4年以上前か「BAR超能力/CPG」で見た染谷さんの御獣(おけもの)「太郎と花子」に遭遇した際の軽い目眩は、こうして、さらに磨かれた造形精度と日本的な蠱惑的宇宙の創出への出会いへとリンクしていたんだとうれしくなってしまいます。
この個展のテーマは「心への用」ということです。
以前「自分の作品は工芸“的”であるどころか、工芸そのものです」と仰っていた染谷さんの漆感にはなんらブレもないし、今、こうして楚々としかも凛とした佇まいを見せる作品を目の当たりにすると、確かに漆芸はハードルの高い技術の上に成立する分野ではあるし、その上でしっかりと自分が作りたいものを作っていくことは僕のような門外漢には想像を絶するエネルギーを要する“手はず”を踏むのでしょう。
手の平に乗るような小さい作品から滲み出る(というよりも香のように“きく”と言う方がふさわしいですか)心地良さは、もしかしたら失礼を承知で言うのなら、作家の加齢と関係がないわけではないのかも知れません。それがそのまま「咀嚼」という表現に結びつくのかななどとシッタカぶってみます。
覗き込むと自分が小さくなってその小さな空間で遊んでいるような、とても洗練された世界が広がっています。
これは盆栽や坪庭、果ては俳句にも通ずる日本独特の“ミニマムな遊び心”をも感じさせる「抑制された加飾」とも解釈できます。