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【レポ】生誕100年記念 小泉淳作展(建仁寺 本坊・禅居庵)

2024/08/28

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建仁寺の法堂の大天井を飾る《双龍図》。
お寺の天井に描かれた龍は数あれど、珍しい二頭の龍が睨み合う非常にダイナミックな構図の天井画です。
これを描いた画家、小泉淳作の回顧展が、同じ建仁寺の本坊と塔頭・禅居庵の2会場で9/23まで開催されています。

あの勇壮な天井画の作者は他にどんな作品を描いていたのでしょうか?
展示の様子をご紹介します。

※この記事は2024年7月の取材内容に基づきます。

小泉淳作とは

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小泉淳作は、戦後~平成の時期に活躍した日本画家です。初期は西洋画、その後中国絵画の要素を取り入れ、描く対象の徹底的な観察に基づく写実性と力強さを感じさせる独自の画風を確立。1990年代からは建仁寺をはじめ、各地の寺院の天井画や障壁画などの大作を手掛けました。画壇から距離を置き、特定の美術団体に属さずに活動していたことから「孤高の画家」とも称されました。今回の展覧会では、約70年に渡る画業を初期から晩年までの代表作で紹介しています。

画家の「自分の絵」を探し求める姿を追う:禅居庵

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建仁寺の敷地内の端にある塔頭・禅居庵会場では、小泉淳作の作品から、主に小品を中心に時系列順に展示。画家がどのように画風を確立していったのか、どんな絵を描く人だったのかを概観することができます。

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小泉さんが画家として歩みを始めた時代はちょうど、戦後の新しい日本画表現を求めて若い画家たちが新しいグループを作ったり、「新時代の絵」を求める風潮が強い時代でした。小泉さんも自分らしい、新しい時代の絵を求めて試行錯誤をしていました。

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初期の作品は、筆遣いも荒々しく日本画というよりも西洋画寄りです。実は小泉さんは東京美術学校で学んでいた頃、ルオーやマティスなどフォービスムの絵画に強く影響を受けていました。しかし小泉さんの画風はなかなか評価されず、大学卒業後はデザイナーの仕事をしながら絵を描いていたといいます。それでも小泉さんは「自分らしい絵」を追求し続けました。

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転機となったのは4,50代になってから。この頃小泉さんは中国の宋元時代の水墨画に出会い、そのスタイルを作品に取り入れます。小泉さんにとって中国の水墨画は「自然が発する気(エネルギー)をとらえ、それをリアルに絵に落とし込む」表現。これにフォービスムから学んだ力強くエネルギッシュな表現が合わさり、小泉さんは鬼気迫るほどの緻密な書き込みと力強い筆致を両立させた独自の画風を確立していきました。

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よく登場する蕪(かぶ)や冬瓜(とうがん)などの野菜は、小泉さんが好んだモチーフ。
なかでも多いのが蕪。どれも髭根までしっかりと描かれています!つるりとしているようでしていない、この根の表現が表情や個性を与えており、同じモチーフでも違った顔に見えてきます。それぞれ見比べて楽しめますよ。

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また、小泉さんの緻密な筆致をじっくり堪能できるのが草花の図。葉脈や葉のしおれ具合、生命感まで描き出すその描写力に驚かされます。

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かと思えば、こんなカワイイ猫や虎の赤ちゃんの絵も!力強い線と毛の一本一本まで気を配った緻密な描写はそのままに、小泉さんの表現の幅広さが感じられます。

画家が魂を込めた超大作を空間で体感:本坊

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建仁寺本坊の会場では、小泉淳作の代名詞ともいえる寺院へ奉納した障壁画や、屏風などの大作を中心に紹介されています。小泉さんは1990年代末から2000年代にかけ、故郷の鎌倉、京都、奈良と各地の寺院のためにさまざまな絵画を制作、奉納しました。建仁寺法堂の《双龍図》もそのひとつで、今回の展示もそのご縁あって実現したものです。

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本坊内では、力強い山水画や生命感に溢れる桜の図などが、建物の設えの一部のように展示されています。中庭との共演も楽しめますよ。

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最大の見どころのひとつが、今回の展示のために特別に奈良から移設して公開されている、東大寺本坊襖絵!2006年に小泉さんが東大寺に奉納された全40面に及ぶ大作です。本展ではその中から、本展では《蓮池》16面と《しだれ桜》4面、計20面が出品されています。

お寺での展示なので、ガラスケース越しではなく、本来の襖絵としての姿をそのまま見せていただけるのがポイント。《蓮池》は廊下の端から端まで蓮が続き、まさに実物大の蓮池のようです。お寺の建物空間だからこその演出が味わえます。

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金泥一色の背景は奥行と蓮池の水面が境目なく溶け合っているかのよう。絵を眺めながら移動していくと、ちょうど蓮池の淵を散歩しているような感覚に。一瞬、屋内であることを忘れてしまいそうです。

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本坊会場での展示は、建仁寺の夏の夜間拝観イベント「ZEN NIGHT WALK KYOTO」の会場にもなっており、夜には夜間ならではの音や光の演出もともに味わえるようになっています。
日中は鑑賞が難しい方も、夜に訪れてみるのもいいですね。(禅居庵会場は日中のみです)


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《双龍図》は見たことがあったけれど、意外と知らなかったその作者。
他の作品を改めてみると、勇壮な《双龍図》のイメージとはまた違う、力強くも繊細で緻密な世界と絵に一途に向き合った人のエネルギーが感じられました。
お寺という空間だからこその展示もあり、新鮮な気持ちで楽しめる展覧会です。
会期は9/23まで。お寺で見る展覧会ならではの面白さを体感してみてはいかがでしょうか?

生誕100年記念 小泉淳作展(建仁寺 本坊・禅居庵)の詳細はこちら

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