【レポ】フランソワ・ポンポン展~動物を愛した彫刻家~(京都市京セラ美術館)
京都市京セラ美術館で開催の「フランソワ・ポンポン展~動物を愛した彫刻家~」の展覧会レポートです。
フランソワ・ポンポン、という名前の響きが印象的ですが、19世紀末~20世紀初頭に活動したフランスの彫刻家です。
タイトルの通り、主に動物をモチーフにした独特のスタイルの彫刻で人気を博しました。ポスターにも掲載されている、つるりとしたシンプルなフォルムが印象的な可愛らしい動物の彫刻が気になった方も多いのでは?
今回はポンポンに縁の深いフランス各地の美術館と、日本で最もポンポンの作品を所蔵している群馬県立館林美術館のコレクションから選りすぐりの品が一堂に揃った、日本初のポンポンの回顧展。その様子や見どころをご紹介します。
※このレポートの内容は、7/9開催の内覧会での取材内容を基にしています。時期により内容が変更となっている場合がございますのでご了承ください。
優しいまなざしと、鋭い観察眼が生んだ、モダン・アニマルたち。
石工の家に生まれたポンポンは、早くから造形に興味を持ち、若くして彫刻の道に進みます。その際、近代彫刻の巨匠オーギュスト・ロダンの工房で作品作りの下準備等を行う作業助手をしながらロダンの生命感をもった彫刻の表現を学びました。
当初はロダンと同じく人物彫刻家を目指しており、今回の展覧会では数少ないその初期作が展示されています。
その内の一つが、『レ・ミゼラブル』のヒロイン《コゼット》の像。サロンに出品し、周囲からの評判も良かったのですが、買い上げには至りませんでした。評価されながら買い手がつかない不遇に見舞われたポンポンは、これを機に人物像を諦め、動物彫刻に傾倒していくことになります。
こちらの《モグラ》は動物彫刻に重心を移した初期の作品。まだ彼が自らのスタイルを確立できていない時期で、細かい彫りこみに写実性を強く感じる表現となっています。岩の中からモチーフが浮かび上がる雰囲気は、ロダンの影響も感じます。
彫刻作品そのものの他にも、動物を観察して描いたスケッチや、モチーフのシルエットやフォルムを捉えるために創られた石膏性の秀作も多く展示されています。ポンポンの作品制作過程、対象の特徴や動き・しぐさを捉える観察力がわかるポイントです。
こちらはなんと「羽をむしられて逃げる鶏」のスケッチ!これはポンポンの独特のつるりとしたフォルム表現が「羽や毛がない」と批評されたことに対して描いたものだそう。彼のユーモアの精神を感じる一品です。
ポンポンは動物の行動観察のため常日頃から動物園に通い詰めていました。あまりに毎日通っていたので、時には動物がポンポンを覚えていて向うから近寄ってくることもあったそうです。(展示資料の中には、ポンポンが集めた動物園の絵ハガキコレクションもあります)
ポンポンの代表作の一つである《ペリカン》も、そんな動物園での観察した姿から生まれた作品。羽などの表現はそぎ落とされながらも、立ち姿はペリカンの特徴をしっかりと表現しています。ポンポンは古代エジプト美術の動物の描き方も参考にしていたそうで、目の部分にはその影響も感じさせます。
ポンポンは《ペリカン》を1913年から制作を始めましたが、この作品は1931年に手直しを加えて鋳造されたものです。ブロンズのまだら模様やくちばしのグラデーションにこだわりが感じられます。ポンポンは観察を続けることで掴んだ動物の特徴をさらに落とし込んで、作品の完成度を高めていきました。
こちらの《休んでいる冠鶴》の像は、より表現が洗練され、上げた片足は体に一体化して爪だけが飛び出している形に。頭の冠羽もつるりとした半円形にデフォルメし、全体のフォルムはきちんと鶴らしさを残しながら、よりモダンで抽象的なスタイルになっています。
ポンポンが彫刻家として名声を得る転機となったのが最大の代表作《シロクマ》でした。それまで小品が中心だったポンポンですが、周囲の提案を受けて2.5mもあるほぼ実物大サイズの《シロクマ》像を制作、1922年のサロン・ドートンヌに出品します。これが非常に高い評価を受けオルセー美術館の買い上げとなったのです。この時ポンポンは67歳。本当に遅咲きでした。
