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【レポ】松尾大社展 みやこの西の守護神(京都文化博物館)

2024/06/06

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松尾大社(まつのおたいしゃ)をご存じでしょうか?京都の西、桂川を越えたところにある、なんと飛鳥時代創建、1,300年もの歴史を持つ京都でも特に古い神社です。平安時代以降は都の守護神のひとつとして崇められ、現在では「お酒の神様」としても京都のみならず全国各地の酒蔵さんから崇敬を集めています。

そんな松尾大社に伝えられてきた知られざる神宝・文化財の数々を一挙公開しよう!という展覧会が「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)です。松尾大社の所蔵品をまとまった数で一般に公開するのはこれがはじめてのこと。その展示の様子や見どころをご紹介します!

※この記事は2024年4月の取材内容に基づきます。観覧時期により展示内容が異なっている場合がございます。予めご了承ください。

松尾大社ってこんなところ!

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景

松尾大社は四条通の西の端、嵐山より少し南側の松尾山の麓に位置します。
もとは松尾山にある「磐座(いわくら)」と呼ばれる大きな岩場を神様として信仰していたところ、701年に以前からこの地に暮らしていた秦氏が朝廷から命じられ、麓に神社を建てて祀ったのが始まりだそう。その後794年に平安京が作られると、みやこの西側を守る守護神とされ、大切にされてきました。清少納言も『枕草子』のなかで「神は松の尾」と松尾大社参拝のことを書いており、当時からみやこの人々にはお馴染みの、親しみのある神社だったようです。

また、松尾大社を建てた秦氏は元々朝鮮半島からやってきた渡来人の一族で酒造技術も会得しており、酒造りを世に広めたともいわれます。松尾大社の土地は酒造りに大切な湧き水にも恵まれており、一夜のうちに神様が酒を造ったという神話もあるそう。この由縁から松尾大社は「酒の神」としても全国に知られています。

第一章は、松尾大社の沿革や境内の様子など、松尾大社について紹介する資料が展示されています。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
《洛外図屏風》江戸時代(17世紀)福田美術館蔵
写真の中心部、パネルが置かれている折り目付近に松尾大社が描かれています。

冒頭の見どころは、《洛外図屏風》(福田美術館蔵)。京都の市中の名所や街の様子を描いた「洛中洛外図」のように、洛外の名所を空から見下ろす視点で描いたちょっと珍しい作品です。松尾大社は左隻の中心に描かれています。絵の中心に置かれるということは「描かれた地域(洛西)の中心的存在」と認識されていたことを示しています。
他にも《京名所絵巻》や《洛中洛外図屏風》など、松尾大社が登場する作品が並びますが、どれも必ず松尾大社は背後の松尾山とセットで描かれてるのが特徴。山との結びつきを強く感じさせます。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
右が《亀牛玉宝印版木》江戸時代(17世紀)松尾大社蔵。左はその版木と同じ柄を実際に用いた起請文。

こちらは神様に誓うことで約束内容を保証する、起請文に使われた印判。神様の認印のようなものです。なんと松尾大社の印判は亀の姿!これは松尾大社の神様の使いが亀とされているためなのだそう。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
《酒銘屏風》現代 松尾大社蔵
フォトスポットにもなっている、全国の酒蔵から松尾大社に奉納されたお酒のラベルを貼り混ぜた屏風。
京都はもちろん、全国各地の銘柄が並ぶところが凄いところ。知っているお酒を探してみるのもいいかも?

他にも奉納された刀や歴代の神主さんが記録した日誌、お酒を奉納した全国の酒蔵さんの番付表やお酒のラベルを張り混ぜた屏風など、ユニークなものが多数。長い歴史と共に信仰を通じた人々との距離の近さも感じられます。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
松尾大社の高精細3D映像より、松尾大社の境内部分。

もう一つの見どころが、現在の松尾大社の姿を記録・再現した3D映像。最新の測量技術とドローンを用い、木々の葉ひとつひとつまでミリ単位で計測した座標データを基に、松尾大社の境内や建物はもちろん、背後の松尾山までを立体的に映像化しています。コントローラーを使ってゲーム感覚で松尾大社の建物内を歩いたり、肉眼では難しい上空からの俯瞰視点で眺めたりでき、展覧会の会場でバーチャル参拝が楽しめます!昭和期に活躍した作庭家・重森美玲設計のユニークな形状の庭園や、普段は一般公開されていないエリアも見学可能ですよ。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
松尾大社の高精細3D映像、松尾山の「磐座」。
調査時は特別にここまでスタッフの方が赴いたそう。人間の大きさとも比較すると...大きい!

参道が塞がれているため現在参拝ができない、松尾大社の信仰の原典・松尾山の「磐座(いわくら)」の姿もバーチャルで拝めます!

あの人もこの人も!松尾大社の名品古文書コレクション

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
壁一面にずらりと並ぶ徳川将軍家歴代の松尾大社宛書状群。

第二章では、松尾大社とやり取りをしていた歴代の天下人に関する古文書を一挙紹介しています。
松尾大社の長い歴史の中で日本の政権を握る勢力や人物は数多く移り変わりましたが、松尾大社は都度彼らとやり取りをし、社領を安堵されてきました。その結果できあがったのが、源頼朝や足利尊氏、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康以下歴代の江戸幕府の将軍、その他歴史上の有名人の書がそろう古文書群。ずらりと並ぶ様子は圧巻です!

