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【レポ】没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展

2024/08/19

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奥村厚一という画家をご存じでしょうか。京都に生まれ、昭和時代(主に戦前~戦後期)に光の表現にこだわった風景画を一貫して追求した日本画家です。上村松篁や秋野不矩らとともに新しい日本画表現を追求する「創造美術協会(後の創画会)」を結成した創立メンバーでもあります。
知名度が少し低いこともあってかまとまった数の展示はなかなか機会がありませんでしたが、2024年がちょうど生誕120年・没後50年の節目に当たることから、これを記念した大規模な回顧展「奥村厚一 光りの風景画家 展」が開催されています。

生涯をかけて風景画を描き続けた画家の世界、一体どのような内容なのでしょうか?
その様子をご紹介します。

※本記事は2024年7月の取材に基づきます。展示内容は時期により異なる場合があります。

あなたの好きな景色もきっとある―光に魅せられた画家・奥村厚一の世界。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より
《松蔭雨日》1934年 京都市美術館蔵
うっすらと白い線で描かれた雨の描写も見どころ。

展示は主に時系列順に、作品のスタイルの変化や内容ごとに分けた章立てで構成されています。

今回の展示品で最も古いものが、昭和9年作の《松蔭雨日》。大徳寺の庭を描いた作品です。
奥村さんは風景を描く際、必ず何かしら季節感を感じられる要素を描き込むようにしていたそう。こちらの作品は、よく見ると松に新芽が生えていて、春先の景色であることがわかります。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より
奥村厚一《夕光》1938年 株式会社玉村本店蔵

初期の代表作《夕光》は、夕日に照らされた山並みの緑のバリエーションが美しい作品。光の当たり具合で微妙に異なる山の影を緑の色味の違いで見事に表現しています。早いうちから奥村さんが光の表現を重視していたことがわかります。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より
奥村厚一《浄晨》1946年 東京藝術大学蔵

《浄晨》(東京藝術大学蔵)は、戦後最初の日展(1946年)で特選を受賞した代表作。霧氷(空気中の水分が枝に凍り付いたもの)を纏った冬の早朝の松林を描いた作品で、木々の向こうから太陽の光が差し込み、キンッと張りつめた空気も伝わってきます
。奥村さんは雪景色が特にお好きだったそうで、雪が降った際はいつも自宅の窓を開け放ち、しんしんと雪が積もる様をずっと眺めていたそう。この他にもしばしば冬の風景を描いたものが登場します。
また、よく見ると動物の足跡が小さく描かれています!メインのモチーフ以外に別の生き物の痕跡を描き込むところも奥村さんの特徴だそうです。隅々まで探しながら見てしまいそうです。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」>(京都市京セラ美術館展示風景より
奥村厚一 《笠ヶ岳(志賀高原)》 1947年頃 熊の湯ホテル蔵

今回の展示作品で最大の作品《笠ヶ岳(志賀高原)》。六曲一双の屏風に描いたパノラマサイズの大作です。雪と木々で立体感を見事に表現したモノクロームの山並みと青い空のコントラストが絶妙。絵の前に立つと、実際に山の上から景色を眺めているような臨場感が味わえます。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より
創造美術メンバーとの記念写真や寄せ書きなど。
気の置けない仲間同士の空気感が伝わる、ユーモラスなイラストに注目。

その後奥村さんは日展から離れ、同世代の画家たちとともに新しい独自の日本画を目指す「創造美術(後の創画会)」を結成します。展示室にはメンバーをはじめとする親しい画家仲間と合作した作品や資料も。メンバーも名前を聞いたことがあるような人が多数!戦後の大きな変革の時代、新しい日本画を生み出そうする画家たちの若々しさやエネルギーに溢れた様子が伝わってきます。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より
奥村厚一 《浪》 1955年 文明堂東京蔵

この頃の奥村さんの作品は、風景の一部だけをクローズアップしたり、輪郭線を太くはっきりと描いてみたり、波や木の枝を面や図形的にとらえたりと、写実的な描写は維持しながらも、敢えて大胆にデフォルメし抽象化するなど、今までにない表現が見られます。単なる写実に留まらない風景画を目指す奥村さんの試行錯誤が感じられます。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より OkumuraKouichi_repo(11).jpg
「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より

続いては小品がメイン。特に、奥村さんがこだわった「光」の表現を味わえる作品がセレクトされています。海や山、木々など描かれるさまざまな風景において光がもたらす表情の変化に奥村さんは注目し、それを作品に取り入れました。風景の見え方の違いによって光を表現しようとする奥村さんのスタイルは、確かに印象派の画家・モネにも重なります。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より

己が見て感じた景色の美しさを如何に絵に落とし込むか、それに生涯を注いだ奥村さん。展示の最後には、そんな奥村さんの風景画の源泉であり地盤ともいえる膨大なスケッチが紹介されています。これは京都市美術館の貴重なコレクションです。
奥村さんは長く京都市立美術大学(現在の京都市立芸術大学)で教鞭をとられていたこともあり、京都市美術館は縁ある場所。全国でもトップクラスの奥村作品のコレクションを所蔵しています。

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「没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展」(京都市京セラ美術館)展示風景より

奥村さんは生涯精力的に、日本国内はもちろん果てはアラスカまでスケッチ旅行に出かけていたそうで、特に山の景色が多く描かれています。若いころから「山の画家」と呼ばれるほど奥村さんは登山をし、山に魅せられていたそうです。
展示では奥村さんが訪れた場所別にスケッチが展示されており、奥村さんの旅路を辿りながら鑑賞することができます。中にはこれまで登場した作品のベースになったと思われるものも!

奥村さん自身は「自分のスケッチは見たものをそのまま描いているだけだから面白いものではない」と言っていたそうですが、奥村さんが旅先の風景のどこに美を感じていたのか、スケッチは如実に伝えてくれます。まるで同じ窓から景色を見ているような感覚が味わえますよ。


風景画は、絵を通じて画家と鑑賞者が視界をそのまま共有できるような感覚を与えてくれます。奥村厚一の風景画は、描き手の「美しい」「素敵だ」と感じたその感覚までも伝わってくるようです。決して激しさや尖った感じではありませんが、だからこそどんな人にも心にスッと染みるような魅力が、奥村厚一の絵にはあります。

展覧会を観れば、きっとどれかは心に響く、お気に入りの景色が見つかるのではないでしょうか。 展示はほぼ全作品が撮影可能なので、自分の好きな風景画をSNSでシェアして楽しめます。

開催は9月8日まで。 冬の雪景色や海辺、緑の美しい山並みなど、見ていてちょっと涼しくなりそうな作品も多く並んでいます。暑い夏、奥村厚一の美しい風景画の世界で涼をとってみてはいかがでしょう?

没後50年 生誕120年 奥村厚一 光の風景画家 展(京都市京セラ美術館)

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