※この記事は掲載時(2013年6月)の情報に基づきます。
京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
二条城から南へ、四条通に接した場所にある壬生(みぶ)。
ここはかつて京都の西の端とされ、平安時代に創建された壬生寺を中心として発展しました。幕末には新撰組が拠点を置いたゆかりの地としても知られています。
そんな場所の、壬生寺のちょうど向かい側に、今回ご紹介する日本でも珍しい根付専門の美術館・京都清宗根付館(きょうとせいしゅうねつけかん)はあります。
日本初、小さな伝統美・根付の世界を伝えるミュージアム
根付とは、お金・文房具・薬といった小物を入れた巾着や印籠などを着物の腰帯にさげて持ち運ぶ際に、落とさないように紐の先に取り付けて滑り止めの役目を果たした道具です。特に江戸時代後期から末期にかけて流行しました。
根付はポケットのない和装には欠かせないものであると同時に、日常のお洒落を楽しむアクセサリーでもありました。そのため実用性とともに装飾にもこだわった作品が数多く生みだされ、日本の伝統的な装飾美術品として発展しました。現代の携帯ストラップも、根付が発祥といわれています。
京都清宗根付館では、館長である木下宗昭さんが4、50年ほど前から収集してきた根付コレクションを中心に展示を行っています。現在の所蔵作品は3,000点以上。根付は日本の伝統文化の一環といえますが、専門の個人コレクターとして知られる方は少ないとのこと。
木下さんは、当初は江戸時代に作られた「古根付」と呼ばれる古い作品を収集されましたが、現在は主に昭和20年以降の現代の作家による「現代根付」がほとんどです。これは、木下さんの根付文化を支えたいという想いと、根付館のコンセプトが深く関係しています。
これは江戸時代につくられた「古根付」ですが、どう見ても顔の表情は日本人ではありません。江戸時代の先進的で面白いデザインに驚かされます。根付は湿度変化の影響でヒビが入りやすいため、古いものは特に保管に気を使われるそうです。
明治以降、根付は洋服の普及で着物を日常的に着る人が少なくなり、根付の需要も減少、根付自体も作られる数は激減しました。根付作りは途絶えてはいないものの、現代の作家作品を置いて見せる場所は非常に限られています。また、明治以降に日本の根付は海外(特に欧米)で美術品として人気を集めたため、優れた作品の多くが海外に流出し、日本にはあまり残っていません。
天井近くに飾られている写真は、作品が収蔵されている作家さん。
人の目に触れ、知る機会がなければ、文化を次世代に受け継ぐことは難しい。根付収集の過程で、根付を取り巻く厳しい実情を知った木下さんは、根付コレクションを広く一般に公開し、日本人の手で日本の根付の文化を紹介できる場所を作りたい、と考えました。その想いのもと2007年にオープンしたのが、京都清宗根付館なのです。
心は江戸時代にタイムスリップ。根付と同じ時代を感じる建物空間
根付館の建物は、立派な風格を持つ武家屋敷です。ここは江戸時代の後期・文政3年(1820)に建てられたといわれる壬生郷士・神先家の旧宅で、京都市指定有形文化財にも登録されている歴史的価値の高いものです。壬生郷士とは、元は武士でありながら帰農し農業で生計を立てていた人々で、壬生の地域経営における中心的役割を担っていました。江戸時代には周辺に十数家ほど壬生郷士の家があったといわれています。
ちょうど建物の建てられた江戸後期は、根付が最も盛んに作られていた時期と重なります。木下さんはこのことに縁を感じ、展示場所として選ばれたのだそうです。オープンに合わせて大規模な修復が行われましたが、部屋の間取りなどはほぼ建築当時のままです。根付が使われていた江戸時代にタイムスリップしたような空間の中で、作品を楽しむことができます。
建物鑑賞のポイント
根付館の入口には「式台」と呼ばれる場所があります。これは武家屋敷特有のもので、主に身分の高い人が訪れた際に出迎えをしたり、客の取次を行うために設けられた場所でした。また、廊下側は庭の景観を邪魔することのないよう、柱は一本も立てずに屋根を支える「つり上げ技法」という様式が用いられているそうです。
