今回はライターのkeiko.hさんに、こちらの展覧会の感想レポートをお寄せいただきました!
どうもありがとうございます!
入り口を通るとすぐ目に入る、白いパネル地に黒で書かれた文字。
なんのために うまれて なにをして いきるのか
こたえられないなんて そんなのは いやだ!
この一節を聞いたことのある人は多いでしょう。
そう、やなせたかしさんの代表作『アンパンマン』のアニメ主題歌、『アンパンマーチ』の一節です。
京都国際マンガミュージアムの「ぜんぶ!やなせたかし!」展に行ってきました。
展覧会名にある通り、この展覧会では『アンパンマン』だけでない、やなせさんのマルチな才能あふれる作品に触れることが出来ました。
たくさんの漫画、絵本、詩、歌詞、抒情画...。
詩集くらいは読んだことがありましたが、やはりアンパンマンのイメージを強く持っていた私は、やなせワールドの広さにただただ驚くばかりでした。
中でも私が特に面白いと感じたのは、やなせさんの原点とも言えるパントマイム漫画、『ビールの王様』。キリンビールのPRとして描かれた、言葉なしの4コマ漫画です。
身体の丸いフォルムが可愛い「ビールの王様」が登場し、どれを読んでもクスッと笑わせてくれました。
作品横の説明によると、やなせさんがプロの漫画家として最初から認められたのはこの漫画で、やなせさんはパントマイム漫画こそ漫画の原点だと信じられていたそうです。
他に、何をしても上手くいかない...という気の毒さが面白い「泣きツラのカレ氏」という漫画など、面白い漫画が多くて展示されている漫画1つ1つを立ったままじーっと読んでしまいました(笑)。
あまりにも有名なヒーロー、アンパンマン。
その作品を展示しているコーナーに、「アンパンマンの本質」と題された説明書きがあり、以下のような引用がありました。
自分が死ぬことによって
他を生かす。
それがぼくの使命なのだ。
ぼくは死ぬるが
その生命は他者の中で生きる。
ぼくは飢えた人を
救うのではなく、
飢えた人の中に
ぼくが生きるのだ。
(やなせたかし著『熱血メルヘン 怪傑アンパンマン』1977年、サンリオより)
アンパンマンの本質には、戦争経験者でもあるやなせさんの考えを読み取ることが出来ると思います。
傷つくことなしに、犠牲を払うことなしに正義は行われない。
だからヒーローは、どこまでも飛んでゆくのだと。
やなせさんは、スーパーマンのような「強い」ヒーローに疑問を感じてらっしゃったそうです。
怪獣と戦ったりするのは本当に正義の戦いなのか。自分の生活を守ってくれる人が正義の味方なのではないか。そう考え、お腹を空かしているときに助けてくれる、地味な正義の味方を描きたかったそうです。
アンパンマンが子供を始め多くの人を魅了するのは、単なる表面的な「強さ」を持っているからではなく、傷つく弱さを自覚した上で犠牲を払える「強さ」を持っているからなのかもしれません。
こんな風に考えながら、展示されていた原画『渚のアンパンマン』には思わず見入ってしまいました。
夜の海の上をアンパンマンが一人で飛んでいる絵です。
いつも賑やかに囲まれているアンパンマンの珍しく孤独な姿ですが、その顔は笑顔。
その表情に優しさだけでなく、1人でどこまでも飛んでゆく強さというか、ヒーローの貫禄のようなものを感じました。
アンパンマン...深いですね。
この展覧会の終盤で見た、やなせさん直筆の言葉が印象的でした。
「生きることにまだ飽きない もっと生きたい ジタバタしたい」
「人生なんて夢だけど 夢の中にも夢がある」
本当に生きるパワーがもらえます!
最後にもう一度、『アンパンマンマーチ』から引用したいと思います。
ときは はやく すぎる ひかる ほしは きえる
だから きみはいくんだ ほほえんで
あまりにもシンプルな言葉。
だからこそ、心にダイレクトに響いてきます。
文責:keiko.h 編集:京都で遊ぼうART
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90歳を越えた今も精力的に活動を続けていらっしゃるやなせさん。
その重ねた人生の分、シンプルな言葉のもつ重みは計り知れません。
人の生きるためのエッセンスも、この展覧会には込められているのではないでしょうか。
「ぜんぶ!やなせたかし!~ビールの王様・詩とメルヘン・アンパンマンetc.~」展は、いよいよ今週末・12/26(日)まで!
まだの方は、お急ぎ下さい!