、清方は洋風のヘアスタイルに長襦袢を省略してワンピースのように着物をまとった、お洒落な女性の姿で描いています。背景には船も描かれていて、街の空気感を伝えています。

この《築地明石町》は3部作で、セットになっている《新富町》《浜町河岸》も併せて通期で展示されています。《新富町》(写真右端)には背景に芝居小屋らしい建物が描かれていますが、こちらは関東大震災で焼失したという「新富座」。失われてしまった街の姿を、清方は絵の中に残そうとしたのでしょうか。

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《築地明石町》は関西では戦前に一度展示されたきりで、3部作がそろい踏みするのも今回が初の機会。京都展では下絵も併せて展示されており、清方がどのように作品を作ったのか、その眼差しを感じることができました。

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また、清方は父の影響で幼いころから小説や芝居に親しんでいたため、作品にはしばしば文学・小説や芝居をテーマにした作品が登場する点も特徴です。
例えば《一葉女史の墓》(写真右)は、清方が小説家・樋口一葉のファンだったことから生まれた作品。描かれている女性は一葉の代表作であり、清方が特に愛読していた『たけくらべ』の主人公・美登利です。清方はよく美登利を好んで描いていたそうで、他の展示品にも美登利が登場する作品があります。

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清方は小説の挿絵から画家として活動を始めたこともあり、懇意にしていた小説家も多かったそうです。そのひとりが、泉鏡花でした。清方は10代のころから泉鏡花の文学に魅了され、彼の小説の挿絵を描くことを目標に研鑽を積んだそうです。
後に清方は念願叶って鏡花の単行本の表紙や装丁を手掛けることになりますが、その際対面した鏡花とたちまち意気投合し、交友は生涯のものとなりました。

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展覧会には、清方が鏡花作品を題材にした絵も展示されているほか、後年、清方の下を鏡花が訪ねてきた場面を思い出して描いた作品(写真手前)も展示されています。

芝居を描いた作品も、挿絵の経験が生かされているのか、場面の抜き出し方が絶妙かつストーリー性がしっかり感じられます。観劇中は舞台の写真を撮ることはできないので、その分自分の目にした芝居の感動を絵になんとか描き留めようとしたのでしょう。今も映画や舞台を見た後に感想をSNS等で共有することは多々ありますが、それと通じるものを感じました。

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特にユニークな作品が、この歌舞伎の「京鹿子娘道成寺」を題材にした連作です。この演目の見どころは主役の女形の衣裳変化。所謂変化物といわれる、舞う最中に次々と衣裳を変化させる演出を、清方はまるでフィルムのコマ送りのように描くことで見事に絵に落とし込んでいます。絵を通じて再現された芝居を見ているようでした。

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その他にも、夏の間別荘で過ごした際の日々を描いた絵日記も。お祭りの様子や、家族と出かけた海水浴(なんと当時の水着姿も!)などが即興的な軽いタッチで描かれていて、こちらも見て楽しい作品です。


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全体の割合とすれば確かに「美人画」的な女性像の作品も多かったのですが、テーマが街の人々の暮らしや風景であったり、文学や芝居など日常に息づく楽しみの一端であったりと、鏑木清方という人が見た「近代の人々の暮らし」を絵にしたためたアルバムを見ているような、そんな感覚を味わいました。

また、清方はしばしば上村松園と比較されますが、同じ「美しい女性」をモチーフにしていても、松園は女性の姿そのものがテーマになっているところ、清方は物語や暮らし、街の空気を女性の"形を借りて"描いている、題材の内にあるものが異なっている、そんな印象を受けました。人物を描くことの意味、奥深さを知る展覧会でもありました。

ちょうど、コレクション・ルームでは松園をはじめ同時代の日本画家による作品美人画も紹介されています。生涯ただ一度、清方が関西を訪れた際に交流を持った画家たちの作品など、見比べるとより楽しめる作品が並んでいるので、こちらも併せて見ておきたいところです。

展覧会の開催は7/10(日)まで。

没後50年 鏑木清方展(京都国立近代美術館)

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