※この記事は掲載時(2013年8月)の情報に基づきます。
京都MUSEUM紀行。第十五回【京都万華鏡ミュージアム】
街の中心部から立ち寄れる、小さな穴の向こうの幻想世界
常に車通りも多く、人々でにぎわう烏丸通。そこから一歩姉小路通に入ったところに、可愛らしいカラフルな看板と柱が目を引く小さなミュージアムが見つかります。ここが、今回ご紹介する「京都万華鏡ミュージアム」です。
アートとしての万華鏡で、親しみやすい癒しの空間を
京都万華鏡ミュージアムはその名の通り、万華鏡を専門に収集・展示しているミュージアムです。オープンは2004年。統廃合のために閉校した旧初音中学校の校舎を利用し、京都市教育相談総合センター(愛称:こども相談センター「パトナ」)の展示施設として開設されました。
隣接する「パトナ」が子どもに関する相談窓口的な施設であったこともあり、施設を訪れる人が心の「癒し」「やすらぎ」を感じられるような空間を作ることが万華鏡ミュージアムのコンセプトとなっていたそうです。同時に、親子連れはもちろん、周辺地域の人や観光客の方も、立場を問わず誰もが足を踏み入れやすい場所にすることも求められていました。そこで、子どもから大人まで親しみやすいものであること、かつ見た目も華やかで現代的な展示品ということで、万華鏡にスポットが当てられました。
一般的におもちゃとしてのイメージが強い万華鏡ですが、近年ではアートとしても注目されています。アメリカを中心とした世界各地に優れた作家が多数おり、国際的なコンテストも定期的に開催されているほどです。日本からも国際展で最優秀賞を受賞する作家が輩出されており、世界的に高い評価を受けているそうです。
万華鏡の歴史
万華鏡は日本に古くからあるものと思われがちですが、実は生まれはヨーロッパです。19世紀初頭のスコットランドで、物理学者のデイビッド・ブリュースターという人が「Kaleidoscope(カレイドスコープ)」の名で特許申請をしたことが起源とされます。
ブリュースター氏は灯台の灯りをより遠くへ届かせるため、光を効果的に反射する鏡の組み合わせ方を研究していました。そこで偶然生まれたものが万華鏡でした。
万華鏡は誕生から程なく日本にも伝わりました。江戸時代の書籍(*1)には、1819年(文政2年)に「万華鏡が流行して大阪で模造品がたくさん作られている」という旨の記述が残されているそうです。万華鏡が発明されてまだ3年という短さで、既に日本でも万華鏡作りが始まっていたのです。
明治時代に入ると、万華鏡は「百色眼鏡」や「錦眼鏡」といった名前で呼ばれ、全国的に流行しました。子どもの身近なおもちゃやお土産物として親しまれるようになったのです。
一方、芸術として万華鏡が認知されるようになったのは1980年代と近年のことです。アメリカで万華鏡の美しさを芸術品として見直そう、という運動が起き、芸術的な万華鏡のブームが起こりました。それが世界的に広まり、現在に至ります。
「まだ日本で万華鏡はあまり芸術作品としては周知されていませんが、ぜひこのミュージアムを機会に、芸術としての万華鏡の世界を知って頂きたいですね」と当日ご案内頂いたスタッフの野田さんは仰っていました。
*1 「摂陽奇観(せつようきかん)」…著:浜松歌国。当時の大坂の風俗を記した本(1833年)
全作品を触って覗いて楽しめる、体験型展示
万華鏡ミュージアムにある万華鏡コレクションは、現在約250点。主要な作品は開館当初に収蔵されたものですが、その後も新作の万華鏡が随時コレクションに加えられています。その中から一度に約30~50点ずつの作品が、年4回ほど入れ替えて展示されています。
展示室は1室のみと決して大きくはありませんが、展示されている万華鏡は全て、直接手に取り、自由に中を覗いて楽しむことができます。これが万華鏡ミュージアムの大きな特徴です。
万華鏡は外見だけでなく、内部に広がる光と鏡による幻想的な映像も含めてひとつの作品。実際に覗いて動かして成立するアートなのです。
また、覗いたときに見える映像はその時その時で異なり、一つとして全く同じ映像が見られることはありません。覗くたびに刻々と変化していく美しい映像は、覗き始めると時間の感覚を忘れてしまいそうです。実際、万華鏡を夢中で覗いているうちについつい長居してしまう方も多いといいます。
形も中身も多種多様。国内外の実力派作家が生み出すアートな万華鏡
夏らしい魚をモチーフにした涼しげな万華鏡。
コレクションは国内外から収集されていますが、中心は日本人作家の作品です。
万華鏡は精密機器でもあり、ちょっとしたことで壊れてしまうことも多いデリケートなものです。破損してしまった場合は作家ご本人に修理を依頼することになるのですが、海外の作家作品が多いと破損の度に海外へ作品を送らなければならなくなり、また輸送途中で破損が悪化してしまう可能性があります。逆に、作家を呼ぶにしても海外からではそう頻繁に来日してもらうことはできません。その点、日本人作家なら必要な際に迅速に修理や点検を行うことができます。
日本人ならではの細工と色彩が光る作品です。
また、過去に世界最大の国際コンテストでグランプリを獲得した優秀な日本人作家さんと直接交流があることも、大きな理由だそうです。
「日本の作家は細工の細やかさなど技術面や色彩感覚が優れている人が多く、世界的にも非常に評価が高いんですよ」と野田さんは仰っていました。
京都万華鏡ミュージアム
所在地
〒604-8184
京都市中京区姉小路通東洞院東入曇華院前町706-3
開館時間
10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始
お問い合わせ
TEL:075-254-7902
FAX:075-254-7902
公式サイト
■料金
【万華鏡展示ルーム】一般:300円 小中学生:200円
■交通のご案内
【地下鉄】烏丸線・東西線「烏丸御池」駅下車、3番出口より徒歩約3分
【市バス】「烏丸御池駅」下車、徒歩3分
※お車の場合は、隣接する「こども相談センターパトナ」の
駐車場をご利用ください(有料)
京都MUSEUM紀行。アーカイブ
- 京都MUSEUM紀行。第一回【何必館・京都現代美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二回【河井寛次郎記念館】
- 京都MUSEUM紀行。第三回【駒井家住宅】
- 京都MUSEUM紀行。第四回【龍谷ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第五回【時雨殿】
- 京都MUSEUM紀行。第六回【京都陶磁器会館】
- 京都MUSEUM紀行。第七回【学校歴史博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第八回【幕末維新ミュージアム 霊山歴史館】
- 京都MUSEUM紀行。第九回【新島旧邸】
- 京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
- 京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第十二回【京菓子資料館】
- 京都MUSEUM紀行。第十三回【木戸孝允旧邸・達磨堂】
- 京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
- 京都MUSEUM紀行。第十五回【京都万華鏡ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第十六回【京都府立堂本印象美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十七回【相国寺承天閣美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十八回【細見美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十九回【清水三年坂美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十回【千總ギャラリー】
- 京都MUSEUM紀行。第二十一回【京都国立博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十二回【京都大学総合博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十三回【京都工芸繊維大学 美術工芸資料館】
- 京都MUSEUM紀行。【建勲神社】
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- 京都MUSEUM紀行。Special【京都市美術館 リニューアル特集】