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  4. 第3回 宝鏡寺の宝物たち-姫君たちに愛された人形たちとお道具

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宝鏡寺門跡

世代を超えて愛された人形たち

寛永21年(1644)に、後水尾天皇の皇女・仙寿院宮(せんじゅいんのみや)が第二十世の門跡(住職)として入って以来、宝鏡寺には多くの姫君たちが入るようになり、それと共に多くのお祝いやお見舞いの品とあわせ、数々の人形が贈られました。
女の子のお祭に欠かせない雛人形をはじめ、宮中の生活を伝えるような女房たちの姿を写した人形、赤ちゃんを模した人形、行事の様子を再現した人形、動物の人形…その種類は実に多彩です。
なかには、もう現在の技術では作ることができない資料的にも大変貴重な人形も含まれています。

三代に渡って愛された「万勢伊さん」


その中でも、宝鏡寺の展覧会では毎回登場する看板のような存在ともいえるのが、「万勢伊(ばんぜい)さん」と呼ばれるお人形です。
関節を曲げられる「三折(みつおり)人形」というタイプのお人形で、足を折り曲げればきちんと正座させることもできるようになっています。
また、おつきに「おたけさん」「おとらさん」という人形(こちらも三折人形)がいるほか、季節毎の着替えの着物、ミニチュアサイズの道具箱、さらには万勢伊さん用の小さな人形(ほぼ5mm程度の幅しかありません)などの沢山の道具類が用意されているなど大変道具持ちなお人形でもあります。現代にもある家族が揃った着せ替え人形にも通じるものを感じてしまいます。

学芸員の嶋本さんによれば、姫君達は、お人形でのままごと遊びを通じて、家事や礼儀作法などを学んでいたのではないかとのこと。お人形には、幼くして親から離れてしまった姫君達の心の拠り所となると同時に、一種の教材としての役割もあったのです。

この万勢伊さんは、当初は第21代の門跡(住職)、本覚院宮(ほんがくいんのみや)のために贈られたものでした。本覚院宮は大変万勢伊さんを気に入っておられ、能筆(大変書が上手)だった彼女は自ら筆をとって、人形用のミニチュア歌留多を作られたといいます。
万勢伊さんは本覚院宮の後も、浄照明院宮、三麼地院宮と三代に渡って可愛がられたそうです。江戸前期の作とのことですが、そこまで古いものとは思えないほどの綺麗な姿は、それだけ大切に受け継がれていたことの証といえるかもしれません。
それ故でしょうか、万勢伊さんには魂が宿り、夜回りなどをして寺で暮らす宮様方のお世話をを始めたという言い伝えも宝鏡寺には残されています。

三麼地院宮とお雛様たち


もうひとつ、宝鏡寺の人形コレクションの中心的存在となっているのが、春の展覧会に公開されている雛人形です。
女の子の健康と幸せを祈る行事である雛祭りは、宮中でも勿論大切に行われてきました。宝鏡寺には幼くして親元を離れた姫君達のために、親である天皇から贈られた立派な雛人形や雛道具が伝わっています。

お雛様にも、とても小さな芥子雛や、丸い顔立ちがユニークな次郎左衛門雛、大きさもあり豪華な享保雛など様々な種類がありますが、中でも特に知られているのが「有職雛(ゆうそくびな)」と呼ばれる雛人形です。
有職雛とは、宮中のしきたり、即ち有職故実の作法に則って作られたお雛様のこと。服装や髪型、化粧の方法、備えられた品々に到るまで、全てが実際の宮中の礼式に倣って誂えられています。それも服装は布の織り方や色合いまでしっかりと再現されているという徹底振り。特に江戸後期に流行し、宝鏡寺には三組、お内裏様とお雛様が所蔵されています。

この三組はいずれも、第24世・三麼地院宮(さんまじいんのみや)のために、父である光格天皇が贈られたものです。
人形はそれぞれ衣装が異なっており、年頃やシチュエーションを表しています。例えば、若い女性の服装とされる「濃紫袴(こきのはかま)雛」と呼ばれる紫色の袴を召した女雛は、眉も如何にも公家らしい丸い描き眉ではなく、自然な形をしています。隣の男雛の顔立ちもどこかあどけなさが抜けません。このことから、まだ新婚間もない、まだ子供が生まれる前の若い夫婦の姿を模しているといわれています。対して他の有職雛を見ると、女雛の眉は描き眉になり、男雛の顔立ちはより大人びていてお歯黒も施されており、もう少し年の経った夫婦を表していることがわかります。

この雛人形を贈られた当の三麼地院宮は、幼くして寺に入りましたが、身体を悪くし、お寺を継いでまもなく亡くなったといいます。19歳という若さでした。そんな彼女は、贈られたお雛様を大変可愛がられていたそうです。もしかしたら、顔を合わせることのない両親のことを、お雛様の姿にどこかで重ねていらっしゃったのかもしれません。

宝鏡寺の建物内には、このような展示スペースが設けられています。展覧会の際にはこちらに様々なお人形が並びます。

「万勢伊さん」
江戸前期の作といわれる。髪型は稚児輪と呼ばれるもので、上流階級の女の子の髪型でした。顔つきもいわゆる御所人形の感じとは違っています。

左「おたけさん」右「おとらさん」
万勢伊さんのおつきの人形。おたけさんが江戸中期、おとらさんが江戸後期の作です。おたけさんは万勢伊さんと同じ髪型で似た雰囲気がありますが、おとらさんはぽってりとした、より庶民的な表情が特徴です。