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
《織田信長朱印状》天正5年(1577)11月27日 松尾大社蔵
写真ではわかりにくいですが、龍が「天下布武」の文字を囲んでいます。

なかでも貴重なものが織田信長が松尾大社に宛てて出した社領安堵の朱印状。織田信長の代名詞「天下布武」の印が推されているのですが、二頭の龍をあしらったデザインの「天下布武」印は使用例が少なく大変珍しいものなのだそうです。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
左が《徳川綱吉朱印状》貞享2年(1685)6月11日、右が《徳川吉宗朱印状》享保3年(1718)7月11日(共に)松尾大社蔵

徳川将軍家歴代の朱印状は、書き方の変化や使っている紙の違いも見どころだそう。
特に5代将軍綱吉と6代将軍吉宗の間で大きな変化が見られるとのこと。吉宗は元々紀州家から養子に入った人なので、代々の将軍家の方法ではなく実家で使われていた方法で作らせた紙を書状に用いたため、質感が異なっているのだとか。こんなところでも歴史の変遷がわかるんですね!

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
《源頼朝書状》建久7年(1196)6月17日 松尾大社蔵

源頼朝の書状は別室で紹介されています。こちらは展覧会に際して行われた調査で頼朝の佑筆・平盛時の書であること、書かれた日付まで判明したそう。頼朝の書状でそこまできちんとわかるものはほとんどないため、非常に貴重な一品です。


現在進行形、松尾大社の神様と祭事

第3章・4章では松尾大社の神様や、祭事、信仰の面に注目しています。

第3章のテーマは祭事。祭事は神社の存在意義であり、地域の伝統文化そのものです。
松尾大社の凄いところは、1,300年間途切れることなく祭事を続けてきたこと。そのためには祭事の方法を記録して後世に伝えたり、行事や神社を維持のために所領をきちんと運営していく必要がありました。ここではそんな神社を支えた人々に関する資料が紹介されています。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
《松尾社三箇大神図》万治2年(1659)6月19日 松尾大社蔵
松尾大社で行われたさまざまな神事を描いた絵巻。
真ん中に描かれているのは「御田代神事」で、現在も右上の写真「御田祭」(7月開催)として受け継がれています。

史料のなかには現在の松尾大社のお祭りを伝える写真が添えられたものも。書かれている行事が今も脈々と受け継がれていることがわかります。松尾大社の氏子区域は洛西地域の大半が対象で、京都でも最大規模。熱心な氏子さんが現在も多く、神社を支え続けています。

第4章のテーマは信仰。松尾大社に祀られた神様や信仰のかたちを伝える神像などが紹介されています。

神像は、平安時代からの神仏習合の影響で作られるようになりましたが、松尾大社には全国的に見ても非常に多くの神像がまとまった数で残されているそうです。今回はそのなかでも選りすぐりの"選抜メンバー"が展示されています。

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景
左から:男神像(壮年)、男神像(老年)、女神像。いずれも重要文化財・平安時代(9世紀)/松尾大社蔵

展覧会のメインビジュアルにも使われている三神像(重文)は横並びに展示。個別公開はこれまでもあったそうですが、三体同時に見られる機会は久しぶりだそうです。若い男性・女性・老年の男性の姿で表され、同じ作者が同時期に作り奉納したものと考えられます。
男神は松尾大社の主祭神・大山咋神(おおやまくいのみこと)とその御子を表した父子像であるとか、神社を建てた秦氏のご先祖様の姿を模したとか、神像が誰を表している諸説あるそうですが、時代によって解釈が異なるため、はっきりとはわからないとのこと。謎の多さも魅力です。
(ちなみに元々三神像が安置されていたというお堂は、幕末に嵐山の法輪寺に移されて現存しているそうです)

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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景

松尾大社には境内の各摂社・末社にも神像が祀られていたそうで、今回は現在伝えられているなかから選ばれた5体(京都府指定文化財)も三神像と一緒に展示されています。松尾大社を信仰していた人々は、それぞれの社の神様に姿かたちを持ってもらいたいと願ったのかもしれません。


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「松尾大社展 みやこの西の守護神」(京都文化博物館)展示風景

名前は聞いたことがあったけれど、「お酒の神様」ということくらいしか知らなかった松尾大社。その宝物の数々を見ていると、地域と強く結びつき、時代の荒波を乗り越えて現代まで生き抜いてきた、逞しい社の歴史を感じることができました。まるでタイムカプセルを開けて見せてもらったような感覚で楽しめる展覧会です。
ちなみに松尾大社は電車・バスで30分もあれば京都文化博物館から向かうことができます。展示を見た後は実際の松尾大社に足を運んでみてはいかがでしょうか?展覧会で紹介されていた祭事も実際に見られるかも!

会期は6/23まで。

松尾大社展 みやこの西の守護神(京都文化博物館)

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