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  4. 第2回 絵馬とガラス、安井金比羅宮の二つの美術館

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安井金比羅宮

日本唯一の「絵馬」ミュージアム―「金比羅絵馬館」

安井金比羅宮の本殿のちょうど向かい、藤棚を挟んで大きな建物が見えます。
これが「金比羅絵馬館」。日本でも大変珍しい、神社に収められた「絵馬」を専門に展示しているミュージアムです。

「絵馬」といえば、神社でお願い事をする際に使う、片面に絵が描かれた木札。これは文字通り、元々は「馬」にルーツがあります。
日本では昔から神様と馬はかかわりの深いものと考えられており、神様は馬にのって人の世にやってくるとも言われていました。そのため、神様にお願い事をする際の奉納品として、生きた馬を神社に収めるということもよく行われていたようです。
「続日本記」などの古い文献を参照すると、長雨が続いた際には太陽を象徴する白や赤毛の馬、逆に日照りが続いた際には雨乞いに雨雲を象徴する黒い馬を献上していたという記述があちこちにあるといいます。

しかし、馬は当時の車のようなもので大変高価なもので、そうそう頻繁に用意はできません。また、神社側にとっても生きた馬を何頭も奉納してもらっても、世話をするのも大変です。そのため、生きた馬ではなく、代わりに焼き物の馬や木彫りの馬を納めるようになり、それが次第に板に馬の絵を描いて奉納されるようになり、「絵馬」が成立した、と考えられています。

また、「絵馬」にも種類があり、大きく分けて大きな額のような「大絵馬」と、小さくて紐などでつるしておくような「小絵馬」の二つの形式があります。
主に「小絵馬」は普段なかなか言えない心に秘めた悩みを打ち明けるようなもの、すぐに少しでも叶って欲しい願い事など、個人的・現世利益的な意味の祈願に使われることが多く、「大絵馬」は人生の目標など、大願成就を祈った内容が多く見られるそうです。
「大絵馬」は特に室町や桃山時代ごろから盛んに神社に納められるようになりました。すると、どうしても大きな絵馬をかけるにはスペースが必要になります。そこで絵馬をかけておく専用の場所として「絵馬堂」が建てられるようになりました。

また絵馬堂は、神社を訪れた人なら誰でも自由に入ることができる建物でした。そのため、人々は絵馬堂にかけられた様々な絵馬…それこそ、お金持ちが財力を投じて作らせた豪華な大絵馬、一流の芸術家が描いて奉納した絵馬も気軽に楽しむことができ、一種の公共ギャラリーとしての性格も持っていたのです。

しかし、絵馬はあくまでお札の一種と考えられていました。そのため、絵馬自体を芸術品として扱い、保管するということは考えられていませんでした。
絵馬堂にかけられた絵馬はそのまま外に吹きさらしのままですから、風雨にさらされ年月がたつと当然、表面に描かれた絵は色あせ、最後には消えてしまいます。それがどんなに優れた絵師の作品であっても。
ですが「絵馬」の文化は他の国にはない、日本独特の宗教美術ともいえます。優れた作品も数多く有り、美術史の研究者からも貴重性を指摘されるようになっています。
この貴重な絵馬を後世のために、できるだけそのままの形で保存したい。
そこで先代の宮司さんが中心となり、昭和51年に開館したのが「金比羅絵馬館」です。

「金比羅絵馬館」の建物も、元々は絵馬堂として使われていた建物が利用されています。
かつては一般的な絵馬堂と同じく、1階は壁なしで柱だけが立っている吹き抜けの状態でした。そこに壁やガラス戸を取り付け、風雨から絵馬を守り、同時に絵馬が展示品として映えるように工夫されています。
しかし改築したとはいえ、もともとの絵馬堂の雰囲気も大切にされています。例えば、重厚な屋根の下、二階部分の壁には現在も沢山の絵馬がかけられています。白い壁に年月を感じさせる大きな黒い柱も、江戸時代の和風建築の風合い。絵馬を芸術品として扱いつつも、「絵馬」本来の風格も損なわないように工夫されています。

