Report&Reviewレポート・レビュー

【レポ】大観と春草-東京画壇上洛-(福田美術館)

2020/08/25

repo_taikanshunsho01

嵐山の福田美術館で開催の「大観と春草-東京画壇上洛-」の内覧会の様子・見どころなどをご紹介します!

※レポートの内容は7/31の取材時の内容を基にしています。来館時期により展示内容が一部変更となっている場合がございます。


京都で近代の日本画展、といえばやはり、竹内栖鳳や上村松園など京都で活躍した日本画家たち、いわゆる京都画壇の作品を見かけることが多い印象です。しかし今回は「東京画壇」。その中でも横山大観と菱田春草を中心に、東京を拠点として活躍した日本画家たちにスポットを当てた、京都では少し珍しいテーマの展覧会です。

20200731_140816.jpg

福田美術館のコレクションは京都画壇の作品が主軸となっていますが、大観をはじめとする同時代の東京画壇の作品も数多く含まれているため、いつか東京画壇の展示をしたいと企画を温められていたとか。
そこで調査の過程で大観の自伝(*1 を確認した際、頻繁に菱田春草の話をしていることに注目し、今回の「大観と春草」という二人を柱とした構成になったそうです。

*1) 『大観自伝』(大観画談)大観が昭和25(1950)年から1年に渡りその半生を振り返って語ったもの。インタビューの聞き書き形式となっている。

横山大観と菱田春草。少し年は離れていましたが、二人は同時期に共に東京美術学校(現・東京藝術大学)で絵を学んだ仲間でした。その頃から大変仲が良く、よく一緒に外へ模写に出かけていたといいます。後に師の岡倉天心が日本美術院を立ち上げた際も、共について行きました。海外に行く際も、大観は春草を誘って渡航しています。二人は新しい日本画の表現を追求する、苦楽を共にし切磋琢磨する親友・盟友といえる間柄でした。
しかし、春草は病から目を患い、36歳の若さで世を去ります。後に大観は自分が巨匠と評されると「春草君の方がずっと上手い」と話すほど、晩年まで春草を惜しんでいたといいます。

近代日本画の巨匠としてのイメージが強い大観ですが、春草との関係性に注目すると、友を思う一人の人間としての姿が見えてきます。それを踏まえて展示作品を見ると、絵の見え方が変わってくるように感じます。

20200731_140829.jpg春草の作品は、風景画の他、鳥や動物をモチーフとしたものが多く並んでいます。春草と言えば永青文庫所蔵の「黒き猫」など黒猫の絵が有名ですが、ここでは白猫が展示されています。思わず触りたくなるふんわりとした毛並みの再現が見事!

20200731_141031.jpg
20200731_141054.jpg

大観は風景画・仏画の他、大観の代名詞ともなっている、富士山をモチーフにしたシリーズ作品も展示されています。

柔らかな筆致に静謐さを感じさせる春草の絵と、繊細な筆遣いながら無骨さや力強さを感じさせる大観の絵。春草は温厚かつ冷静で理知的、大観は情熱的で感情が出やすい性格だったそうで、それが絵の方向性の違いとして表れているようです。対照的な二人ですが、性格が逆だったからこそかえって相性が良かったのかもしれません。
二人が合作した作品も展示されています。

20200731_141914.jpgまた、大観・春草と併せて、彼らと関わりのあった他の画家たちの作品も紹介されています。

20200731_145247.jpg

2階展示室には、こんなイラスト付きのユニークな人物相関図(『大観自伝』の内容に寄る)。も!
なかには「大観がライバル視し仲が悪かった下村観山」「京都で活動していたが大観に誘われて東京に拠点を移した川合玉堂」など、大観を取り巻く個性豊かな人々が紹介され、より大観の人間臭い一面が伺えます。

意外なところでは、京都画壇の重鎮・竹内栖鳳の名前も挙がっています。大観は栖鳳も東京で活動しないかと声をかけましたが、断られてしまったそう。しかし、大観は栖鳳に対してリスペクトがあったと思われます。

京都画壇と東京画壇。両者に繋がりがあるイメージはあまりないかもしれません。
しかし実際には両者の間には盛んな交流があり、時には合作も行っています。

20200731_142001.jpgこちらは左から川合玉堂、横山大観、竹内栖鳳の3名による合作「雪月花」。この3人は他にも合作を手掛けているそうで、絵を通して交友関係が感じられる作品です。

20200731_141427.jpg

20200731_141355.jpg極めつけはこちらの「雲錦帖」。大観ら東京画壇の画家たちと栖鳳ら京都画壇の画家たち、総勢48名による寄合帖です。参加者には聞いたことのある画家の名が連なり、まさに夢の東西オールスター合作といったところ。
(こちらは時期により公開される作品(ページ)が変わります)

福田美術館が「日本美術に詳しくない人も楽しめる美術館」をコンセプトとしていることもあり、今回は解説文も人間関係や背景事情にも触れた、キャッチーで楽しく読めるものを目指したそうです。
絵がより一層身近に味わい深くなり、印象も変わって見えるかもしれません。
他にも、実際に日本画で使われる画材や岩絵具の素材も展示されています。
元々日本画が好きな方はもちろん、普段はそんなに意識して見ていないという方、若い方も楽しく日本画の世界に浸れる内容の展覧会でした!

※近隣の嵯峨嵐山文華館で開催の「いきものがたり」展でも、東京・京都画壇の画家の作品が展示されています。共通チケットもあるので、併せて見るのもお勧めです。

なお、この展覧会は近代の画家・作家がキャラクターとして登場するメディアミックス作品「明治東恋伽(通称:めいこい)」(株式会社MAGES.)とコラボレーションイベントも開催。カフェスペースでは、大観・春草イメージのドリンクの提供も行われています。


大観と春草-東京画壇上洛-

日程:2020/08/01-10/11
会場:福田美術館
休館:火曜日(祝日の場合は開館・翌平日休館)

最近の記事