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【レポ】KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023-BORDER-

2023/04/19

KYOTOGRAPHIE レポート
街を散策しながら、ARTに出会う京都の初夏

すっかり毎年の恒例行事となった「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。今年も京都で遊ぼうARTのスタッフが、実際に街歩きをしながら会場巡りを行いました。各会場のレポートとともに、バーチャル街歩きをお楽しみください!

今回は、最も多くの会場が集中している烏丸御池駅周辺のエリアを中心に巡ってみました。

インフォメーション町家

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この日はお昼過ぎ、14時頃からスタート。

まずはインフォメーションとなっている「八竹庵」からスタート。
こちらでパスポートチケットの購入の他、関連グッズや参加アーティストの書籍を購入したり、会場や周辺の巡り方も案内してもらえます。
建物前に駐輪スペースがあるので、自転車でお越しの方はこちらに一旦止めて近くの会場は歩いてまわっても。(街中は以外と駐輪スペースが少ないです)
レンタサイクルも利用されたい方は受付で申込できます。
この八竹庵の中でも、複数の展覧会が開催されているのでお忘れなく!

松村和彦「心の糸」

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八竹庵の2階を利用して展示されているのが、メインプログラムのひとつ、松村和彦さんの展覧会「心の糸」。認知症をテーマにした作品で、4つの部屋それぞれにインスタレーション形式で作品が展開されています。

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最初の部屋では、認知症の感覚を空間で体験できる構成になっています。バラバラになった思い出のかけら、4までしか数えられない声、消えていく家族写真...認知症当事者や家族の言葉と相まって、わからなくなることの怖さ、家族の戸惑いがリアルな感覚として伝わってきます。

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次の部屋からは最初の部屋に登場した3組の認知症当事者と家族の物語が展開します。徘徊で行方不明になり、かつて妻と暮らした家の近くで見つかった人。働き盛りで若年性アルツハイマーになった人。認知症で自分を夫と認識しない妻を介護し寄り添った人。

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それぞれの物語を見ていると、認知症の人が見ている世界は単純に不幸とはいえない、皆それぞれに懸命に自分の世界、自分の時間、自分の記憶を生き、感情を持っていることに気づかされます。そして、人と人の繋がりそのものが失われるわけではないと。

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偶然、会場でお会いできた作者の松村さんは「直接でなくても、記憶や思い出、想像、色んなものを通して人間は対話ができる生き物なんだと(取材を通じて)教えてもらいました」と仰っていました。

例え自分自身が当事者でなくても、写真を通じてその心に触れることができる。写真の持つ力を感じる展覧会でした。

石内都・頭山ゆう紀「透過する窓辺」

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続いて、八竹庵から徒歩5分ほど。風格ある建物が印象的な歴史ある帯屋さん・誉田屋源兵衛さんへ。ここでは2つの展覧会を見ることができます。

ひとつは、竹院の間で開催されている石内都さん・頭山ゆう紀さんの二人展「透過する窓辺」です。

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ここでは、展示空間が主に3部屋に分かれていることを利用し、両端の部屋(無地の色壁)は個別の展示エリア、そして中間にある広間(グレーの色壁)は双方の作品を一緒に展示したコラボレーションエリアとなっています。

グレーの壁は、実は頭山さんの撮影した風景写真を引き伸ばして背景にしたもので「写真の上に写真を重ねて展示する」という、石内さん発案の試みです。

石内さんの作品は亡くなった母の遺品をモチーフとした連作で、頭山さんの作品は背景に祖母と母の死があります。世代の違う二人の作家による、作品テーマの共通性、3人の異なる女性の死が重なり合っている様子を、空間全体で表現しています。

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階段の踊り場に飾られた着物の写真は、日本家屋の空間とのマッチングを意識して石内さんが今回特別に用意したもの(元々ベネチア・ビエンナーレのために日本らしいモチーフとしてプリントしたそうです)
普通の展示会場でないからこその展示が楽しめるのはKYOTOGRAPHIEならでは!

山内悠「自然 JINEN」

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続いて、奥にある黒蔵で開催されている山内悠さんの「自然 JINEN」へ。縦長の筒状という変わった建物構造を存分に生かしたインスタレーションになっています。

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最初の部屋は大きな樹々が迎えてくれる明るい森の入口。そこから階段を上ると、今度は真っ暗闇の中に岩場や木々が星あかりに照らされて浮かび上がってきます。

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まるで鬱蒼とした暗い森の中を本当にさまよっているかのよう。細い螺旋階段を上った先に開けた明るい空間と山頂の風景を見たときの開放感!

