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アートを支えるひとたちのことば。

今回は、カナダ出身の茶道家、ランディー・チャネル・宗榮さんにお話を伺いました。裏千家教授の資格を持ち、京都在住歴も20年近くになるランディーさんは、茶道の文化をより多くの人に伝えたい、と、茶道教室のほか、メディア出演や自ら町家を改装したカフェのプロデュースなど多彩な活動を行っていらっしゃいます。そんなランディーさんの感じる、京都や茶道の魅力、そして楽しみ方などを語って頂きました。

京都に文化も歴史も、古いものも新しいものも同居している。小さいけれど大きな街だと思います。

―― ランディーさんにとって、「京都」の印象や魅力はなんでしょうか。

京都は1993年に長野県松本市から移って以来、在住しています。もう20年近くになりますね。

私にとって、京都の魅力とは、狭いけれど国際的であること。小さいけれど、とても大きな街であることだと思います。古くからの歴史もあれば文化もある。都会であると同時に、山や川といった自然もある。最先端の技術を持つ人や企業もいる。古いものと新しいものが同時に共存している。日本の様々な魅力がミックスされて、京都という街には詰まっているんです。

世界的に見ても「KYOTO」という街の名前は海外でもすぐに認識してもらえます。昔の日本の都だったことも、知っている方が多いですね。

また、お茶に関しても、色々な流派のお家元が同じ街で暮らしていますし、道具を作る色々な職人さんも同じ街で仕事をしていますよね。こういうことは、まず他の街にはない、京都ならではの特徴だと思います。

茶道の楽しさを知ってもらうきっかけになる、気軽に触れてもらえるような場所を作りたい。その思いを、カフェという形にしました。

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―― ランディーさんがお店(らん布袋)を開く際の、きっかけを教えていただけますか。

最初は、自分の集めた茶道具や、布袋さんのコレクションをストックする、倉庫のような場所が欲しい、と考えていました。しかし、この物件を見て、倉庫にするのはもったいない、せっかくだから茶道に気軽に触れてもらえるような、堅苦しくない場所も作りたいと思い、現在のカフェの形式になりました。

イベントや講演でお茶を点てる機会があった時に、参加された方から「お茶がこんなに楽しいものだったとは知らなかった」という声を聞いたことも、お店を立ち上げるきっかけのひとつです。敷居が高い、ややこしい、と、マイナスなことを思っていたという方がとても多かったのです。

でも、私は「茶道は楽しい」と思っているからこそ続けています。お茶の楽しさをもっと多くの人に知ってもらえないか、気軽にお茶に触れて楽しみを知るきっかけを作る、「種を蒔く」場所を用意できないか、と思いました。

ランディーさんのお店「らん布袋」の内観(1階)

建物自体は本来は築100年くらいの京町家だったんですが、ここを見つけたときにはかなり改造がされていて面影も無くなっていました。そこで一から自分で設計に携わって、改装し直したのです。その際、洋風の要素も取り入れて、和洋折衷の造りにしています。

現在、店の二階で茶道体験やお稽古を開催していますが、椅子に座って行う立礼(りゅうれい)の形式で行なっています。この方が気楽に参加しやすいと思いますし、海外からの方は畳の上で正座するのには慣れていませんからね。

2階の茶室。立礼形式でとてもモダンな雰囲気です。

最初は抹茶BAR、といった感じで何種類も抹茶を並べて...という形も考えていたんですが、抹茶に慣れていない相手に対しては、敷居が高くなってしまいます。カフェならコーヒーも飲みたいという人もいますし、まずは足を踏み入れてもらわないといけませんからね(笑)そこから、お茶の世界にも触れてもらえればと思っています。

最近では、京田辺市のお茶農家さんと協力して、3年がかりでオリジナルのお抹茶も作り、販売しているんですよ。




決まりごとや難しいことはあるけれど、お茶は難しいものとは思いません。難しいと考えるからより難しくなってしまうんです。

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日本人は、お茶の文化をものすごく高尚で難しいもののように思い込んでしまって、かえって距離を作ってしまっているのかもしれませんね。しかし、私自身はお茶がそんなにものすごく難しいものとは思いません。むしろ、「難しい」とばかり考えるから、より難しくなってしまうと思います。勝手に自分の中でハードルを上げてしまっているんですね。

茶道の作法や決まりごとの一つひとつには意味があります。私はもともと武道をやっていましたが、その後「肉体面だけではいけない、精神面も鍛えねば」ということで、茶道を本格的に始めました。茶道はその決まりごとや作法は厳しいですが、それを通じて心に働きかける。心を鍛えるものなんですよ。いわばスポーツと同じです。そう考えると、より親しみが持てるのではないでしょうか。