有職雛(男雛:直衣姿・女雛:濃紫袴姿)江戸後期・天保4年(1833)
三麼地院宮が父の光格天皇より贈られたもの。女雛はもちろん、男雛も若者が着る衣装を身につけているため、若夫婦のイメージで作られたものであるといわれています。一緒に贈られたお供え物の数々も、白絹の反物や綿などの珍しい道具をはじめ、婚礼調度がしっかり再現されています。展覧会で展示されることもあるので、お寄りの際はこちらにもご注目を。


姫君達の暮らしを伝える道具類

宝鏡寺には、人形のほかにも様々な道具類も伝えられています。
円山派による優美な花鳥画の描かれた衝立、源氏物語をモチーフにした屏風などの調度品のほか、特に目を惹くのは、双六(すごろく/双六は今のものとは違い、西洋の「バックギャモン」に似たもの)、貝覆い(貝合わせ)に用いる貝と豪華な蒔絵の施された貝桶、美しい絵の描かれた歌留多(かるた)などの遊び道具です。これらも幼いうちに寺に入った姫君達に、と宮中から贈られたものでした。

特にユニークなものが、京都を中心とした各地の名所が描かれた歌留多。
江戸中期の作ですが、清水寺など、現代の私たちでもどこかで見覚えのある建物や景色が鮮やかな色合いで丁寧に描かれています。恐らく、この歌留多も調度品や襖絵と同じように円山派の絵師が手がけたものとのこと。他にも歌留多には源氏物語の場面を描いたもの、四季の草花を描いたものがあります。
これらは確かに遊び道具ではありましたが、これで実際に遊ぶにはその絵が何を表しているのか、どの組み合わせが正解なのかを知らなければなりません。源氏物語ならその場面が何の段の話なのか、名所図ならその場所がどこなのかなど、姫君達は一人前の女性として必要な知識や教養を、遊びを通して学んでいきました。人形でのままごと遊びと同様、これも一種の教材としての意味を持っていたのです。

また、このほかにも当時は身分の高い人々のたしなみでもあった茶道の道具や、掛軸なども多く伝えられているそうです。こちらも、中には天皇から贈られたものもあります。
これはなかなか展覧会では公開される機会が少ないそうですが、他施設の茶道展などに貸し出しをされることもあるとのことですので、お目にかかる機会もあるかもしれません。

皇女和宮の御遺愛品


幕末、公武合体(朝廷(公)の伝統の権威と、幕府(武)を結びつけて、幕府の体制強化を狙った政策)のために宮中より徳川幕府の十三代将軍・家茂公に嫁いだ皇女和宮。
彼女も宝鏡寺には縁の深い人物の一人でした。
まだ和宮が幼少の頃、彼女は母君のもとから姉君である桂宮のもとに居を移します。その頃から彼女はたびたび姉君や他の女官達とともに宝鏡寺を訪れるようになり、双六や貝合わせをしたり、庭(鶴亀の庭)で毬をついたりして遊ばれていたといいます。
また、桂宮の御殿が立替られていた際には一時の住まいとしても利用されていたそうです。

和宮が将軍家への降嫁のため江戸へ移った後もその縁は続き、明治になった後にも宝鏡寺から中庭の桜の枝が彼女の元に届けられた、という記述も残されているそうです。
その縁もあり、和宮が亡くなった後に御遺愛品の一部が形見分けとして宝鏡寺に収められています。

代表的なものには、円山応立(応挙の曾孫)の描いた「四季花鳥図絵巻」をはじめ、彼女が遊んだ人形や着物などがあるそう。
歴史の波に翻弄されたことで知られる和宮。宝鏡寺での幼少時の彼女に思いをはせながら、品々やお寺の庭を眺めてみてはいかがでしょうか。

<この記事の取材・執筆に際しましては、宝鏡寺・及び学芸員の嶋本様に多大なご協力を頂きました。この場をお借りして厚く御礼を申し上げます>

「名所図歌留多」。左右をあわせると一つの絵として完成するようなつくりになっています。東寺の五重塔や清水寺の舞台など、現在もよく知られた観光地が描かれていますが、なかなか全てを把握するのは難しそうです。

こちらは季節の草花をモチーフにした歌留多の一部。どれも一流の絵師が手がけており、ひとつひとつ丁寧に優美な草花が手描きされています。何とも贅沢な逸品。



宝鏡寺門跡

宝鏡寺門跡

所在地

京都市上京区寺之内通堀川東入
http://www.hokyoji.net/

時間

10:00~16:00(閉門)

休館

境内自由
人形供養受付:年末年始
人形展:春(3月1日~4月3日)と秋(11月1日~30日)のみ公開
(期間外は休館)

お問い合わせ

電話番号: 075-451-1550

FAX番号: 075-451-1550

■料金

人形展
大人:600円
小人:300円
※人形供養のお供養料は3,000円から

■交通のご案内

【京都市バス】
9、12系統にて「堀川寺ノ内」下車すぐ
【地下鉄】
市営地下鉄烏丸線「今出川」駅より徒歩約15分

【JR】
「京都」駅にて市営地下鉄烏丸線に乗り換え、
「鞍馬口」駅または「今出川」駅下車、徒歩15分
または「京都」駅から市バス9系統にて「堀川寺之内」すぐ


協力:京博連



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