ビッグバンにより宇宙ができたとするならば、無限に広がる前の何らかの物質。膨大なエネルギーを凝縮したようなそれでいて深遠な広がりを感じることができるのが、初代長次郎の黒楽茶碗。
新緑の匂いも清々しい京都御苑を抜けて、住宅街の一角にある樂美術館に足を運ぶ。
展示室は一階と二階に分かれており、歴代の銘茶碗がひとつづつ並べられている。また、若干ながら焼印や水差しなどの焼き物も楽しむことができる。楽茶碗は手びねりの造形が特徴で、ろくろで作ったかと思うような美しいフォルムとそこに加えられた釉薬や造形に歴代当主それぞれの感性が強く出る作風。
展示室一階に入ると驚くかもしれない。同じ楽焼で、しかも当主の作品にもかかわらず、これほどまでに特徴のあるものが作られてきたのかということ。まずはざっと見ていただいてもいいかもしれない。自分が手にとって茶を一服いただくならどの茶碗が一番しっくりくるだろうか。もちろんお席によって変わる茶碗であるが、旅行に、もしくは毎日茶をいただく茶碗として人によって手に取るものが異なるだろうと感じさせる、それほどに茶碗に特徴がある。これは、歴代の当主が単に土を練って火と交わってきたからではないことから生まれる。それぞれの当主の歩んできた道がしっかりと作品に反映されているために、こういった特徴が生まれてくる。所感で茶碗を見た後は、じっくりと一つ一つの茶碗を見ていただくと良い。よく見ると真円ではなかったり、飲み口の形状が異なっているなど、細かな差異も目に入ってくる。茶碗ごとに掲載されている解説も完結かつ適切でゆっくりと一つ一つの作品を見る際にとても参考になる。
二階に上がるとその他の焼き物があり、底から少し上がったところにまた歴代の茶碗が並ぶ。
一階をじっくり見た後、ぜひこの二階にあがって左手にある初代長次郎を見ていただきたい。大きさこそ他の茶碗と比べても小さめであるにもかかわらず、ずしんとくる力強さを内包している。見れば見るほど引き込まれるような存在感と、底に広がる「無」に対する畏敬の念を抑えることは難しい。この茶碗に向き合ってしっくりくるほどの茶人はやはり利休くらいかとまで思わされてしまう。なんとも存在感のある茶碗。
初夏の散歩のついでに、この異空間とも言える樂美術館の世界に足を止めてみてはいかがでしょうか。付近には「とらや」の茶寮もありますので、美術館の後においしいお菓子とお茶をいただきながら、感想を話すのも一興ではないかと思います。
『定本 樂歴代』出版記念 樂歴代名品展 樂家歴代が手本として学んだ伝来の茶碗(~7月7日)