また、建物内には鉄砲や槍などの武具も展示されており、武家屋敷であったことを偲ばせます。しつらえは館長さんが自分で考えておられるとか。
通路からは立派な日本庭園が楽しめます。
ふと上を見ると、長刀や槍などの武具が飾られていました。武家屋敷らしさを感じさせるしつらえです。
小さな作品もひとつひとつじっくりと。目移りせずに楽しめる展示空間
展示室は1階と2階の各部屋に分かれており、約400点ほどの現代根付・古典根付が公開時期ごとに入れ替えて展示されています。以前はより多くの根付を一度に公開されていたそうですが、現在は最大時の半分ほどに減らされたそうです。
「根付は作品ひとつが小さいため、あまり多く並べすぎると見る人の視点が落ち着かず、かえって鑑賞しづらいんです。一点一点をじっくりとご覧頂きたいので、展示数をあえて抑えています」と、仰っていたのは展示企画担当の伊達さん。単に数を並べるのではなく、目移りせずに楽しめる展示数が保たれているのです。
展示方法にも随所に工夫が施されています。小さな根付の細部まで鑑賞できるよう、展示ケースには拡大鏡やルーペが備え付けられています。また、立体作品である根付の特徴を考えた360度回転する展示台や、裏面を映す鏡も用いられており、作品をさまざまな方向から鑑賞することができるようになっています。
拡大鏡で見ると、根付の繊細でリアルな彫りや、螺鈿などの細かな細工も確認できます。
ギリシャやローマの彫刻風の作品。鏡で後ろ姿も確認できます。
「根付の文化を広くご紹介することがこの施設のコンセプトです。
展示の際は、根付とは何かを誰にでもわかりやすく示すことができるように心がけています」と伊達さんが仰るように、展示室には根付の作り方や特徴も丁寧に解説したパネル展示なども用意されており、根付に接した機会がない人も楽しめるようになっています。
また、根付作りに使う道具や、実際に作品を制作している様子を記録した映像展示も行われており、普段触れる機会の少ない職人技の世界にも間近に触れることができます。
根付作りの際に用いる彫りの道具一式。形や大きさも様々です。
おくどさん(台所)のある土間が休憩場所となっており、一休みしながら映像展示を見ることができます。
釣瓶井戸やかまどなどは江戸時代に使われていたものがそのまま残されています。
京都清宗根付館
所在地
〒604-8811
京都市中京区壬生賀陽御所町46番1号(壬生寺東側)
開館時間
10:00~17:00(最終入館は16:30まで)
休館日
開館期間以外は休館(期間限定開館となっております)
お問い合わせ
TEL:075-802-7000
公式サイト
■料金
一般 :1,000円
中学・高校生 :500円(学生証をご提示下さい)
■交通のご案内
【JR・近鉄】
「京都」駅下車、市バスにて26・28・71系統で17分、「壬生寺道」下車、徒歩2分。
【阪急電車】
「大宮」駅下車、徒歩8分
【京福電車(嵐電)】
「大宮」駅下車、徒歩8分
【バス】
京都市バスにて「壬生寺道」下車、徒歩2分
京都MUSEUM紀行。アーカイブ
- 京都MUSEUM紀行。第一回【何必館・京都現代美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二回【河井寛次郎記念館】
- 京都MUSEUM紀行。第三回【駒井家住宅】
- 京都MUSEUM紀行。第四回【龍谷ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第五回【時雨殿】
- 京都MUSEUM紀行。第六回【京都陶磁器会館】
- 京都MUSEUM紀行。第七回【学校歴史博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第八回【幕末維新ミュージアム 霊山歴史館】
- 京都MUSEUM紀行。第九回【新島旧邸】
- 京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
- 京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】
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