京遊×橋本関雪記念館 白沙村荘の庭から 第六回
京都には大小さまざまなミュージアムがありますが、その中には現在も人が暮らしている家の一部をそのまま公開しているようなところもあります。そんなミュージアムのひとつが、日本画家・橋本関雪の建てた邸宅である白沙村荘 橋本関雪記念館。その副館長で関雪の曾孫である橋本眞次様に、普段はちょっと分からない、美術館での日々を徒然と綴っていただくコラムです。
大文字近景
立秋に入ると、ようやく暑さも薄れ始めたような気分になってしまいます。もちろんそれは只の錯覚であり、今からまた雨を伴った蒸し暑さに襲われるのですが、暦の節目を迎えたひと時だけでも暑さを忘れてしまいたいのです。そうでなければ京都の夏は乗り切れませんから。
この時期に入ると、光の波長の具合なのか山が際立って美しく見えます。白沙村荘あたりからは東山如意ヶ嶽と愛宕山が今出川の両端に繋がるように見え、夕暮れを背にする愛宕の遠景を毎日楽しんでいます。雲、そして太陽が空いっぱいに踊るこの時期だけのスペクタクルが東西の空に繰り広げられ、それはもう暑さも忘れる美しさです。
もう一方の如意ヶ嶽は、大文字山の名前でよく知られています。こちらは朝焼けが非常に美しく、出町柳の辺りから見るのが一番お薦めです。体力があるのでしたら大文字の辺りまで登り、明けゆく京の町を見ることも出来ます。片道約30分ですが結構な勾配があるので足がガクガクになります。
8月13日になるとこの如意ヶ嶽の麓、銀閣寺門前町界隈では「迎え火」が盛んに行われます。
これは京都市内の他の地域でも行われる行事ですが、門前町の辺りは16日の「送り火」の点火役の方々がお住まいなのでさらに深い意味があります。
橋本関雪自作の大文字絵皿(大正10年頃)
送り火に使われる薪や護摩木などは以前は大文字山頂辺りまで行かないと書けませんでしたが、最近は京都駅や銀閣寺門前でも販売をされています。これに先祖供養の思いを込めて、送り火に使って頂くわけです。あまり知られていませんがこの行事は民間の有志が行っているものですから、資金援助などの意味も込めてこの薪や護摩木に参加して頂きたいと思います。
京都には多くの祭りがありそれぞれに意味や宗旨が違う物ですが、共通しているのは家族や地域といった共同体がその中核にありそれらを繋ぎ止めているという事です。
人と人の縁はおろか家族の縁ですらも大事にされていない昨今ではありますが、これらの行事を通じて家族や地域の人々がもっとお互いを大切にし合う事こそが本来の意味での祖先供養となるのではないでしょうか。
著者プロフィール
橋本眞次(はしもと・しんじ)
1973年、京都生まれ。
大正・昭和にかけて活躍した日本画家、橋本関雪の曾孫にあたる。
23歳の頃、関雪に興味を持ち父の仕事を手伝いながら資料編纂などに携わる。
現在は白沙村荘 橋本関雪記念館の副館長として活動中。
公式ブログ「京都の庭ブログ」はこちら↓
http://hakusasonso.kyo2.jp/