「春より秋を選んだお寺です」
1997年の「そうだ京都、行こう」のキャッチコピー。
春より秋を選んだ。
どういう意味かと申しますと、今回ご紹介する東福寺には桜が1本もないのです。
「桜があれば人々の遊行の場所となってしまい、禅の修行のお寺にはふさわしくない。」
そんな理由で桜ではなく、もみじで埋め尽くされた境内。
その話を聞いて、ふと思いました。もみじも人を集め、遊行の場所になるのでは?
現実として、紅葉シーズンの東福寺はとてもたくさんの人が訪れます。
もみじ=禅?
春より秋を選んで正解なのか?
そんな疑問をずっと感じていましたが、ある方の一言で納得できたのです。
その話はまた後ほど。まずは東福寺のご紹介から入りたいと思います。
東福寺にはもみじの見所、通天橋と並んで、もう一つ名物があります。
それは近代日本を代表する作庭家・重森三玲さんの作庭した見事なお庭。
ここで重森三玲さんについて少し。
彼のお庭はよく、「近代的」「モダンアート」などと評されます。
たしかにそう。
しかし彼は作庭家になる前に、日本庭園とはどんなものなのか研究した「庭マニア」だったのです。
その一つに「岩を縦に置く」という特徴があります。
縦に置いた岩に仏様や神様が宿り、神秘的に見える。
彼が研究して見つけ出した、日本古来の作庭方法に現代的な美しさを加えたものが、彼のお庭の個性になっているのです。
話はそれましたが、このお庭を見るのはお昼過ぎがおすすめ。
岩が西日を受け、砂の上に綺麗な影を写します。
また、その裏手には北斗七星の形をした「北斗の庭」があります。
砂紋と柱のバランスが、石庭とはまた違った神秘的な魅力を持っていて、とても美しいです。
実はこの柱、東司(昔のトイレ)で使われていたものを再利用したもの。
禅のお庭にはびったりです。
そして、ぐるっと回って北側に行くと、有名な市松模様の苔庭があります。
最初は苔と石が互い違いに並び、徐々に不規則に並んでいくこのお庭。
夏場やもみじの季節よりも、初夏に見頃を迎えるきれいなお庭です。
さて、冒頭にふれたある方のお話に。
東福寺の塔頭(たっちゅう、大きなお寺の周りにある小さなお寺)の方に教えて頂きました。
「もみじの季節もきれいなんですけど、春先のもみじの若葉がね、とてもきれいなんですよ。」
「座禅をしたあと誰もいない通天橋を通ったのですが、若葉がキラキラしてて、極楽ってこんな所なんじゃないかなと思うんです。」
なるほど。その美しさを確かめに行ってみました。
緑一色のもみじの海。その美しさは圧巻でした。
そして紅葉の季節になると…
こちらも圧巻。見える範囲全てが紅葉したもみじになり、感動的です。
このお寺は、春も秋も美しいのです。
こうした季節の移り変わりを感じ取ること。これが禅の教えにもつながるのではないかなと思いました。
もみじ=禅。ピンときた瞬間でした。
最後になりますが、紅葉の季節の東福寺はものすごく混雑します。
通天橋に入場制限がかかり、かなり並ぶこともあります。
真っ赤なもみじを楽しむなら、朝早くがおすすめです。
周りの塔頭寺院も特別公開しているので、1日かけてゆっくりと楽しまれてはいかがでしょうか。
学生時代を過ごした京都が大好きで、お寺や美術館、雑貨屋さんなどをぶらぶらと散策しています。特にお寺には、ヒマさえあれば訪れています。 京都の魅力について、少しでも伝えることができればいいなと思っていますので、よろしくお願い致します。