【レポ】西国三十三所 草創1300年記念 特別展「聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─」(京都国立博物館)
京都国立博物館で開催の 西国三十三所 草創1300年記念 特別展「聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─」(2020/7/23-9/13)の内覧会の様子をご紹介します!
この展覧会は当初春の特別展として開催予定でしたが、諸般の事情により夏に延期。満を持しての開催となります。まさに待ちに待った特別展です!
※レポートの内容は前期展示のものを基にしています。8月18日(火)以降は後期展示となり、一部展示内容が変更となっている部分がございます。
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「西国三十三所」とは、近畿2府4県(京都・大阪・兵庫・奈良・滋賀・和歌山)と岐阜県にまたがる日本最古の巡礼路です。
「三十三」という数字は観音信仰においては特別なもの。『妙法蓮華経(法華経)』の「普門品」では、人々の悩みや苦しみに合わせて観音菩薩は三十三の姿に変化し、それぞれの器量に応じ法を説き救って下さる、と書かれているそう。三十三の札所寺院には、様々な姿の観音菩薩が本尊として祀られています。
この三十三は"無限"の意味を持つそうで、必ずしも観音菩薩の変身した姿が33種に固定されているわけではないのだとか。人々の悩み苦しみ、願いの数だけ、観音様の姿があるのです。
第一章では、そんな様々な姿であらわされる観音菩薩について紹介しています。
観音様にまつわる経典類のほか、観音様の姿を解説付きでまとめた"観音様図鑑"のようなものまで並びます。
西国三十三所は、奈良・長谷寺を開いた徳道上人という僧侶が、地獄の閻魔大王から人々に観音霊場への巡礼の功徳を広めるようお告げを授かり、極楽往生の通行証の宝印を納めた場所が霊場となり、人々が巡礼するようになった...という逸話がはじまりとされています。
第二章ではそのお告げを与えた閻魔大王にちなみ、人々がイメージした地獄にまつわる作品が展示されています。
善行をした者は極楽に行き、悪行をした者は地獄に落とされて罰せられる...という話が人々に浸透したのは平安時代以降、浄土思想が入ってきてからのことでした。観音様へ願うご利益が現世ではなく来世まで広がったことで、死後の世界のイメージが明確化し、その姿が絵として描き表されることになったのです。
ここでの見どころは「六道絵」。死後人々が生前の行いによって行くとされる六種類の世界「六道(地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人・天)」の様子を描いたものです。なかでも特に迫力たっぷりなのが、壁一面に並ぶ兵庫県・中山寺所蔵の「六道絵」。中山寺は宝塚の女優さんが訪れることでも知られるお寺ですね。
よく見ると賽の河原や、死者から衣服を剥ぐ奪衣婆、死者を地獄に送り届ける火車、嘘をついて舌を引っこ抜かれる人...と、聞いたことのある描写があちこちに見られます。今に伝わる地獄のイメージはこの頃からあったのかと思うと、少し親近感がわいてきます。
第三章は「聖地のはじまり」として、西国三十三所の成立過程やそれに関わったとされる僧侶たちの肖像画や、各寺院の縁起を紹介しています。西国三十三所の実際のなりたちについては謎が多く、徳道上人のお告げの話も伝説の域を出ません。しかし歴史的には12世紀ごろ(平安時代)には成立したと考えられており、室町時代には文章にも盛んに登場するようになるそう。その上で、各寺院の由緒や印を記した縁起は大変貴重な資料となっています。
中には観音様が童子に化けて仏像を彫った話など、ドラマチックなお話も多く、「あのお寺にはこんな逸話があったのか!」と驚かされます。
ここで目を引くのが「立体曼荼羅」(那智山経塚出土仏教遺品)。大正から昭和初期にかけて和歌山・那智の滝へ向かう参道途中にある枯池から出土したもので、小さな仏像や各仏のシンボルを所定の位置に並べることで曼荼羅図を表します。ただし、この立体曼荼羅は色々な曼荼羅図の要素がミックスされており、一種の"オリジナル"になっているとか。
それぞれの像や遺品はバラバラに発見されたため、当初は関連のないものだと思われていたそう。その後ある寺院に伝わる鎌倉時代の奉納品リスト(『那智山瀧本金経門縁起』)の中にこれらについての記録が残っていることがわかり、模型のパーツのように一揃えで完成するものであることが判明したそうです。
現在は複数の所蔵元で別々に保管されているため、今回のように全て揃った状態での展示は本当に貴重。この機会に見ておきたい逸品です。
第四章では、庶民たちへの巡礼の働きかけに注目。室町時代以降は市井の人々が寺の再建に携わるなど、お寺と一般庶民の結びつきが強まって行った時期でもありました。そんな人々に巡礼でお寺を訪れてもらうために用いられたのが「絵説き」、今でいうプレゼンテーションです。僧侶たちは仏様の世界を描いた曼荼羅図や、巡礼で得られる功徳を描いた絵図などを用いて、視覚的に人々に巡礼者への道を示したのです。
ここの見どころは、様々な寺院の様子を描いた「参詣曼荼羅図」。
例えば清水寺の参詣曼荼羅図にはお馴染みの舞台や、今や縁結びのパワースポットとしても知られる地主神社、音羽の滝などの名所がしっかり描かれていて、まるで観光ガイドのよう。実際に「絵説き」されているような気分で楽しめる作品です。当時の人々も「絵説き」を通して想像や憧れを膨らませ、巡礼に誘われていったのかもしれません。
展示室の各所には、札所となっている33のお寺が写真と共にパネルで紹介されています。併せて見ると、お馴染みのお寺の新しい一面や、行ってみたくなるお寺が見つかるかも?
