10月のとある昼下がり、友人と二人で京都文化博物館のシャガール展に出かけた。
会場に入るや、大きく引き伸ばされた白黒の家族写真が目に入る。
赤ちゃんを真ん中に若い夫婦が写っている。
「赤ちゃんがシャガール?」「パパがシャガール?」と、私たちは間抜けな会話をした。
当然シャガールはパパのほうだ。
今までに、いろいろな美術館展の中でシャガールの作品を見ることはあったが、シャガールの作品を一堂に見たのは今回が初めてだった。
シャガールの画には、馬やニワトリ、人や家やバイオリンが、淡い青や緑、ピンク、赤、黄色、パープルであふれたパステル調のキャンバスの中で飛んでいる。
なかでも一番印象的なのが、空飛ぶ2人。一人が一人に重なるようにして、いつもキャンバスのどこかの空間に描かれている謎の男女だ。
私はその日、2人の顔がはっきりと描かれた作品を初めて見た。
1917年、シャガールが愛するベラと結婚した二年後に描いた「散歩」である。パリで流行っていたキュビズムの影響を受けたそれは、キャンバスの真ん中に誇らしげな顔をして両手を高く上げて仁王立ちにたっているシャガールと、彼の左手に右手をしっかり握られて空中を飛んでいる妻ベラが描かれていた。
なんと嬉しそうで得意気な、いや得意気すぎて少し下品にも思えるシャガールの顔。
「街の上で」では、シャガールがベラを左腕に抱いて空を飛んでいた。
以後シャガールは彼のキャンバスの中でベラを片手に抱いて空を飛び続けた。
シャガールが、帝政ロシア領のヴィテブスクで生れたユダヤ系の画家だったことも初めて知った。
ユダヤ系であったことも含め、シャガールは空を飛んだのだろう。けれども、シャガールの画には一枚も暗い影のある作品は見当たらなかった。
展覧会を見た後の楽しみは、ショップで絵葉書を買うこと。しかし今回は買う葉書が見つからない。
なぜって、愛と結婚を描いたシャガールだけあって、葉書を送る相手は新婚さんに限定されそうだからだ。
ただ一枚、ベラが亡くなって約30年後に描かれた「河のほとり」は2人が飛んでいなかった。
友人と私はこの絵葉書を購入して、文化博物館のそばにあるステンドガラスの店をのぞいてみた。
展覧会を見た後は、やたらARTに触れたくなる。
文:虹のSIKA