【レポ】特別展では見られない《法然上人絵伝》のレア場面先行公開も!京博2024年夏の名品ギャラリー
秋の特別展では見られない!
国宝《法然上人絵伝》レア場面先行公開!
特別展「法然と極楽浄土」の記者発表会、関係者フォトセッション風景
京都国立博物館の秋の特別展は、「法然と極楽浄土」。
鎌倉時代、高僧のように厳しい修行を積むことができない一般の人々でも、身分も性別も関係なく「ひたすら念仏(南無阿弥陀仏)を称えれば阿弥陀様の救いを受けられる」と説き、それまでの日本の仏教の常識を覆すいわばブレイクスルー的存在となった法然上人と、彼の開いた浄土宗の歴史を取り上げた展覧会です。
東京国立博物館・京都国立博物館・九州国立博物館の3会場巡回展で、最初の会場である東京展は2024年6月に会期が終了しました。
巡回展ではありますが、展示内容は各会場のご当地色が反映されたものになっていて、違いも楽しめるようになっているとか。特に京都は法然上人が生涯で一番長い時間を過ごした最大の活動拠点であり、現在も総本山の知恩院をはじめ、京都市内やその周辺には浄土宗各派の大きなお寺が多数あります。そんなこともあり、展示件数も3会場の中でも最大ボリューム!かつ京都の外には持ち出しが難しい品も京都限定展示として多数追加される予定だそうです。
京都展の開催は10月から。これに先駆けたプレ企画として、なんと知恩院秘蔵の国宝《法然上人絵伝》(法然上人行状絵図)の一部が、夏の名品ギャラリーの一部として一足早く先行公開されています!(2階1展示室)
国宝「法然上人絵伝」Ⅰ展示風景(京都国立博物館)
国宝《法然上人絵伝》は、法然上人の生涯を描いた伝記絵巻の決定版ともいえる作品で、全48巻に渡る大作です。特別展でも展示が予定されていますが、プレ企画で公開されるのは特別展では展示されない巻。つまり特別展に行っても目に出来ない巻なのです!しかも今回はこれまであった展示でもほとんど公開の機会がなかったという所謂"レア場面"がピックアップされています。
国宝「法然上人絵伝」Ⅰ展示風景(京都国立博物館)
紹介されている場面は、法然上人が幼少期、お寺に入ることになり家族と別れを惜しむ場面や、お寺に向かう途中で出会った貴族と問答を繰り広げる場面、浄土宗を開き多くの弟子や教えを請う人々に庵で囲まれている様子を描いた場面などが色鮮やかに描かれています。
法然の庵を訪ねてきた人々を描いた場面には、男性も女性も老いも若きも僧侶も公家も武家も庶民もいて、とにかくバラエティ豊か!法然上人が多くの人に慕われたことが伝わってきます。着物の細かな描写や人々のちょっとコミカルな表情にも注目です。
ゆっくりじっくり観覧されたい方は、ぜひ夏の間に。
※国宝「法然上人絵伝」Ⅰは7/28(日)までの開催です。
※続けて 国宝「法然上人絵伝」Ⅱが7/30(火)~9/8(日)に開催されます(展示される巻・場面は変わります)
名品ギャラリーも見どころ満載!
豊臣秀次公430回忌 特集展示「豊臣秀次と瑞泉寺」
豊臣秀次公430回忌 特集展示「豊臣秀次と瑞泉寺」展示風景(京都国立博物館)
夏の名品ギャラリーの目玉展示のひとつは「豊臣秀次と瑞泉寺」(1階2~4展示室)。ちょうど2024年は、豊臣秀吉の甥の豊臣秀次が、秀吉に謀反の疑いをかけられ自刃するという悲劇的な最期を遂げてから430年の節目にあたります。これを機に、彼や一族の菩提を弔う瑞泉寺の所蔵品をまとまった形で紹介している展覧会です。
秀次の死に際しては、秀次の妻や子供たち、乳母や侍女にいたるまで39人も連座で公開処刑されたとされ、展覧会では秀次を含めた一族や家臣たちを描いた肖像画や、事件の顛末を描いた絵巻類などが紹介されています。
豊臣秀次公430回忌 特集展示「豊臣秀次と瑞泉寺」展示風景(京都国立博物館)
見どころの一つは、秀次に連座して処刑されてしまった妻子たちの‟辞世の和歌"を掛軸にしたもの。どれも安土桃山~江戸初期の女性の着物の生地を用いた表具が特徴で、絞染めに綴れ織り、刺繍などが惜しげもなく使われ、まさに絢爛豪華。あまりの美しさから、後に「瑞泉寺裂」と呼ばれて貴ばれたといいます。
