ずーっと訪ねたいと思いつつも、なかなか訪れる事が出来なかった「聴竹居」に念願かなってやっと行って来ました。連休の初日はとても清々しいお天気に恵まれ、新緑が萌え、その名称の通り、『聴竹居 新緑をめでる会』でした。
「聴竹居」は、メディアでも何度も取り上げられておりますのでご存知の方も多いかと思います。しかし、何処にあるのか?
ボランティアの方に大事に守られてきておりますので、「聴竹居」のホームページを見ても地図は掲載されておりません。
写真などで見る『聴竹居』は、緑に囲まれた瀟洒な数奇屋風の住居のイメージでありました。ところが、この住居を建てるにあたり、藤井厚ニは、1万2千坪もの土地(山林)を購入し、そこにプール、テニスコート、茶室、大工さんの住居、瓦やタイルや陶器を焼く窯なども作り、小川や滝のある斜面を生かしたランドスケープとしての居住空間ということでしょうか。
藤井厚ニとは、生家は十数代続く造り酒屋で、東京帝大の建築学科を卒業後に竹中工務店で神戸に勤務しました。夫人は第80代出雲大社宮司で東京都知事の千家尊福の子です。
結婚後竹中工務店を退職し、欧米諸国への旅行の帰国後京都帝国大学建築学科で建築学の教鞭をとりますが、第二次世界大戦前の昭和13年に49歳の若さで亡くなっています。
藤井厚ニの経歴からも分かります様に、「聴竹居」は彼の資質、財力にも恵まれてこそのものでした。
建設にあたりこの地で気温などのデータの収集を行い、昭和3年(1928)に出来上がった「聴竹居」は、何度も繰り返された“実験住宅“の完成形でした。
見学の際に頂戴したパンフレットとボランティアガイドさんの熱い思いのこもった解説によると、「聴竹居」は、環境共生住宅の原点だそうです。
確かに自然の中に楚々と埋もれるように建っています。風と水を生かしたオール電化の住居で、プールの水を取り込んで水洗とし、風の流れを取り込んだ夏を旨とした住居でした。
外観は和風ですが、中に入ればどの部屋に繋がる居間を中心とした和洋折衷の設計となっています。
畳に座った人の目線が椅子に座った人の目線に合うように畳の床は30cm高く設計されています。この30cm高い畳の間の床の下から居間に冷気が流れるようになっているのです。
家具は造り付けになっており藤井のデザインによるもので、どれも洒落ていて機能的です。この造り付けの家具が耐震補強の役目も果たしていました。藤井は家具だけではなく椅子、テーブル、照明器具に及ぶまで自分でデザインしています。
照明は、丸三角四角とそれぞれの部屋ごとに違い、和紙を貼って光が上に抜ける柔らかな間接照明です。居間にはモダンなマッキントッシュの時計が掛けられており、その上に神棚があったのがちょっとおかしい。居間と繋ながる畳の間の隅には金箔を貼った仏壇もありました。
洋風の客室には、床の間があり、床には洋画も掛け軸も掛けられるような工夫がなされていました。
当時は、まだまだ着物の女性も多く、その帯が座った時に邪魔にならないように客室の椅子は背もたれがありません、また、椅子の上に正座するご夫人もいたらしく椅子の座る部分が長く作られています。
読書室には、娘2人の机と藤井の机があり、娘の机には鍵が掛かるようになっていましたが、藤井本人の机には鍵は付いていないのがいいな。外に面したサンルームは、雨戸が無く庇が長くなっています。しかい、窓の一番上はすりガラスとなっておりサンルームの椅子に腰掛けても、庇が視野に入らず窓の桟を額縁として外の景色が目に映りこむようになっています。サンルームと客室の天井は網代天井でした。
居間から続くダイニングは居間より一段高く洋風の空間です。キッチンから食器や料理が小窓を通してやり取りが出来るようになっています。キッチンには大きなコンプレッサーのスイス製の冷蔵庫があり、清潔感と手元の明るさを考えて壁も棚も白でした。
今回は予約不要の見学会で、ボランティアガイドさんの説明を聞きながらの所要時間30分と限られた見学でした。
もう少しじっくり一部屋ごとに見たかったのでそれは次回へ持ち越しです。
室内の見学を終えて外に出てみるとそこは静かな新緑に包まれたお庭で、そこから外観を眺めてみました。“ECO”という言葉が一般に浸透した今日において、『聴竹居』は居住と云うことを静かに問いかけているように感じました。
大山崎は、大阪と京都の間にあり、古くから交通の要所でありました。関西圏でない方には、小栗旬の渋い語りでお馴染みの「サントリー山崎」の工場がある場所と言えばおわかりかと思います。(こちらの見学もお薦めです。)
そしてお近くには私の大好きな「アサヒビール大山崎山荘美術館」もあります。こちらの重厚感のある洋館も四季折々に素敵で何度も訪れたくなる美術館です。
参考:『〈聴竹居〉という住宅』三重県立美術館 桑名麻理
http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/catalogue/1920_nihonbi/kuwana.htm