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【レポ】よきかな源氏物語(嵯峨嵐山文華館)

2024/01/22

物語の舞台・嵐山で、絵から学ぶ「源氏物語」体験を。

yokikanagenji-repo(1).jpg「よきかな源氏物語」(嵯峨嵐山文華館)展示風景

2024年のNHK大河ドラマの主人公は『源氏物語』の作者・紫式部。これもあり、今『源氏物語』をはじめ平安時代の文化が気になっている方も多いのでは?

そんな方にピッタリの展覧会が、嵯峨嵐山文華館で開催される「よきかな源氏物語」。『源氏物語』を題材にしたさまざまな日本画を、各場面の解説とともにわかりやすく紹介している展覧会です。
内覧会にお伺いしましたので、その様子をご紹介します。

※本記事は取材時(2024年1月・前期展示)の内容に基づきます。展示替のため、来場時によって展示内容が異なる場合がございます。予めご了承ください。

『源氏物語』と藤原定家の関係

yokikanagenji-repo(2).jpg「よきかな源氏物語」(嵯峨嵐山文華館)展示風景

展示冒頭は、まず紫式部の紹介から。
左端は最近注目度が上がっている近代大阪画壇の画家・北野常富作の紫式部像。
その隣は近代京都の日本画家・中村大二郎作の紫式部。こちらはかつて京都の小学校の校内に飾られていたものだそうで、紫式部や『源氏物語』が昔から親しまれる存在だったことが感じられます。

右端には小倉百人一首の選者である歌人・藤原定家の肖像が。定家が生きたのは紫式部の時代より100年ほど後ですが、何故ここで紫式部と定家が一緒に紹介されているのでしょうか。

それは、定家と『源氏物語』の深い関係故。昔は印刷機がなかったため、書物は書き写す(写本)ことで人々に広まっていました。しかし、何度も人の手を経るうちに書き写される文章がいつのまにか変化し、原本の内容とは変わってしまうことがありました。文学研究者でもあった定家は、これを憂い、さまざまな版の『源氏物語』写本を集めて照合・研究し、表現・解説をまとめた注釈書や、文章表現を整えた写本を自ら制作しました。定家の『源氏物語』写本は、後に青表紙本とも呼ばれる系統となり、『源氏物語』の原本に近い版として広く普及していきました。『源氏物語』が長く読み継がれる礎を築いたひとりが定家だったのです。

yokikanagenji-repo(3).jpg「よきかな源氏物語」(嵯峨嵐山文華館)展示風景
長谷川宗園《百人一首手鑑》【前期展示】
右が紫式部。左は娘の大弐三位。

『源氏物語』を非常に大切に思っていた定家。彼が後に選んだ『百人一首』の中にも、その作者である紫式部の歌が含まれています。
嵯峨嵐山文華館には『百人一首』の歌人たちや関係作品を紹介するエリアがあります。歌人紹介コーナーでは100人の歌人たちのフィギュアが並んでいます。こちらにも紫式部がいるので、併せて探してみてはいかがでしょうか。また、展覧会にあわせて百人一首に関する美術作品で紫式部が描かれているものや、かるたも展示されています。『百人一首』を通してみると、より紫式部が身近に感じられそうです。

絵で見て楽しむ『源氏物語』の世界

yokikanagenji-repo(8).jpg「よきかな源氏物語」(嵯峨嵐山文華館)展示風景
狩野山楽《源氏物語押絵貼屏風》【通期展示】

続いては『源氏物語』を題材にした絵画作品を紹介。1階では主に屏風作品を展示しています。

見どころは、京狩野の祖・狩野山楽が晩年に描いた《源氏物語押絵貼屏風》。大変貴重な、状態の良い大型作品です。
源氏物語各巻の名場面を抜き出し、物語の前半と後半にわけて屏風に仕立てたもので、右隻では「桐壺」での主人公・光源氏の元服から、「花宴」での政敵の娘である朧月夜の君との逢瀬、それが発覚し都を追われる「須磨」、後に許されて都に戻った「絵合」まで、物語の前半の場面を見ることができます。

yokikanagenji-repo(5).jpg狩野山楽《源氏物語押絵貼屏風》【通期展示】(部分)
真ん中が「賢木」の場面。左上に野宮神社を示す鳥居が見えます。