正面から見た金比羅絵馬館。

二階部分のアップ。絵馬がかけられているのがわかります。

1階外側部分は展示ケースになっており、絵馬や関連資料が展示されています。


神社の中に広がる、幻想的な「ガラス」の世界―「ガラスの部屋」

実は安井金比羅宮にはもうひとつ、ミュージアムがあります。
それは、「ガラスの部屋」。主に19世紀のアール・ヌーヴォーやアール・デコ時代を中心に、ガラス工芸作品が集められた展示室です。
金比羅絵馬館を見学した方で、希望すれば見せていただくことができます。

神社にヨーロッパのガラス工芸!?あまりに意外な組み合わせに驚いてしまいますが、これは先代の宮司さんによるコレクションなのだそう。
先代は芸術が大変お好きな方で、自らギャラリーや画廊に足しげく通っていらっしゃったのだそう。(京都の主だったギャラリーや画廊はほぼ顔見知り状態だったとか…)
大変ハイカラなセンスの持ち主で、洋画やヨーロッパのアンティークなど、海外のアートに特に関心が高く、自ら積極的に作品を集めていらっしゃったといいます。

中でも特に大切していたのが、ガラス工芸。
展示室には、エミール・ガレにドーム、ルネ・ラリック、ワルター、ルソーといった、19世紀~20世紀ヨーロッパのガラス工芸を代表する作家の作品が数多く展示されています。ガラス独特の美しさが映えるように照明も工夫されていて、ぼんやりと内側から作品が光を放っているような演出には、思わずうっとりしてしまいます。

中でも圧巻は、足元にある現代アメリカのガラス工芸作家デイル・チフーリの作品「海の神」。
3m×4mのガラス張りになった床下の大きなケースに、珊瑚やイソギンチャク、魚、巨大な貝を思わせるようなガラス作品が重なり合いながら展示されています。ケース内は白基調で、まるで白砂の上に南国の貝が鎮座しているかのよう。

実はこれ、作家本人がこの「ガラスの部屋」のために、特別に制作したものなんです!
元々先代の宮司さんが彼の大ファンで、購入したチフーリの作品を飾るために「ガラスの部屋」の床をガラスケースにしたのだそう。その話を聞いたチフーリ本人が「日本の神社が、自分の作品のためにわざわざ部屋を用意してくれるなんて!」と大感激。その後わざわざ神社を尋ねてきて、この床に合うように作品を作ったのだといいます。

チフーリはアメリカで初めて人間国宝に認定された方で、現代のガラスアートを代表する世界的な作家。鮮やかでカラフルな色合いと有機的でユニークな造形は、ガラス表現の新しい可能性を広げたものとして世界的に大変高く評価されています。そんなアーティストの作品、しかも世界でもここでしか見られないような作品が京都の神社にあるんです!
神社とガラスの意外なコラボレーション。ぜひ一度、覗きにいってみてはいかがでしょうか。

ちなみに、ガラスの部屋内にはアジア風の木製の仮面や、油彩やパステル絵画もあります。
これも皆、先代の宮司さんのコレクションです。

<つづく>

これが「ガラスの部屋」の内部。まさか歴史ある神社にこんなモダンなギャラリースペースがあるとは!

大型作品はもちろん、小さなものやアンティークのランプなども展示されています。

これが「ガラスの部屋」が誇る、デイル・チフーリの『海の神』。世界でもここでしか見られない傑作です。部屋の明りを消すと、よりいっそう幻想的な雰囲気に…



安井金比羅宮

安井金比羅宮

所在地

京都市東山区東大路松原上ル西側
http://www.yasui-konpiragu.or.jp/

時間

10:00~16:00

休館

【絵馬館】月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)

お問い合わせ

電話番号: 075-561-5127

FAX番号: 075-532-2036

■料金

【絵馬館】500円

■交通のご案内

【JR・近鉄】
「京都」駅より、市バス206系統にて「東山安井」下車、南へ徒歩1分

【京阪・阪急】
京阪「祇園四条」駅・阪急「河原町」駅より
市バス207系統にて「東山安井」下車、南へ徒歩1分
または四条通を東へ徒歩15分、東大路通を南へ徒歩10分

※普通乗用車無料駐車場有り


協力:京博連



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