ルネ・マグリット 《空の鳥》 1966年 油彩/カンヴァス 68.5×48cm ヒラリー&ウィルバー・ロス蔵
Hilary & Wilbur Ross © Charly Herscovici / ADAGP, Paris, 2015 © Photothèque R. Magritte / BI, ADAGP, Paris / DNPartcom, 2015
青空を憎む人はごくまれだろう。
白い雲が浮かぶ青い空を見上げると、いつだって明るい気持ちになる。
頭上に広がる青空は、今日がいつもと変わらないことを証明してくれる。
マグリットの絵には、そんな空がしばしば描かれている。
ただし、切り取られていたり、ありえないものがそこに浮かんでいたりする。
いつもの空とは違う。
だからマグリットの青空は、見る人を不安にさせる。
例えば代表作《大家族》。
青空が鳥の形に切り取られ、どんよりとした海辺の空に浮かんでいる。
青空も鳥も、タイトル《大家族》も、穏やかで優しい感情を誘う、いわば平和を象徴するようなモチーフである。
しかし不自然に切り取られ、暗い画面に浮かぶ青空を見ていると、胸騒ぎがする。
ひょっとしたら「穏やかなもの」のすぐ後ろにはいつも、「穏やかならざるもの」が潜んでいるのではないか。
「穏やかなもの」は幻のように儚く、壊れやすいものなのではないか。
マグリットの絵は一見おもしろくキャッチーだ。
しかし展覧会を見ていると、タイトルも含めた絵の要素がどのように働き、見る人に何を思わせるのか、マグリットが慎重に検討して描いていたことが分かってくる。
一点一点の絵が、感情を不規則に揺さぶる装置のようだ。
綺麗、可愛い、怖い、寂しい。穏やか、痛々しい。
マグリットが仕掛けた装置に身を委ね、様々な感情に翻弄されてみようではないか。
それは日常生活では得られない経験かもしれないから。