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【レポ】開館60周年記念 京都画壇の青春 栖鳳・松園につづく新世代たち(京都国立近代美術館)

2023/11/29

kyotogadan-seishun_repo(3).jpg京都市京セラ美術館では竹内栖鳳の展覧会を開催していますが、その向かいにある京都国立近代美術館では、栖鳳と彼が育てた数多くの弟子たちの活動に焦点を当てた展覧会 開館60周年記念「京都画壇の青春 栖鳳・松園につづく新世代たち」が開催されています。

竹内栖鳳は自身も京都画壇の第一線で活躍しながら、後進の育成にも積極的に取り組んだ人でした。
彼のもとからは上村松園をはじめ、土田麦僊や徳岡神泉、小野竹喬、岡本神草など、後の京都画壇を代表する数多くの実力派画家たちが輩出されました。

ざっと挙げただけでも錚々たるメンバーですが、この展覧会の特徴は、あえて最盛期・円熟期と呼ばれる時期ではなく、画家たちの若年期・青年期、いわゆるまだ未熟さのある時代にスポットを当てているところ。栖鳳の弟子たちを中心に、京都画壇の画家たちの若き日故の過剰さと繊細さを作品を通じて紹介しようというコンセプトになっています。
師・栖鳳のもとで自分らしさを確立しようともがいていた時期、"青春"の時代ならではの面白さが味わえる展覧会です。

※この記事は10月の取材時の内容を基にしています。観覧時期により内容が異なる場合がありますのであらかじめご了承ください。

有名画家も最初は未熟。絵で辿る、京都画壇の画家たちの汗と涙の"青春"時代。

kyotogadan-seishun_repo(4).jpg土田麦僊《海女》大正2年(1913)京都国立近代美術館蔵

この展覧会では、各画家が自分らしい表現、新しい日本画を目指す若き日の葛藤する姿が感じられる絵が意識的に選ばれています。そのひとりが、土田麦僊。若き日の麦僊は、それまでの日本画の常識を打ち破ろうと新しい表現を積極的に試みていました。
そんな麦僊の苦労がよく伝わってくる作品がこちらの《海女》。麦僊はこの絵で、日本画の絵具を油彩画のように塗り重ね、新しい表現ができないか試みたそう。しかし日本画の絵具は油彩の絵具とは異なり厚塗りには向かなかったため、画面から剥落してしまいました。背景の砂山や地面に、その痕跡が残ります。他にもこの絵具の剥落痕が見られる作品が展示されており、麦僊が何度も挑戦していたことが伝わってきます。

kyotogadann-seishun_repo(5).jpg開館60周年記念「京都画壇の青春 栖鳳・松園につづく新世代たち」(京都国立近代美術館)展示風景
左:土田麦僊《大原女》昭和2年(1927)/中:土田麦僊《舞妓林泉》大正13年(1924)/右:入江波光《摘草》昭和3年(1928)
全て京都国立近代美術館蔵

展覧会の後半に登場する青年期の麦僊の代表作《舞妓林泉》や《大原女》を見ると、自分の絵の方向性を確立するに至った麦僊の苦労に思いを馳せて、つい感慨深い気持ちになりました。絵を見る時は画家たちの思考を考えながら見てみると、より深く絵を味わえそうです。

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左:中村大三郎《灯》大正8年(1919)頃 京都国立近代美術館蔵
中:稲垣仲静《太夫》大正8年(1919)頃 京都国立近代美術館蔵
右:徳岡神泉《狂女》大正8年(1919)頃 東京国立近代美術館蔵

また、時期によって別人レベルに画風や描くモチーフの方向が変化する画家の作品もあり「こんなに変わったのか!」「本当に同じ人の作品?」と驚かされるものも。徳岡神泉は、花などの静物画の印象が強かったのですが、《狂女》では鋭い眼光と生気のない肌色の年配女性がこちらを見つめる凄みのある姿に思わず足が止まります。
仏画で知られる村上華岳も、浮世絵のような花見を楽しむ大衆を画面いっぱいに描いた群像画作品が展示されており、「こんな絵も描いていたのか」と驚かされました。
あの有名画家の意外な一面や、時代を経ての大きな変化具合や表現の幅が味わえるのも、若年期の作品ならではかもしれません。

kyotogadan-seishun_repo(5).jpg開館60周年記念「京都画壇の青春 栖鳳・松園につづく新世代たち」(京都国立近代美術館)展示風景
右:岡本神草《拳を打てる三人の舞妓の習作》大正9年(1920)京都国立近代美術館蔵

他にも、岡本神草の《口紅》《拳を打てる三人の舞妓の習作》、甲斐荘楠音の《秋心》(前期)《横櫛》(後期)といった、今年京都で開催された展覧会でピックアップされ話題となった個性派画家たちの作品も登場しています。以前の展覧会で見損ねた!またもう一度会いたい!という方も要チェックです。

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明治に入り近代化の波が押し寄せる中、京都の画壇はそれまでの画家の師弟関係や画塾では「師匠や流派のを描き方を受け継いでいく」方向性が主体となっていましたが、栖鳳の弟子たちに対する姿勢はむしろ自由や個性を尊重するものだったといいます。

栖鳳の弟子たちはいわゆる「尖った人」「問題児」も多く、目指す方向性の違いから衝突する人もいたそう。それは裏を返せば、自らの表現についての意識や個性をしっかり持つ画家が栖鳳のもとに集まっていたということでもありました。

kyotogadan-seishun_repo(1).jpg竹内栖鳳《若き家鴨》昭和12年(1937)京都国立近代美術館蔵

その栖鳳の眼差しがあらわれているとされるのが、展示のラストに登場する《若き家鴨》。色も大きさもさまざま、あっちを向いたりこっちを向いたり、個性豊かなアヒルたちが群れています。今回の展覧会においては、このアヒルたちは栖鳳の弟子をイメージしたものとしているそう。絵を見る鑑賞者の視点は、自由に動き回る家鴨=弟子たちを見守る師・栖鳳の視点にも重なります。

この絵が描かれたのは栖鳳の晩年近くで、当時は戦争が近づいた影響で絵画の表現に対する統制も厳しくなりつつあった時代。栖鳳は自由な表現を守ろうと抵抗を試みますが限界を感じていたといいます。
この絵は「自由で良い、個性豊かでいい、自分らしくあれ」と、栖鳳の弟子たちへの声にならない思いを託したものだったのかもしれません。

kyotogadan-seishun_repo(2).jpg京都国立近代美術館 4階コレクション・ルーム「『京都画壇の青春』展によせて」展示風景
(展示作品は観覧時期により写真と異なる場合があります)

同時期、4階のコレクション・ルームでは展覧会よりさらに以前、まだ絵を描き始めたばかりの"ひな鳥時代"の栖鳳の弟子たちの作品が紹介されています。
そして、京都市京セラ美術館では師匠・栖鳳の作品を集めた展覧会が開催中。ちなみにこれは京近美・京都市京セラ美双方で打ち合わせてのことではなく、本当にたまたまタイミングが同時期になったそうで、企画担当の学芸員さんから見ても「大変幸運」とのこと。両方はしごして見ればより味わい深くなること間違いなしです!
この機会に、近代京都の日本画壇の世界に浸ってみませんか?

開館60周年記念「京都画壇の青春 栖鳳・松園につづく新世代たち」は12/10までの開催です。

開館60周年記念「京都画壇の青春 栖鳳・松園につづく新世代たち」(京都国立近代美術館/~12/10)

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