【レポ】開館60周年記念名品展Ⅱ「泉屋博古 #住友コレクションの原点」
このレポートでは、泉屋博古館で開催の開館60周年記念名品展Ⅱ「泉屋博古 #住友コレクションの原点」の展示の様子をご紹介します!
※レポートの内容は10月取材時の内容を基にしています。来館時期により展示内容が一部変更となっている場合がございます。
泉屋博古館は2020年は開館60周年記念の年ということで、今年は年間をかけて記念展覧会を開催してきました。名品展は春に行われた第1弾「モネからはじまる住友洋画物語」に続き今回が第2弾となります。前回は洋画をメインとした企画であったため、今回は日本や中国などの東洋美術を中心にラインナップされていました。
ちなみに展覧会のタイトルがほぼ館名そのままなのは、この機会に覚えてもらえればという意図からだそう。60周年を迎えての新たな始まりに、改めての自己紹介するような意味合いも感じます。
泉屋博古館の「泉屋」は、元々住友家の屋号として用いられていたもの。現在残る住友コレクションの大半を蒐集した十五代当主・春翠がこの屋号を気に入って用いており、そこから名をとったそうです。
そして「博古」は、春翠のコレクションの中核が中国青銅器であることから、中国・宋の時代に編纂された青銅器の図録「博古図録」になぞらえて名付けられています。(決して「博物館」の間違いではありませんよ)
エントランスホールには、「泉屋博古」の扁額が展示されていました。こちらの文字は春翠が慕っていた実の兄・西園寺公望が、弟のために揮毫したものです。
展示はまずはコレクションの中心である中国青銅器からスタート。青銅器館には人の顔を持つ音の神様・夔神(きじん)の姿があしらわれた「夔神鼓(きじんこ)」をはじめ、楽器や酒器、鏡など青銅器コレクションの代表的な作品を中心に展示されています。
泉屋博古館で最初に建てられたのはこの青銅器を展示している青銅器館で、大阪の万国博覧会に併せて整備されたそうです前身となった収蔵庫兼展示室は公開の制約が多く、雨の日は休室していたため、展示を見られるかは運しだいという状態だったそうです。今回、施設の建設経緯や設計図も展示されているので、併せて見るとより楽しめます。
企画展示室のある新館入口には、開館60周年記念に相応しく、これまでに行われた展覧会のポスター画像が壁一面にあしらわれています。今回は「オールタイム・ベスト」展という位置づけの元、これまでの展覧会の目玉クラスの作品たちが贅沢にピックアップされて展示されています。
まずは前回に引き続き泉屋博古館の看板作品・「虎卣(こゆう)」がお迎え。
すぐ近くには、壁一面に中国風の棚が設けられ、ぎっしりと様々な文房具が展示されています。これらは皆、春翠のコレクション。中国の文人と呼ばれる書画詩文をたしなむ知識人たちに憧れをもっていた春翠は、彼らが愛用した文房具や絵画を好んで蒐集していました。
棚の中には細かな彫刻の施された筆や鼻煙壷、書鎮、美しい石材の印などが並び、好きなものに囲まれた春翠の理想の書斎のイメージを伝えます。印章には泉屋の屋号も見られます。
ひときわ目立つのが《鍍金魁星像》(写真右上)泉屋博古館のスタッフ内でも人気の逸品で、「かいせいくん」のニックネームで呼ばれているとか...
この魁星は北斗七星を象徴する神様で、古くから中国では科挙の神、いわば受験の神様とされたため、科挙に合格した文人たちは書斎(文房)に魁星の像を飾っていたそう。春翠もそれに倣い、この像を手に入れたのかもしれません。(受験生の方は拝んでおくといいことがあるかも...?)
なお、文人に憧れたのは春翠だけではなく、彼の息子・寛一も文人画を好み、蒐集していました。八大山人筆《安晩帖》(重要文化財)はその代表的コレクションです。
前期の観覧時には魚の描かれたページが飾られていました(時期によってページが捲り替えされます)どこを見ているのかわからない大きな目でポカンと口を開けた魚の姿は、なんとも緩くてユーモラス。学芸員さんもお気に入りの一品だそうで、今回グッズも制作されています。
このちょっと間抜けな表情は、描かれた当時荒れていた国の政情に対して絶望した心や、現状を捻くれた目で見ていることを表しているとも言われているそうです。
他にも、伊藤若冲などの日本の絵画作品も展示。若冲の《海棠目白図》は、ひとつの枝にたくさん集まる姿はまさに「目白押し」といったところでとても可愛らしい作品です。
こんなコミカルな絵巻物も!重要文化財《是害房絵巻》(前期展示)は南北朝時代の作品で、唐の国から日本にやってきた天狗が比叡山の僧と法力勝負をして負かされてしまうという「今昔物語集」のお話が描かれています。担架で運ばれて湯治をしている姿が何ともユーモラスです。
そして今回の見どころのひとつが、重要文化財《佐竹本三十六歌仙絵切 「源信明」》。2019年に京都国立博物館で開催された特別展「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」でも展示された逸品です。元々は三十六歌仙が順々に描かれた二巻の絵巻物でしたが、大正時代に一人ずつバラバラにされ、当時の数寄者や文化人がくじ引きで購入したという経緯を持ちます。
春翠はこれを手に入れた時大変喜び、古い時代の貴重な布を使って特別な表装も作らせました。しかし、ただの一度も茶会で用いた記録がないため、誰にも見せずに大事に秘蔵してしまっていたようで、いわば幻の一品です。
佐竹本の源信明は、ほほを染めながらうつむいた少し切なげな表情が印象的ですが、これは好きな女性を恋しく思う歌の内容にあわせたもの。信明の心情が伝わる絵になっています。
今回の展示では、隣に同じく三十六歌仙を描いた重要文化財《上畳本三十六歌仙絵切「藤原兼輔》(前期展示)が展示されていました。こちらは歌人が皆畳に座っている姿で描かれているところが特徴です。
茶道具のコーナーは実際に茶会のしつらえをするイメージで展示しているそうで、例えば伝閻次平筆《秋野秋牛図》(国宝)の掛軸の前に青磁の花瓶を置いているのは、床飾りのイメージ。展覧会は個別に並べられることが多いので、実際に茶席で使用されている姿は新鮮に映ります。春翠お気に入りの品ばかりを集めた、まさに夢の茶席がここにあります。茶室にお邪魔したようなイメージで見てみてはいかがでしょうか。
他の作品も、普段は一点で展覧会の目玉となるような品ばかりです。記念すべき年に相応しい、まさにオールスター展でした!
■ 開館60周年記念名品展Ⅱ「泉屋博古 #住友コレクションの原点」
会期:2020/10/30-12/6
会場:泉屋博古館