この「瑞泉寺裂」は亡くなった女性達が使っていた着物を再利用したもの、と伝えられているそうですが、調査によると江戸時代初期のものであると考えられ、瑞泉寺を建てた京都の商人・角倉了以らがお寺に寄進した着物を使ったのではないか、という説もあるとか。事件に巻き込まれて命を落とした女性たちに、せめて美しい着物を添わせたい、という弔いの想いが込められているのかもしれません。
これだけまとまってじっくり見られる機会は少ないので、こちらもぜひ今のうちに。(開催は8/4まで)
▼豊臣秀次公430回忌 特集展示「豊臣秀次と瑞泉寺」(京都国立博物館)の詳細はこちら
修理完成記念 特別公開「重要文化財 縹糸威胴丸」
修理完成記念 特別公開「重要文化財 縹糸威胴丸」「文化財修理の最先端 金属工芸」展示風景(京都国立博物館)
「秀次と瑞泉寺」展に続いて1階5展示室では、修理を終えたばかりの重文《縹糸威胴丸》の特別公開と、あわせて「文化財修理の最先端 金属工芸」として、さまざまな時代の刀剣や修理が行われた甲冑類が紹介され、金工品の文化財修理に注目した展示になっています。
《縹糸威胴丸》は、「平家物語」に登場する源氏方の弓の名手・那須与一の一族に伝わったという由緒ある甲冑。
詳しい解説が掲載された特製リーフレットも併せて配布されているので、これを片手にどこを直したのか見比べながら鑑賞できるようになっています。今回修理が行われた箇所にはピンスポットライトが当てられているそうで、ライトの位置を頼りに探すと見つけやすいですよ。
日本の甲冑は金属はもちろん、糸や布、革や漆などさまざまな素材が使われているので、修理も一段と複雑になります。文化財を次世代に伝えていく修理の大切さに、この機会に触れてみてはいかがでしょうか。
修理完成記念 特別公開「重要文化財 縹糸威胴丸」「文化財修理の最先端 金属工芸」展示風景(京都国立博物館)
また、あわせて展示されている金工品にも面白い展示品が。こちらの長刀は、茎(なかご/持ち手部分)の途中から金属の色が変わっているように見えます。これは「短くなった茎に金属を継ぎ足して長くした」ものなのだそう!刀のサイズを切り詰めて小さくするだけでなく、逆に長くすることもできるとは。ちょっと珍しい一品です。また、隣の香炉は表面の文字が肉眼ではほとんど見えない状態になっていたところ、高精細のスキャナーにかけることで発見されたというもの。最新の研究成果にも触れることができます。
開催は8/4まで。
▼修理完成記念 特別公開「重要文化財 縹糸威胴丸(はなだいとおどしどうまる)」の詳細はこちら
その他の見どころ
他にも、夏の名品ギャラリーのには興味深い展示が色々!各部屋で個性ある展示が楽しめます。
「京都の狩野派―狩野山雪」展示風景(京都国立博物館)
重文《蘭亭曲水図屏風》狩野山雪筆 京都・随心院蔵
近世絵画のコーナー(2階4展示室)では、「京都の狩野派―狩野山雪」と題し、江戸時代の京都で活躍した狩野山雪の作品を紹介。日本最初の絵画論・絵画史書とされる『本朝画史』の著者でもあり学者肌だったという山雪。その作風は理知的で明快、同時にちょっとエキセントリックで個性的。特に岩の描き方はどれもなんだか不思議な形で、自然にあるものというよりは彫刻作品のような造形です。また、人物や樹木、建物の配置構成も全体のバランスが計算されていてグラフィック・デザインのようにも見えてきます。
「埴輪(はにわ)の人物と動物」展示風景(京都国立博物館)
3階の考古のコーナーでは「埴輪(はにわ)の人物と動物」として、近年人気が高まっている埴輪の魅力を紹介する展示が。武具を装備した兵士から、馬や鳥などさまざまな埴輪が紹介されています。
他にも、焼物のコーナーでは茶道具(特に茶入)の特集、中国絵画では江戸時代の長崎で活躍した中国人画家たちの作品など、各展示室ごとに個性ある展示が行われています。
特別展が始まる「合間」の時期に行われる名品ギャラリー(収蔵品展)ですが、こういう時だからこそ見られるちょっとユニークなものが紹介されていたり、展示を企画した研究員さんの個性や推し作品が垣間見れたりと、見どころは満載です!また、さらっと重要文化財や国宝級の作品が出てくるところも、国立博物館の面白さ。
空調も効いていて夏の暑さをしのぐスポットとしてもおすすめです。お出かけの際は少し足を延ばして訪れてみてはいかがでしょうか?
※各展示はそれぞれ会期が異なります。来館の際はあらかじめ期間をご確認ください。