【レポ】京都市京セラ美術館リニューアル記念展(3)「杉本博司 瑠璃の浄土」
ついに3年の休館期間を終え、京都市京セラ美術館がリニューアルオープン!
そのオープン記念展覧会を内覧会で一足先に拝見してきました!
みどころや、実際の展覧会の様子などを交えてご紹介します!
※京都市京セラ美術館の入館は、当面の間事前予約制(定員有)となっています。予約方法・詳細は京都市京セラ美術館のホームページをご確認ください。
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【レポ】京都市京セラ美術館リニューアル記念展(2)コレクションルーム第1期(春期)
続いては、中央ホールを真直ぐに抜け、新設された新館「東山キューブ」の展示へ向かいます。
日本庭園に出る東広間には、「京都賞(*」を紹介するコーナーも設けられています。柱に表示されている光のメッセージは、過去の授章者のコメントの一部。他にもタッチパネルで授章者の情報を知ることができます。
(* 1984年に創設された、科学や技術・思想・芸術の分野に大きく貢献した人々を讃える国際賞。
《硝子の茶室 聞鳥庵》2014年 ©Hiroshi Sugimoto
Architects: New Material Research Laboratory / Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida.
Originally commissioned for LE STANZE DEL VETRO,
Venice / Courtesy of Pentagram Stiftung & LE STANZE DEL VETRO.
本館から新館まではガラス張りの通路から日本庭園の景色を眺めながら移動できます。杉本博司さんの作品「硝子の茶室 聞鳥庵(もんどりあん)」が池の上に設置されている様子も見えます。お庭には出ることができるので、茶室に近寄って鑑賞もできます。(聞鳥庵の公開は2021年1月31日まで)
杉本博司 瑠璃の浄土
※この展覧会は新型コロナウイルス感染症対策により会期変更(5月26日~6月21日)となりました。
※入館は事前予約制(定員有)となります。最新情報は京都市京セラ美術館のホームページをご確認ください。
※レポートの内容は3月に開催されたプレス向け内覧会時の取材内容を基にしています。
新館「東山キューブ」での最初の展示は、「杉本博司 瑠璃の浄土」。国際的に活躍する現代美術家・杉本博司さんによる京都初の大規模な新作展です。
かつて大寺院が存在していた岡崎の地に建つ美術館の開館記念展として、杉本さんのイメージする形で「仮想の寺院」を展示室に再現。写真を起点に、科学・芸術的探究心が交差する杉本さんの創作活動について改めて考えるとともに、長きにわたり、人々がお寺や仏教を通じて求めてきた「浄土」を見つめ直す、というコンセプトです。
入口には、お寺の門を思わせる幔幕(まんまく)もあり、展示を見に行くというよりモダンなお寺に入るような感覚になります。
中に入ると、最初に目に入るのは13本の柱と、その上に置かれた小さな硝子の塔。〇・△・□など5つののシンプルな形を組み合わせた硝子の五輪塔は、まるで仏様の骨・仏舎利を入れた容器を思わせます。
硝子の五輪塔には、杉本さんが世界各地で撮影した「海景」シリーズの写真が納められており、真ん中の球体部分を覗くと見ることができます。塔によって写真はすべて異なり、足元に撮影地を書いたパネルが置かれています。モノクロームですが、それでも色の濃さや光の反射具合などが異なり、どの海も違う表情をしています。
仏教では「海の果ては浄土の世界に繋がっている」という考えがあり、その世界観も込められたものとなっています。
奥に進むとガラスの破片を組み合わせた窓のような作品「瑠璃の箱」が表れます。
これは展示室内に違う色のものが複数あります。現在では使われなくなった撮影用光学ガラスの破片を集め、アクリルパネルに封じて作ったものだそう。光の加減でキラキラと輝くさまは、まるで海の水面のようです。
こちらは杉本さん曰く「内陣」「ニュートン廟」とも言える空間。
