東京国立博物館、東京文化財研究所から黒田清輝の全てがやってきたという感じの展覧会です。
作品は「パリ留学。そして転進」「パリからグレー=シュル=ロワンへ」「白馬会の時代」「文展・帝展の時代」と四つの時代に分けられており、その他、写生帖、書簡、日記、複製写真、遺品の絵の具箱も見ることができて「黒田清輝」を知る事ができました。
画家黒田清輝の名は、重要文化財「湖畔」で広く知られています。
一重の夏の着物にうちわを手にした夫人が芦ノ湖を背景に描かれています。初めて知ったのですが、モデルは照子夫人だそうです。一緒に避暑に来ていた黒田が「モデルにするから」と、突然言って描いた作品で、夫人の手にしているうちわは泊まっていたホテルのものだそうです。
「湖畔」の近くには、照子夫人のポートレートも数枚展示してあり、美しい夫人の写真と絵が楽しめました。
「湖畔」は思っていたよりも大きいサイズのキャンパスに描かれていました。近くで見ても油絵とは思えない薄い色彩で水彩画のような感じでした。そのせいか、日本的な湿度が感じられて夫人に東洋的な控えめなそれでいて凛とした雰囲気を感じさせていました。
横には、黒田が絵を描いていた位置がわかったとして、黒田が見たであろう風景の現在の巨大な写真スクリーンが展示してあり、展覧会に来た私たちを驚かせます。そして黒田の見た風景を共有できる手法は文化博物館的だなあと、個人的に感心してしまいました。
黒田は最初、法律家になるためにパリへ留学しました。それが2年足らずでバッサリと辞め、絵描きになることに方向を変えます。それから1年半ひたすら、開けても暮れてもデッサンを描いて修行したそうです。1年半後やっと師から油絵を使ってよいという許可を得たということです。ですから、今回の展覧会も、前半は木炭で描いたデッサンの作品が12・3枚、それも大きな画面ですので圧倒されます。こうして培ったデッサン力が彼の描く人物の素晴らしさにあるのでしょうか。風景の中に一人の人物が描かれているだけで、人物は風景の中に溶け込みながらも、作品の要になっています。肖像画も描かれた人となりがにじみ出るような作品ばかりです。
30代の黒田は、いろいろな手法や当時は敬遠されていたヌードも「これが絵の本質だ」として、展覧会に大胆に出展して、日本の洋画界の最先端を行っていました。当時の人が描かれている人物画はやはり当時の人が着ていた着物などが多く大正時代を感じさせます。もし今の時代に彼が生きていたなら、どのような人物像を描くのでしょうか。
文責:虹のSIKA