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【レポート】エリザベス・ペイトン:daystar 白露(両足院)

2024/09/20

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東山、祇園にある禅宗寺院・両足院で、アメリカの現代アーティスト、エリザベス・ペイトンさんの個展が開催されています。

エリザベス・ペイトンさんは主に人物画―自分の周辺の人や歴史上の人物、アーティストや俳優、アスリート、政治家など、自分の憧れのスターや愛すべき対象を独特の透明感あるタッチで描いたポートレート作品で知られ、世界的に人気を博している現代アーティストです。

日本での個展は約7年ぶり。今回展示会場に京都を選んだのは、ペイトンさんは仏教徒であり、以前から個人的に京都をよく訪れていたことが理由のひとつだそう。また、両足院は以前から現代美術を紹介する場所として積極的に門戸を開いている寺院であることから、今回の展示が実現しました。

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Installation view, Elizabeth Peyton: daystar hakuro, Ryosokuin Temple, Kyoto, Japan, September 8ー24, 2024
Photos by Takeru Koroda Courtesy David Zwirner

ペイトンさんは、両足院で展示を行うにあたり「できるだけ外から異物を持ち込まず、元々ここにあったもの、ここで生まれたもので構成したい」と考えていたそう。建物や庭園、歴史、文化、守り伝えてきた人の営みと時間が一体となって紡がれているお寺の環境そのものに敬意を込めて展示を作りたい、という強い思いからでした。
例えば、最も多くの作品が並ぶ大書院では、古材を組み合わせた特別な支持体と、両足院にあった古い長持を再利用して制作した額縁に絵を飾っています。支持体からは後ろの風景が透けて見え、空間のつながりを邪魔しません。

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Installation view, Elizabeth Peyton: daystar hakuro, Ryosokuin Temple, Kyoto, Japan, September 8ー24, 2024
Photos by Takeru Koroda Courtesy David Zwirner

また、襖絵や掛軸など、一部はペイトンさんが2024年6月に両足院に滞在した際に制作した作品です。掛軸の裂(きれ)は今回展示に協力された両足院の先代住職が使用していたという古い着物や法衣を提供していただいたものだそう。まるで最初から寺院にあったものかのように、空間に馴染み溶け込んでいます。
(一緒に飾られている生け花は、両足院所属の茶人の方が作品や展示に合わせて活けられたそうです)

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Installation view, Elizabeth Peyton: daystar hakuro, Ryosokuin Temple, Kyoto, Japan, September 8ー24, 2024
Photos by Takeru Koroda Courtesy David Zwirner

数点ある襖のうち1点と掛軸は、ペイトンさんにとって特別な存在であるというエルヴィス・プレスリーの肖像であるという点もポイント。ペイトンさんは「(プレスリーとの)交感の場を設けたい」と考えられたそうです。一見では誰かわからない、でも「誰か」と認識すると顔が見えてくる感覚は人が「気づき」を得る過程と改めて向き合っているようでした。

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Installation view, Elizabeth Peyton: daystar hakuro, Ryosokuin Temple, Kyoto, Japan, September 8ー24, 2024
Photos by Takeru Koroda Courtesy David Zwirner

庭園の茶室でもペイトンさんの作品を見ることができます。
2つの茶室のうち、片方では展示されているペイトンさんの作品(フィギュアスケーターの羽生結弦さんの肖像画)にあわせて特別にしつらえられた和菓子や道具組で、呈茶や茶席(予約制)が体験できます。

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ペイトンさんの水彩タッチをイメージしたお菓子は目にも涼やか。風炉の代わりに氷を使うなど道具にも遊び心が満載です。絵を視覚で鑑賞するだけでなく、色々な角度から味わって楽しめますよ。

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Installation view, Elizabeth Peyton: daystar hakuro, Ryosokuin Temple, Kyoto, Japan, September 8ー24, 2024
Photos by Takeru Koroda Courtesy David Zwirner

ペイトンさんの意向は、展示は順路通りに、できるだけスマホなどを手にせず時間をかけて味わってほしいとのこと。時折聞こえる蝉の声や鳥の声、風の音をBGMに作品とじっくりと向き合うと、自分の心の中と対話しているような、静かで穏やかな気持ちになってきます。

お寺の空間―建物も、お庭も、茶室も―全体の空気や時間を感じてゆっくりと過ごしたくなる、そんな体験ができる展覧会です。

開催は9/24まで。

※クレジット表記のある画像は公式よりご提供いただいたものです。

エリザベス・ペイトン:daystar 白露(両足院)

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