確かに決まりごとや難しいことはありますが、お茶会はまずは楽しむもの。人をもてなすものですから、同じ時間を皆で楽しむことが大事なんです。守らなければならないことはありますが、分からなくても、後で「どうしてこうする必要があったのか」「何の意味があったのか」を考えてもらえばいいのです。

ショーケースには様々なケーキ。抹茶チーズケーキは人気商品です。

また、お茶会となると和菓子を思い浮かべますが、いつもそうでなければならない訳でもないのです。場によってはケーキを出してもいいんです。実際、お店では抹茶を使ったケーキも出しています。「こうでなければならない」だけではなくて、もっとお茶を自由に感じてもらいたいと思っています。

―― 最後に、今後やってみたい、挑戦してみたいことなどありましたら、教えてください。

階段だんすにはたくさんの布袋さんが!

今後は、お茶をはじめとした日本文化の総合的な施設を創ることが出来たらと思っています。アートに関する活動にも取り組みたいですね。若い人の作品を道具として使ったお茶会などもやってみたいと思っています。

お茶席では様々な道具を用いますが、同じような作品だけではよくないのです。例えば水差しで赤い色のものを出したとしたら、茶碗でも赤、は被ってしまう。なのでまた違ったものを用うんですよ。

いろいろな作品・個性がひとつになって、茶会は構成されるもの。京都も古いものと新しいものが共存している街。同じように、古くからのお道具に新しい現代のお道具を取り合わせて使うことも出来るのです。

また、もともと、お店もギャラリーとしても使えたらと考えていたものですから。ギャラリーとして何か催しをする際は、是非、私の布袋コレクションも見ていただけたらと思いますね(笑)

―― ありがとうございました!

雑誌やTVなどにもよく登場され、お顔は拝見していたランディーさん。実際にお会いすると、とても気さくでチャーミングな、とても魅力的な方でした。

日本人の方が茶道を難しく考えすぎている、というご指摘には思わずはっとさせられました。確かに、茶道を含めて日本の昔からの文化に関して、日本人の方が「とっつきにくい」「敷居が高い」「難しい」というイメージを持ってしまうことが多いように感じます。逆に、海外からいらっしゃった方の方が、積極的に日本の文化を知ろうとしている。自分の文化に対して勝手にハードルを上げて触れる機会を失ってしまっているのは、私たち日本人のほうなのかもしれません。

まずはやってみること、きっかけを作ることが大事、と仰っていたランディーさん。あまり抹茶には馴染みがない、という方も、ちょっと今度の休みにでも、触れる機会を作ってみるのは如何でしょうか。

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■ らん布袋

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ランディーさんがプロデュースする、京町家を改修して開いたカフェ。店のコンセプトは「気軽に茶道に親しんでもらいたい、抹茶をコーヒーや紅茶のような感覚で楽しんでもらいたい」。

和の要素とアール・デコ調のデザインを融合させた和洋折衷の空間が特徴。抹茶を使用したケーキなどのオリジナルスイーツ、フードを味わえる。
2010年にはオリジナル抹茶が完成し、販売を行っている。

また、2階の茶室ではランディーさんがお茶の歴史や茶事の解説、お点前を指導してくださる茶道体験(要予約/英語・日本語可)も可能。月一回、月釜も開催されている。
店舗名はランディーさんがコレクションする「布袋」像から。
布袋は海外では仏像と同じようなものと考えられることが多く、ランディーさんもカナダにいた頃に目にしていたそう。「自分に似ているような気がして、親近感が沸くんですよね」とのこと。お店には多数の布袋像がコレクションされており、お店の中にもいくつか展示されている。

〒604-8374 京都府京都市中京区上瓦町64(京都三条会商店街内)
TEL:075-801-0790
営業時間:月~水11:30~20:00・金11:30~23:00・土~日11:00~20:00(LO)
毎週木曜日定休
らん布袋 京都 和cafe (カフェ・ギャラリー・イベントスペース)

【今回お話を聞いたひと】

ランディー・チャネル宗榮さん(裏千家教授/茶人・武道家)

カナダ出身。裏千家教授。茶人・武道家。
武道を学ぶために来日。当初は長野県松本市にて剣道や弓道などの道場に通っていたが、「文武両道」の精神から茶道を始める。
その後本格的に茶道を学ぶため京都へ移住し、3年間裏千家茶道専門学校(みどり会)で学ぶ。修行を重ね、平成11年には茶名「宗榮」を得た。
現在は京都の梨木神社などにて茶道教室を開催する他、各大学での講義やテレビ出演、新聞・雑誌やイベントでの呈茶など幅広く活動している。
ランディー・チャネル宗榮 公式ホームページ



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