注目が「賢木」。光源氏の恋人の一人・六条御息所が斎宮となる娘とともに伊勢に向かうことになり、訪ねて来た光源氏と別れを惜しむ場面です。その舞台となるのが、嵐山にある野宮神社。絵の中にはそれを示す鳥居がはっきりと描かれています。
当時、野宮神社は斎宮になる人が禊のために1年ほど過ごす施設でした。この場面の前の巻「葵」で御息所は光源氏の正妻・葵の上を、嫉妬心から無意識のうちに生霊となり呪い殺しています。これに気づいた御息所は、このままではいけない、と源氏との関係を絶つため娘に付添って野宮に籠っていたのでした。
源氏物語に登場する場所が施設のすぐ近くにあるのは、京都の展示ならでは。

yokikanagenji-repo(6).jpg「よきかな源氏物語」(嵯峨嵐山文華館)展示風景
作者不詳《源氏物語図屏風》【通期展示】
江戸時代に描かれた源氏物語図屏風。全54帖の名場面を詰め込んだ大作です。
作品によって同じ帖からでも描かれている場面が違うところもあり、作者や時代の好みも感じられます。

1階には他にも《源氏物語図屏風》が展示されています。屏風にはどれが何の場面を描いているのか、物語の解説も添えられているので、『源氏物語』に詳しくなくても楽しめます。また、見比べると場面ごとの共通するモチーフやキーアイテム、場面の描き方の型もわかるので、他の絵を見ても「これはあの場面だな」とわかりやすくなります。

yokikanagenji-repo(9).jpg狩野玉圓永信《源氏五十四帖図》【通期展示】

例えば、2階に展示されている狩野玉圓永信の《源氏五十四帖図》 。この作品では、あえて登場⼈物を描かない「留守模様」のスタイルがとられています。ず、各場面を象徴するモチーフのみで表現しているので、1階で覚えた場面ごとの描き方やキーアイテムを覚えているとより楽しめる作品です。

yokikanagenji-repo(10).jpg山本素軒《源氏物語図屏風》【通期展示】

また2階では、物語の中から一つ、二つの場面をピックアップして描いた形式の作品が展示されています。
江戸時代の狩野派の絵師・山本素軒が描いた《源氏物語図屏風》 では、右に光源氏が須磨に流された時に出会った明石の方と、その間に生まれた明石の姫君が都に戻った光源氏と再会する場面、左には離れて暮らす娘の姫君に宛てて明石の方が書いた手紙を光源氏が預かっている場面が描かれています。物語の中でつながりのある場面を並べることで「親子」をテーマとした絵に仕上げた作品です。

yokikanagenji-repo(12).jpg山本素軒《源氏物語図屏風》右隻(部分)【通期展示】
明石の方が小さな明石の姫君を抱いて光源氏に対面させています。
この場面の舞台が大堰川に面した屋敷、つまり嵯峨嵐山文華館。物語と現実がリンクした体験ができます。

なお、この絵の右側、明石の方が光源氏と会った屋敷「大堰殿」は、嵐山で目の前に大堰川を望む場所にあった設定だそう。ちょうど嵯峨嵐山文華館がある場所です。絵を見た後は、「この景色を見たのかな?」と外を眺めたくなりますね。

yokikanagenji-repo(11).jpg展示室横からは嵐山と大堰川の景色が望めます。
近隣の源氏物語関連スポットをまとめたマップも配布されているので、展覧会と併せて足を運んでみては?

実際に物語の舞台となった場所で『源氏物語』の世界を楽しむ贅沢な体験ができる展覧会でした。
リアルと結びつくと、より作品に親しみが持てるのではないでしょうか?
『源氏物語』がお好きな人も良く知らない方も、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

展覧会は4月7日まで。

よきかな源氏物語(嵯峨嵐山文華館)

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