【レポ】日本博/紡ぐプロジェクト 特別展 「京(みやこ)の国宝―守り伝える日本のたから―」
京都国立博物館で開催中の 日本博/紡ぐプロジェクト 特別展 「京(みやこ)の国宝―守り伝える日本のたから―」。
元々は2020年、京都市京セラ美術館のリニューアルオープンに合わせて開催予定だったところ、新型コロナウイルス感染症拡大によるオープン延期の影響で止む無く中止に。それから一年の時を経て、場所を京都国立博物館に移してついに開催となったものです。
当初予定より展示スペースが大幅に拡大したこともあり、展示品の数は前後期合わせて120件(うち国宝は72件!)と大幅にボリュームアップ。一年という時間をかけて、より深くわかりやすく再構成されました。
国宝展はこれまでも開催されてきましたが、今回は普通の国宝展とは一味違う、ちょっと変わった切り口で紹介するユニークな内容となっています。
その展示の様子を簡単ですがご紹介します。
※この記事の内容は取材時(前期展示)を基にしています。時期により展示内容が変更となっている箇所がございます。予めご了承ください。
みやこの縁と、"たから"を守り伝えてきた人々の歴史に触れる。
特別展「京(みやこ)の国宝」の大きなテーマは、サブタイトルにもある「守り伝える日本のたから」。国宝そのものは勿論ですが、その品々を今に伝えてきた"守り伝える"ための取り組み、文化財保護の歴史も踏まえた内容となっています。
そのテーマを示しているのが、最初の展示室、第一章「京都―文化財の都市」です。
ここでは、京都と文化財の深いかかわりとともに、明治期の文化財保護のはじまり、そして文化財保護法により「国宝」が生まれるまでのあゆみが紹介されています。
なかでもユニークな展示品が古写真。ガラス乾板で撮影されたモノクロの写真(こちらも大変貴重)には、京都国立博物館内に現在も展示されている仏像や、東福寺の法堂を写した写真が見られます。明治に入り文化財保護の取り組みが始まった当初は、京都に数あるお寺や神社の所蔵品を確認し、記録調査や目録を作ったりする大変地道な作業から始まったそうです。
展示品の中に当時の文書資料もあるのですが、苦労がしのばれます...
他にも文化財保護法のベースになった古社寺保存法の原本など、文化財保護に関する重要な書類資料も。他ではなかなか見る機会がない、学芸員さんや研究者にとって一種のバイブルのようなものが並びます。
興味深いのが、展示品と一緒に置かれている文書です。
例えば、こちらは国宝「太刀 銘久国」(鎌倉時代・13世紀/文化庁蔵/通期展示)。そのすぐ近くにこんな文書があります。
これは「太刀 銘久国」の国宝指定書。昭和26年の日付になっています。
元々この太刀は戦前の法律に基づいて国宝に指定されていましたが(旧国宝)、戦後の新しい法律の下、改めて国宝に指定されました。昭和26年付で指定を受けている国宝は、いわば「戦後最初の国宝」といえます。他にも藤原道長の日記「御堂関白記 自筆本」などもこの時国宝指定をされています。
普段はまずお目にかかれないので、ぜひ「この文書が国宝指定されている証か...」と一緒にチェックしてみたい一品です。よく見ると紙の表面に模様が描かれていたり、凝った作りになっているところも見どころ。
次の第二章では、京都ゆかりの国宝が登場。
絵画や書、京都にゆかりのある人々に関する品などの考古歴史資料、彫刻、刀や密教法具、京都の有力な人々が寺社に収めるなどして各地に残した工芸品などが次々に登場します。
京都はもちろん、全国各地から集められており、京都に関連する品はこんなに全国にあるのかと驚かされます。
後半の第三章は「皇室の至宝」。
日本の文化財保護の歴史の中で大きな役割を果たしたのが皇室でした。明治維新の混乱の中、京都はもちろん奈良など周辺地域の古社寺は危機に瀕し、大事な伝来品を皇室へ献納するという形で保護を求めました。皇室は文化財を守る大きな受け皿であり守護者であったのです。
ここでは皇室に守り伝えられた品々、現在東京・宮内庁三の丸尚蔵館が所蔵している品々が展示されています。
その中には、展覧会の会期が始まる直前に、新たに国宝指定が決まり話題となった国宝「春日権現験記絵」(写真は巻二/ 絵:高階隆兼筆 詞書:鷹司基忠ほか筆/鎌倉時代・14世紀/東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵/通期展示<巻二は前期展示>)なども含まれます。つまり"最新の国宝"!
先に"(戦後)最初の国宝"を見た後に見ると、文化財保護の歴史がリアルタイムのものであると感じさせられました。
そして注目が第4章。ここでは現在の文化財保護の取り組みや、その活動を伝える品が展示されています。
そっくりな品が並んでいるのに、国宝に指定されているものと未指定のものがある作品や、国宝指定を受けた後に行方不明になっていたものが近年になって所有者が届け出たため"再発見"となった品、地道な研究の成果により価値が認められ晴れて国宝になったものなど、それぞれの事例を実物を添えて紹介されています。
悲喜こもごものエピソードと合わせて見ると、より文化財が愛おしく感じてくる気がします。
文化財保護において大事なことが、防犯と災害対策。こちらに関しても実物とともに紹介されています。盗難にあって行方不明になってしまった品や、地震によって一部が失われてしまったもの、火災で焼けて無残な姿になってしまった仏像、今はもう見ることができない品など...破損した文化財を見ていると、痛々しい姿に胸が痛みます。
最後の部屋では、「修理と模造」というテーマで、破損してしまった文化財をよみがえらせるための取り組みや、研究者と現代の職人さんたちが協力して制作した、文化財の当時の姿を再現する模造・復元の作例が紹介されています。
形あるものはいつか朽ちて失われてしまうことは自然の摂理ではありますが、それまでの時間を少しでも長く、少しでも未来へ守り伝えて行こうとする取り組みが文化財保護。今の私たちが百年・千年単位も昔からある優れた品々を目にすることができるのも、そこに携わる人々の努力あってこそです。華やかな展示品の向こうに、それを守ってきた多くの人たちの存在を感じる展覧会でした。
文化財保護のために職人でも研究者でもない人は何ができるのだろう?展示を見た後に思う人も多いはず。実は展覧会を見に行くこと、ショップで販売しているミュージアムグッズや図録などの書籍を購入したりすることも、その支援に繋がります。博物館や美術館は文化財を展示すると同時に守っていく立場にもあります。その運営が安定して続くことも文化財を保護するためには大事なことです。また、京都国立博物館では文化財保護基金に寄付ができるグッズも販売されています。この機会に、身近なところから文化財保護へ協力してみるのも、いいですよ!
展覧会は9/12(日)まで。
事前予約優先制のため、観覧希望の方はローソンチケットにて事前に希望日時を指定した観覧券の購入をお願いいたします。