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【レポ】京都市京セラ美術館 開館1周年記念展 上村松園(京都市京セラ美術館)

2021/08/11

shoen2021_1.jpg上村松園の孫で日本画家・上村淳之先生(左)と青木淳 京都市京セラ美術館館長(右)

新型コロナウイルス感染症の影響による開館延期も経験しながらも2020年にリニューアルオープンし、この度1周年を迎えた京都市京セラ美術館(京都市美術館)。それを記念した展覧会が今後次々と開催されます。

その第一弾にあたるのが、今回の「上村松園」展。
明治・大正・昭和期の京都画壇で活躍した日本画家・上村松園は同館の開館当時から関わりがあるほか、多くの作品が収蔵されており、同館のコレクションを代表する作家の一人ともなっています。それもあり、今回の記念展が企画されました。

今回はその見どころをご紹介します。

※この記事の内容は、前期展の取材内容を基にしています。8/17より開催の後期展では、一部作品が入替となっています。予めご了承ください。
(京都市京セラ美術館Webサイトより、出品リストをご覧いただけます)

理想の「美」を求めた画家の生涯と素顔。

上村松園の展覧会はこれまでも度々開催されていますが、今回の展覧会は時系列順に松園の生涯を追いながらその絵の変遷をたどる構成となっています。

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本展の展示品で最も古い作品は、一番最初の部屋に展示されている《四季美人図》。春夏秋冬の各季節に年代の違う女性たちの姿をあてて描いた作品です。元々は第3回内国勧業博覧会出品用に描かれたもので、その時松園はなんと15歳の若さでした。原画は英国王子の買い上げとなりたちまち評判となったため、松園は同じような構図をその後も複数描いています。

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《人生の花》は、母親とともに結婚相手の家へと向かう花嫁の姿を描いた作品。まだ江戸時代の風俗が残っていた時代の光景を書き留めようとしたようです。こちらも評判がよかったので、何度か同じ構図・テーマの作品を松園は描いています。ここでは2幅の掛軸に再構成した作品も見られます。

shoen2021repo(4).jpg上村松園《清少納言》1917-18年頃 個人蔵

同じ構図・テーマで着物の色や模様を変化させたバリエーション作品が多い点は松園の特徴でもあり、中には最初に描いて何年も経過してから改めて同じ構図にチャレンジした作品もあります。
《清少納言》もそのひとつ。御簾の透けるような表現が印象的です。年月を経て筆致や表現がどのように変わったのかを見比べて楽しめる点も見どころです。

清少納言や紫式部、静御前といった歴史上の登場人物は松園が好んだテーマでもありました。松園は彼女たちに自分の姿を、どこか重ねていたのかもしれません。

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そんな松園ですが、「人物が表情に乏しい」と批判を受けることがあったといいます。松園はそれを気にしていたのか、反発するかのように一時、人物の感情表現を追求した絵を描いています。嫉妬に狂って生霊と化してしまう源氏物語の登場人物の一人・六条御息所を描いた《焰》や能の一曲「花筐」に登場する恋人を慕うあまり正気を失った女性を描いた《花がたみ》は、その代表的な作品です。
※前期は《焰》、後期は《花がたみ》が展示されます

しかしその後、松園は翻って静かな表情の中国美人画を多く描いています。松園の孫で自身も日本画家である上村淳之先生のお話では、何事も真剣に取り組む性格であった松園は、人の怨念などの強い感情や、架空の人物を描く場合、納得がいくものがなかなか描けず、完成まで3年ほどもかかってしまうこともあったといいます。人間の激しい内面の表現に真剣に向かい合った結果、松園は少し疲労を感じ、違う方向性の絵を描こうとしたのでしょうか。絵を通して、松園の当時の心情も少し伝わってくるような気がします。

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また、松園は徐々に大作より小品を多く手掛けるようになっていきます。これは昭和初期以降、画廊が主催した展示会が頻繁に行われるようになったため。画廊が人気画家の作品を集めて展示することも多く、すっかり売れっ子であった松園も当然作品を多く依頼されました。しかし一つの作品に対して着物の資料集めなどを念入りに行い時間をかけて描く松園は大作を頻繁に出品することが難しかったこともあり、評判のよかった構図を再度描いたり、小ぶりな作品を描いていたようです。小ぶりな作品はむしろ家に飾りやすいと評判になり、絵は良く売れたそうです。

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今回の展覧会で特にユニークな点が、一番最後の部屋に展示された、写真家・木村伊兵衛が撮影した上村松園です。様々な芸術家に取材する特集企画の一環として撮影されたものだそうですが、そこには庭先でスケッチをしたり、資料と向かい合ったり、真剣に絵を描く素顔の松園の姿があります。
写真の中には、孫・上村淳之先生の幼い頃の姿も収められています。淳之先生は撮影当時のことを覚えておられるそうで、長時間動かないようにといわれてなかなか大変だったとか。

「孫の身からしてはごく普通の優しい祖母でしたが、絵の製作中は凄まじい集中力で近寄りがたく、仕事には真面目で丁寧なひとでした。恐ろしい絵であっても恐ろしいほど美しいものを描いていました。」
「みなさんと一緒に、また松園を振り返る機会を得たことはとても喜ばしく、京都画壇にとっても良いことであると思う。松園の作品は今後も多くが残っていくことでしょう」と、展覧会に先駆け、淳之先生が言葉を寄せておられました。

京都画壇を代表する巨匠として知られる上村松園。この展覧会はそんな画家の生涯と心、そして素顔を、絵と共に辿り触れるような時間でした。

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なお、9/26まで開催のコレクションルームの夏期展示でも、特別展にあわせて同館所蔵の上村松園作品が展示されています。内容もリンクしたものになっているので、こちらも併せて見ておきたいところです。

→ コレクションルームは8/24~9/12まで休室となります。最新情報・展示内容については京都市京セラ美術館Webサイトをご覧下さい。
https://kyotocity-kyocera.museum/news/infomation/2021/08/19
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20210626-0926


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ちなみに今回の展覧会特設ショップでは、松園の描いた女性たちの「着物」に注目した小品が並んでいます。松園は実際に沢山の着物を資料として収集し、テーマや季節等に合わせ非常にこだわりをもって描いていました。そんな松園の「着物」の色の取り合わせをイメージしたバッグやお箸、付箋などが販売されています。ぜひチェックしてみてください。

展覧会は9/12まで(日時指定予約優先制)


京都市京セラ美術館 開館1周年記念展 上村松園

京都市京セラ美術館 コレクションルーム

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