また、巡礼に行きたくても体調や距離の問題で難しい...という人向けには、拝むだけで巡礼と同じご利益があるとされた「西国三十三所観音曼荼羅」のようなものも作られました。今風に言えば"リモート巡礼"といったところでしょうか。全ての衆生を救おうとする観音様の姿勢のように、どんな人でも巡礼ができるよう間口を広げようとする思いを感じます。
第五章では、各寺院に伝わる観音様を表現した様々な絵画や彫刻が展示されます。同じ観音様をご本尊としているお寺も複数あるのですが、ポーズや持物は共通でもその表情や雰囲気は様々。見比べるとそれぞれの個性が味わえてより楽しめます。どれもお寺の中に祀られているとき以上に間近で全体を見ることができるのも嬉しいところ。
また、中には京都・頂法寺(六角堂)の秘仏「如意輪観音坐像」や、和歌山・粉河寺の裏観音「千手観音立像」のように、普段は一般公開されないような仏像も展示されています。本当に貴重な機会なので、このチャンスをお見逃しなく!
第六章では、巡礼をした人々が実際に巡礼時に身につけたりお寺に奉納した品々が紹介されています。巡礼は信仰の一環ではありましたが、同時に旅行としての側面を持っていました。巡礼ルートを記したガイドマップまで作られていたそう(まるで双六のようです)
こちらは「籤(くじ)」。今のおみくじのルーツです。中国から伝わった「天竺霊籤」というくじと、観音信仰がミックスされて、所謂"観音籤"というものができたのだそう。こちらは大阪・総持寺所蔵のもので、棒には番号や吉凶、漢詩などが書かれています。これと本を照らし合わせて運勢を占ったのだとか。今でも札所の中にはこの形式のおみくじができるお寺があります。他にも、巡礼時に身につけた衣服や、巡礼の証として訪れた日付や出身地などを書いてお寺の柱に打ちつけた巡礼札なども見ることができます。
最後の第七章では各寺院に伝わる至宝が並びます。三十三のお寺は歴史も宗派も様々であり、西国三十三所札所としてだけではない側面に触れることができます。
中には刀も!こちらは坂上田村麻呂が観音様の霊験によって鈴鹿山(三重)の鬼神を退治した後に播州清水寺(兵庫)に奉納した、「騒速(ソハヤ)」あるいはその差添(メインの刀と一緒に腰に差す短い刀)と伝わるものです。
西国三十三所の総距離はなんと約1,000㎞。もし本気で歩いて制覇しようとすると2,3か月以上はかかってしまう距離だとか。それを、この展覧会なら一度にまとめて見ることができるチャンスです。
タイトルを見ると少し難しそうな印象を受けますが、世代を問わずカジュアルに楽しめる内容の展覧会でした。仏像や仏教に興味のある方は勿論、ちょっと旅気分を味わいたい方にもおすすめですよ!
※全展示件数は約170件(一部展示替え有り)
■展覧会詳細はこちら
西国三十三所 草創1300年記念 特別展「聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─」
会期:2020/07/23~9/13(前期:7/23~8/16|後期:8/18~9/13)
会場:京都国立博物館 平成知新館
休館日:月曜日
※金・土曜の夜間開館は中止となっています
■ ミュージアムショップ
ゆる~いイラストの仏様をあしらったグッズや、閻魔帳風のブックカバーなど、ユニークなものが盛り沢山です!
また、「札所前スイーツマップ」として、西国三十三所のお寺に関わるお菓子を集めたコーナーも。お寺の逸話やご当地ネタになぞらえたものなど、普段は現地に行かないと手に入らないような品が並びます。こちらも要チェックです!
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西国三十三所 草創1300年記念 特別展「聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─」