ポンポンの作品は当時流行のアール・デコの様式にもとてもマッチしたもので、家に飾りたいという需要が多かったため、ポンポンはその後縮小サイズの《シロクマ》を多く制作しました。今回はその一部が展示されています。
展示室の設えは、ポンポンゆかりのデュション美術館の内装をイメージしているそうです。
ポンポンは《シロクマ》を素材を変えて何度も作りましたが、その素材や作成時期によって、微妙に表情が変わって見えます。最初の発表の後も、より洗練された動きやフォルムの表現を求めて、ポンポンが試行錯誤を続けた様が伝わってきます。《シロクマ》は360度どの角度でも見られるように展示されているので、顔の正面や体の横からなど、いろいろな角度から眺めてみるのがおすすめです。表情もちょっと違って見えるはず。
同様に、同じモチーフながら素材や作成時期が違う作品が並んでいるのが《クロヒョウ》。時期が違うと、細かな前足の動き、首の角度の違いでこちらも表情が変わって見えます。見比べて楽しみたいところです。
一方で、ポンポンは身近な生き物をモチーフにした小品も作り続けています。中でもよく登場しているのが鳩。ポンポンが飼っていたペットの鳩・ニコラをモデルにしたのではといわれているそうです。ぷっくりと膨らませた胸に嘴を埋めるように休む姿がとても愛らしく、ポンポンの暖かいまなざしも伝わってくるようです。
最後の部屋は、より抽象表現に近づいていくポンポンの晩年作に注目するとともに、彼の彫刻家としての位置づけを考えるというコンセプトになっています。
《金鶏》はポンポンの没年に製作された遺作に当たる作品。造形表現はより一層洗練され、尾は実際より極端に細長く誇張された形になっており、フォルムそのものの表現を重視したように感じられます。
リアルさ以上にモチーフとなる生き物の本質を造形表現に求めたポンポンの作品は、次世代に活躍した抽象彫刻の巨匠・ブランクーシも影響を受けたといわれます。そのこともあり、ポンポンを近代抽象彫刻へ至る過渡期の作家として位置づける流れもあるそう。
可愛らしさが印象的なポンポンの彫刻作品ですが、それは長年の丁寧な観察と、ロダンの下で得た生命力を表現する彫刻の技術、そして動物たちへの暖かな眼差しに裏打ちされたもの。作品の情報量・密度をそぎ落とし重要なところを的確に表現するその洗練された表現は、時代を超えて人々を惹きつけています。
そんなポンポンはヨーロッパだけではなく、日本の彫刻家にも影響を与えています。ポンポンの生前、日本でアール・デコ展が行われ、ポンポンは複数の作品を出品。彼の名声を高めるひとつの要因となりました。
また、日本の金工家・津田信夫(つだ・しのぶ)は、フランス留学時に現地で目にしたポンポンの作品に強く影響を受け、意匠化した動物モチーフの作品を数多く制作しました。
津田の作品は京都市京セラ美術館にも所蔵されており、コレクションルームの夏期展(~9/26)見ることができるので、併せて鑑賞したいところです。
実は京都市美術館が設立された年はポンポンの没年にあたり、ちょうど時代が重なります。実際、京都市京セラ美術館の展示室や館内の各所にはアール・デコ調の装飾が見られ、ポンポンの作品がよく馴染んで見えます。
また、ポンポンが動物園でモチーフにする動物の観察を行っていたということから、会場の選定時に「近くに動物園がある場所」というリクエストがあったとのこと。京都市京セラ美術館のすぐそばには京都市動物園があることから、今回巡回展の先頭を切る形で選ばれました。
展覧会を見た後、動物園でモチーフになった実際の動物を見比べると、ポンポンの作品がどのように特徴を捉えていたかがよりわかるはず。併せて楽しんでみてはいかがでしょうか?
ちなみにショップではかわいい動物のグッズがたくさん!
ポンポンの作品の動物たちのシルエットをあしらったTシャツや、ポンポンゆかりのフランス美術館のグッズもあります。こちらもぜひチェックを。
開催は9/5(日)まで。