「これからの400年を生きていく襖絵を The Fusuma-e living along in next 400 years」
お抱え絵師といえば、まず最初に頭に浮かぶのが室町時代から江戸時代初期に活躍した狩野派。
そして安土桃山時代に活躍したその狩野派のひとり・狩野了慶(かのうりょうけい)の襖絵がこの妙心寺退蔵院にあり、長い年月を経て損傷が激しいため、その襖絵を現代の若き絵師によって400年ぶりに描きかえるというのがこのプロジェクト。
指で突けば破れそうな、日本家屋の伝統的一アイテム・襖に絵を描き、それをこの先400年の長きにわたって残してゆこうとは。
その現代のお抱え絵師というのが、村林由貴さん。
京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業・同大学大学院芸術研究科を修了したアーティストです。
その若きアーティストの描く、
「妙心寺退蔵院方丈襖絵プロジェクト」 2013年8月25日(日)~9月1日(日)
を見に行ってきました。
村林さんは現在退蔵院に先駆けて、妙心寺壽聖院(じゅしょういん)本堂の襖絵を製作中です。
退蔵院の見学を終えてツアーガイドのおねえさんについていって、壽聖院のなかに入っていくと、
「ようこそいらっしゃいました」
と村林由貴さんご本人が迎えてくれました。
とても重々しいプロジェクトを推進しているとは思えないほどの、かわいらしいお嬢さんです。
「それではこちらから襖絵のご説明をさせていただきます」
とご本人から作品の説明を聞くことができました。
「実は墨絵を描くのは初めてだったんですけど…子供のころは少女マンガを描いてましたし。
こちらのお部屋では、ひとつの空間を作り出すことをイメージして襖絵を描きました」
くるりとお部屋を囲む襖には、スズメが幾羽か飛んできて、稲穂に留まったり落穂をついばんだり、そこからまた飛び立ったりと、生き生きとした絵が描かれてます。
これら襖のスズメたちは、この下の写真のロール紙に描かれたものが元になっているそうです。
その次に、
「こちらのお部屋はお客様をおもてなしするお茶室になっています、なのでおもてなしのこころをイメージしてこのような絵を描きました。ここは東向きの窓がついているので朝の光とお花をということで…時間帯によってお部屋の表情が変わるので一番心地よいのはいつなのかと考えながら」
そこには牡丹、せみの抜け殻、葡萄の実と木、てんとう虫や蟷螂などの昆虫がにぎやかに描かれてます。
「そしてこちらのお部屋の襖絵は…さきほどまでご覧いただいた襖絵は余白があっての襖でしたけど、こちらは画面いっぱいに描いてます。襖絵には余白がつきもの、っていうのが常識ですけど、最初はこの絵もそうするつもりでした、だけど自分のなかでなんだかしっくりこなくて、『ここで型にはまったらだめだな』と思って…『えい!描いちゃえ!』と」
そして描かれたのがこの上の、
“鯉が躍動し輪廻を表す夏”
をはじめとする、春夏秋冬という襖絵。
今回もそのイラストをメモ帳に描いてみました。
これが見たくて今回のツアーに参加したんですから。
そのスケール・躍動感たるや、本物を見てこその感動と衝撃です。
ほんとにこの華奢なお嬢さんからこのダイナミズムが生まれるのかと。
これらはすべて墨絵なんだけど、なんだかボクには少しカラフルに見えます。
ほんのりと、かすかに色のついた襖絵に。それは、
“襖の墨絵×脳のなかの経験”
が生み出すイメージなんじゃないかと、ボクは思うんです。
墨絵を見ながら、脳のなかでは、
「牡丹ってこんな色だったよな…葡萄はこんな色で…」
という感じで色が絵に重なっていく、そんな化学反応が起こっていると。
そのようなダイナミックな襖絵がほかにも、三つありました。
“蝶が舞う春爛漫の天上界” “旅立つ鳥と葡萄に一期一会の心をこめた秋” “松に雪”
これらの圧倒される作品を描きながらも、当の村林由貴さん、
「肉体的にも精神的にも最高の高みまで自分を持っていかないと、描けないんです、これらのなかには8月16日に描きあげたものもあるんですよ」
って、つい最近じゃん!
平成の絵師・村林由貴さんは歴史的にも大きなプロジェクトの中心にいながらも、そのプレッシャーなど微塵も感じさせないほど、かわいらしい笑顔でその制作秘話を話してくれるんです。
「これは高知の農家さんの栽培されていた稲穂です、実際のものを見て来いとここの副住職さんに言われまして、そのとき描いたスケッチです」
本物を目の前にして描く絵は、白いキャンパスに命を吹き込むんですね。
この稲穂は、ボクの目には生きているように見えました。
そうかと思えば、このようなかわいらしいカエルの絵も描いてます。
平成のお抱え絵師・村林由貴さんは間違いなく現代の若きアーティストでした。
妙心寺退蔵院 方丈襖絵プロジェクト「絵師・村林由貴の描く世界 妙心寺壽聖院 襖絵公開ツアー」
中里楓です。「京都をもっと好きになる!」「アートが好き!」「カフェが好き!」この3つのコンセプトをもとに京都の魅力を探し歩いてます。時空的にも空間的にも京都にはひとを惹きつけるものがいっぱい。そんな京都的小宇宙を精いっぱいご紹介します。