何必館に入館するたびに、快感に近いものを感じてしまう。
自分だけがこの場所を知っているのではないか、まるでこの場所は自分だけの場所であるかのような錯覚を覚える。
それも、この何必館の静寂さのせいだろう。ここは世間とは違うペースで時を流れている。
1月21日~3月6日まで行われていた「躍動する昭和 木村伊兵衛展」。
木村伊兵衛の写真に映る人、都市、農村。文化はもちろん違うし、社会の流れも違う。
平成世代にとっては新鮮に映るものが沢山だ。
ポートレートに映った人のファッション、化粧、髪型は、もちろん現代とは違う。
発展最中の都市の風景や、農村で働く多くの若者たちの姿は、観賞者の印象に残るに違いない。
「昭和」はいくつもの戦争が勃発したが、日本は結果的に大敗した。
しかし敗戦国とは思えないほど日本は成長し、世界屈指の経済力を持った。
昭和の人々は、そんな激流の中を生き抜くためのエネルギーを持ち、目には見えない何かを渇望していたのではないか。
だとしたら、「躍動する昭和」という写真展のタイトルにも納得できる。
そんな姿が自然に切り取られている木村伊兵衛の写真は、現代社会を生きる若者にとって貴重なものだと断言できる。
昭和という時代を生きたことがない私は、簡単に「昭和」に思いを馳せることは出来ない。
しかし、漠然とではあるが、文字や映像からなら「昭和」をイメージすることは出来る。
そんなきっかけになったこの写真展は、景気も悪く、人間関係も希薄化している現代に必要なものは何なのか、考えさせてくれる写真展であった。