制作にあたって、屋久島の深い森の中で約1ヶ月間過ごす体験を9年間にわたって続けたという山内さん。その感覚や心理を展示を通して鑑賞者も追体験できる、これぞ「展覧会に行かなければ味わえない」作品でした。

※途中の通路が細いので、できれば手で持たないといけない荷物は受付で預けて入ることをおすすめします。

世界報道写真展
レジリエンス-変化を呼び覚ます女性たちの物語

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そこからまた歩いて5分ほど、京都芸術センターへ。

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ここでは世界報道写真コンテストの2000~2001年度受賞作品から、特に女性の人権問題や挑戦に関するトピックをとりあげた作品をピックアップして展示しています。

雑誌や新聞の紙面風に仕立てられた作品には、被写体となった女性の名前や、取り上げられたトピックの解説、そして端々に問いかけが添えられています。中でも「写真に対する文章の力は強い。解説文を読んで、印象が変わりましたか?」の問いには、思わずドキリとさせられました。

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何も解説なく、名前もなく写真を見せられたときと解説を見た上で写真を見たとき、当事者意識には明確に差があるように感じます。ただイメージだけでなくその向こうにあるもの。ストーリーを明確にされることでその写真の持つ影響力は段違いになるのです。

京都芸術センターでは、別の部屋でサテライトイベント「KG+」の展覧会「KG+SELECT」も開催中。3名の作家の作品が見られるので、お時間ある方はこちらも併せてチェックを。喫茶室もあるので、一休みにもおすすめです。

パオロ・ウッズ&アルノー・ロベール
「Happy Pills」

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京都芸術センターから少し道を戻り、徒歩10分ほど。新町通のくろちく万蔵ビル内へ。一見普通のオフィスビルなので「ここが会場?」と入口を見逃しそうになりますが、赤い幟を目印に。エレベーターで階を上がったところに「Happy Pills」の展示スペースがあります。

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「Happy Pills」は、国際ジャーナリストと報道写真家のコンビによる、世界の薬を巡る諸問題にフォーカスしたドキュメンタリー作品です。
会場内の写真はとにかくカラフルでポップ!しかしそのビジュアルとは裏腹に、内容はとても深刻です。

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スイスの美しい観光名所のビジュアルに囲まれた鬱病の人(スイス人は山深い環境のせいか鬱病になって薬の世話になる人が世界的にも多いそうです)、ADHDと診断されたため薬を常飲している元気なチアガール、良い筋肉を作るために薬漬けになっているインドのボディビルダー、難病の子供を救うための世界一高い特効薬(もちろん買えない人は助からない)...

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メインビジュアルにもなっているのは、中南米・ハイチの薬売り。まるでオブジェのような薬の山を持ち歩いていますが、ハイチでは薬の販売免許が存在しないため、皆薬剤師でもなんでもなく、なんの薬を売っているのかわかってないのだそう。それでも体調不良や日常の苦しみを相談してくる人はいて、その対価として薬を処方しているといいます。

床一面に敷き詰められた薬の写真やクシャクシャ音を立てるパックのごみも胸に来ます。
薬を使わないと人は幸せになれないのか?薬ってなんのためのものだっけ?そんな問を突きつけられます。

マベル・ポブレット「WHERE OCEANS MEET」

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この時点で16時半過ぎ。ちょっと時間が押してきてしまったので、遅くまでオープンしている京都文化博物館別館に向かうことにしました。徒歩10分ほどです。

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京都文化博物館別館で開催されているのは、キューバの女性アーティスト、マベル・ポブレットの「WHERE OCEANS MEET」。島国キューバの人には(そして日本人にも)身近な海や水をテーマとした展覧会です。

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一見、インスタ映えしそうなキラキラした作品(実際とても見栄えがするし、写真の撮りがいがあります!)なのですが、二階の映像展示で彼女の語る海や水のイメージを聞くと、作品が違う印象に見えてきます。

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彼女が目を向けていたのはキューバにとって大きな問題である移民問題。これまでキューバでは沢山の人が小舟にすし詰めに乗ってアメリカやメキシコ、周辺の国に出ていってしまっているそう。そして途中で海の藻屑になった人も多いのです。
海や水は時として人を運び結びつけるが、国と国を隔て、時には人の命を奪ってしまう―彼女はそんな海や水の相反する側面に目を向けています。

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一点一点手造されたパーツで立体的に細分化された写真は水面に写っているようでもあり、水の粒に分解されているようにも見えてきます。海の色のようなキャンバスに無数につけられた花のパーツは、海で亡くなった沢山の人たちへのはなむけ。

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そして水面のようにキラキラ輝く鏡のモビールによる柱は、よく見ると全て海を映した写真の欠片で、その中に一つだけ移民船らしきボートの写真を見つけました。今にも周囲の大海に飲まれそうな小さなボートに、胸がつぶれそうな思いがします。

美しくもあり恐ろしくもある海や水、その内包する様々なものを、こちらに語りかけてくるような作品でした。


ここで18時になったため、この日のセルフツアーは終了!
4,5時間で7か所も徒歩で巡ることができました。烏丸御池エリア周辺の会場間は最大10分程度の範囲に集まっているので、本当に散歩感覚で会場巡りが楽しめますよ。
ちょっと行ってみようかな?とお考えの方の参考になれば幸いです。

開催は5月14日まで。GW中のおでかけにも如何でしょうか?

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023「BORDER」

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