ここに展示されているのは、今回が初めての発表となる新作「OPTICKS」シリーズです。アイザック・ニュートンが発明した方式のスペクトル観測装置を用いて光をプリズム分解し、白壁に映った色を撮影したものです。杉本さんのコンセプトとしては「虹の七色の間にある名前のない色を写している」そう。一色のようでいて、じわりと変化するグラデーション。光の中にはこんなに多彩な色が隠れていたのかと驚かされます。
撮影に用いたプリズムは庭に面した展示室の入口近くに展示されているので、こちらもチェックしてみてください。
次の部屋は、暗闇のなか、壁全体に三十三間堂(蓮華王院)の千体の等身観音立像がずらりと並ぶ写真作品「仏の海」シリーズが展示されています。お寺でいえば、ここはいわば「本堂」にあたるスペース。まるで本当にお寺の内部にいるかのようなこの写真は、杉本さんが長年をかけて交渉し、実際に三十三間堂に通って撮影したもの。早朝、太陽の光が差し込み、仏像が最も美しく輝くその瞬間を写しとっています。
ご本尊の国宝 千手観音坐像は、植木屋さんが使う非常に大きな脚立を特別な許可を得て堂内に設置し、仏像と目線の高さを合わせて撮影したもの。本来の人の視界では見られない構図となっています。
本尊の写真の前には、灯篭が据えられています。これは骨董の蒐集家でもある杉本さん自身のコレクションで、嘗て石清水八幡宮の境内にあった極楽寺という寺院のもの。台座は古い光学ガラスと東大寺で使われていた古材を組合せて作ったものだそうです。
次の部屋は「宝物殿」。 奥に見えるのは、20世紀を代表する現代美術家マルセル・デュシャンの作品《大ガラス(彼女の独裁者たちによって裸にされた花嫁、さえも)》の東京大学が所蔵するレプリカ(デュシャン本人から許可を得て制作されたもの)を元に、杉本さんがさらにそれを縮小して制作した作品。
他にも、古墳から出土したガラスの腕輪や首飾りなどのアクセサリー、隕石や鉱石、正倉院宝物にもある硝子碗を古代ガラスの製法を元に再現したものなど、杉本さんの過去作品やコレクションの品々がガラスケース内に並びます。まさに寺宝を公開する「宝物殿」です。
《法勝寺 瓦》平安時代末~鎌倉時代初期 撮影:小野祐次
そのうちのひとつがかつて岡崎にあった寺院・法勝寺の瓦。この展覧会のオファーがあった際に杉本さんがコレクションの中から偶然見つけ、縁を感じたことで企画を受けたそう。展覧会のきっかけとなった一品です。
他にも、直島(香川県)で杉本さんが再建した《護王神社》の模型も。拝殿と硝子の階段、本殿、石室と現地の建物構造がそのまま再現されているのですが、こちらも仕掛けがあり、下の石室部分を覗いてみると光が差し込み...まるで現地の風景を眺めているかのような感覚が味わえます。
隣の部屋では、舞踊家の田中泯さんが杉本さんの作品である小田原の《江之浦測候所》で行った場踊りのパフォーマンス(2018)を収めた映像《泯踊》を見ることができます。
実際に見るまではいったいどんな展覧会になるのだろう?と想像もできなかったのですが、杉本さんを通して具現化したひとつの"寺院"がそこにありました。
硝子を通して輝く光や現れる色、写真に写し取られた朝日を浴びた仏像たち。硝子と光が生み出す静謐な空間は、かつて岡崎に建てられた寺院に人々が求めた浄土のイメージと触れ合っているような、過去と未来が交差しているような場所でした。
ぜひ来館時には、ご自身でこの空間を体感してみてください!
なお「杉本博司 瑠璃の浄土」展には、特設のショップスペースもあります。
図録は杉本さん自身の寄稿文や対談記事なども満載で読み応え抜群! より展覧会を深く理解できる内容です。
色鮮やかな「OPTICKS」シリーズのポストカードのほか、杉本さんの関連書籍もあります。
中でもユニークな一品がこちら。あの硝子の五輪塔を模した和三盆です!
〇△□のパーツを積み木のように組み合わせると五輪塔になります。カラーとモノクロの2種類。
長く開幕が延期されていましたが、5月26日から開幕、会期も延長され9月14日まで見ることができます。この機会にぜひ足を運んでみてください!
※当面の間、入館は事前予約制(定員有)となります。最新情報は京都市京セラ美術館のホームページをご確認ください。
■ 杉本博司 瑠璃の浄土