【レポ】2022年度十二月展「わざわいと人々~安寧来たれと願う今~」龍谷ミュージアム
龍谷ミュージアムで開催の2022年度十二月展「わざわいと人々~安寧来たれと願う今~」にお伺いしてきました。
このレポートでは、その様子をご紹介します!
※会場の写真は取材時に許可を得た上で撮影させて頂いたものです。
龍谷ミュージアムの十二月展とは?
龍谷ミュージアムの十二月展とは、龍谷大学文学部の博物館実習受講生たちが、展覧会を準備・企画・運営すべてを手掛ける学生主体の展覧会です。今回でなんと43回目の開催とのこと。開催は年に1度なので、40年もの歴史を刻んできた伝統ともいえます。
博物館実習とは博物館・美術館で働く学芸員の資格取得を目指す授業で、これ自体は多くの大学の文学部で行われています。しかし、学生が実際の学芸員と同じように一つに展覧会をつくり上げるというのは、かなり珍しい試みです。
展覧会を開催するには、テーマ設定はもちろん、展示する作品の選定、所蔵元への貸出依頼、展示構成の計画、図録への展示品掲載や解説執筆・調査内容のまとめ、そしてチラシやポスターといった広報物の作成まで...膨大な仕事が発生します。これらを全て、60名余の学生たちがチームに分かれて行っているそうです。まさに学芸員を目指す学生たちの学びの集大成!
2022年度の展覧会のテーマは「人とわざわいの共生」。学生のみなさんにとっても身近かつ大きな出来事であるコロナ禍から発想し、現在の話題と京都を中心とした地域の歴史や文化を関連づけられる内容ということで決められたそうです。
資料と解説を通じてたどる、人とわざわいと、祈りのヒストリー。
展示品は古文書から浮世絵などの絵画作品、立体物までさまざま。時代ももっとも古いものだと古墳時代の考古資料、平安・鎌倉時代、江戸時代に明治大正といった近代まで、多岐にわたります。テーマ展にしたことで分野も時代もさまざまなバラエティ豊かな展示ラインナップとなっています。
展覧会は「禍(疫病)」「災(災害)」「妖(妖怪・怪異)」「祈(わざわいに対する祈り)」の4章構成で、昔からさまざまな"わざわい"に遭いながら人々がどのように共生してきたのかを資料を通じて紹介しています。
まずは第1・2章で疫病・災害といった具体的な"わざわい"と人々が具体的にどう対処したのかを紹介。古文書に見られる疫病や災害に関する記録を導入とし、その対抗策として薬学、医学、防災といった技術・学術面の発展する流れを展示品を通して追う流れになっています。
古文書はともすれば「読めない...」とスルーしてしまいがちですが、この展覧会ではそれぞれに丁寧な解説が添えられていて安心。
当時起きた疫病や地震、火災、洪水の被害状況の話のほか、平安時代の官吏登用試験で地震について説明する課題が出ていた話など、当時の医学薬学事情など、興味深いお話が紹介されていて、じっくり見入ってしまいました。
第3章では、怪異・妖怪を紹介。昔は正体・原因がわからず当時の技術や知識では対処しきれない現象、不可思議なものに対し、名前や形を与え「怪異・化け物・妖怪」と具体化することで認識・対処していました。
「源頼光の酒呑童子退治」が酒呑童子=疫病の象徴とされていた話など、随所に展示品に関連した情報パネルが添えられており、より興味深く作品を見ることができました。
そして、最後の「祈」の章では、神仏に祈りをささげるという、人々の心・精神面でのわざわいへの対処が紹介されます。祇園祭や追儺式、京町家に据えられる鐘馗像など、京都では身近な祭礼や行事・風習に繋げられ、過去から現在までの繋がりを感じさせてくれます。
例えば祇園祭は山鉾巡行の華やかさのイメージが強いものですが、その実像は八坂神社に祀られている神仏に祈り、その力で疫病を鎮めてもらおうとしたもの。現在も長刀鉾の町内で使われている神名(素戔嗚尊・牛頭天王)を書いた軸には、現在までつながる祇園祭の祈りの「根本」が見えるようです。
印象深かったのは、田畑が災害に遭わず豊穣になることを祈って作られた古墳時代の土人形とそこから発展した伏見人形。一つのケースにまとめて展示されていましたが、形や雰囲気が似ていることがよくわかります。時代は異なっていても込められた思いは共通している。それが一目で伝わってきました。
今回の「わざわいと人々」は、具体的な話題から精神的な話題への展開がスムーズで、かつ最後に京都の土地柄と身近な行事や風習に絡めることで、大きなテーマと地域性がつながり、「京都のミュージアムの企画展」らしさとともに、自分ごとの話題として「わざわいと人の共生」を感じることができたように思います。
展示品の並び順、導線や流れによって一種のストーリーを展開し、それを通じて見る人に何を伝えるか。そこが展覧会を企画する学芸員の腕や個性の見せどころでもあります。
展覧会にどうすれば興味を持ってもらえるのか。設定したテーマをどのようにわかりやすく、かつ楽しく飽きさせずに見る人に伝えるのか。そのためにはどのような展示品を置けばいいのか。それに真剣に向き合って作られたことが、展示の端々から感じられました。同時に、見る側としても「ものを見せて伝える」展覧会のあり方に改めて向き合う機会になりました。
会期は短めながら、とても充実した内容の展覧会です。お近くにお越しの方はぜひ足を運んでみてください。
そして今後の「十二月展」も、ここから羽ばたいていく学生さんたちの活躍も、とても楽しみです!
■ 2022年度十二月展「わざわいと人々~安寧来たれと願う今~」(龍谷ミュージアム)会期:2022/12/7~12/10