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アートを支えるひとたちのことば。

今年で4回目を迎えるKYOTO EXPERIMENTのプログラム・ディレクターを務める橋本裕介さんにお話を伺いました。舞台芸術って、こんな風に楽しめますよ、こんな見方もありますよ、と次から次へとお話いただき、インタビューを終えるときには、すっかり魅了されてしまったほどです。

そんな橋本さんが、現在のお仕事をされるようになったきっかけ、そして想いを、じっくりと語っていただきました。

人生の価値観を変えた「舞台」との出会い

―― まず、橋本さんが舞台芸術に興味を持ったきっかけを教えていただけますか。

僕が初めてチケット代を払って舞台を見に行ったのは19歳のときです。当時浪人生で、予備校に行くしかすることがすることがなく、時間を持て余していました。正直それまではアートや芸術には全く興味がなかったのですが、気晴らしも兼ねて空き時間に美術館に行ったり映画に行ったり、コンサートに行ったりしていたんです。そして最後にたどり着いたのが「舞台」でした。
当時は『チケットぴあ』くらいしかイベント情報を仕入れられるところがなかったので、よくカウンターに立ち寄っていました。そこで何のイベントだかよくわからない不思議なチラシを見つけて…内容もわからないままチケットを買ってしまったんです(笑)それは「山海塾」という舞踏グループの公演でした。日本で生まれたポスト・モダンダンスである舞踏を体現しながら、オリエンタリズムだけに囚われない、舞踏にバレエのコンポジションを取り入れたようなダンスでした。それまでダンスといえばバレエか日本舞踊くらいしか知らなかったのでとても新鮮な感覚でした。帰りには舞台公演のチラシを大量にもらってきたのですが、自分の知らないところでこんなにも演劇やダンスなどの舞台公演が行われているのかと、とても驚きました。それからあちこちの舞台を観に行くようになっていったんです。

―― きっかけはまさしく「運命の出会い」だったのですね。

本当に、全く経験も前情報無しの状態でした(笑)
「山海塾」の公演で購入したパンフレットにはグループの経歴が掲載されていました。そこには、彼らは1970年代半ばから活動を始め、最初は東京の会場ひとつだけでやっていたのが、年を追うごとに全国各地に増えていき、海外進出も果たし、その会場も増え続けている、と書かれていました。バレエなど既に価値観が定まっているものであれば、しかるべき判断基準の下で評価されると活動は拡大していきます。でも、この人たちは既成の価値基準のないところから支持を集めて活動の幅を広げていっている。そのことにとても勇気付けられたんです。それまでの自分は、大学とか就職とか、あらかじめ決められたものさしの中でいかに評価されていくか、それしか考えていなかった。でも、自分で新しい価値観を打ち立てて、それを人に認めてもらえれば、別に既存の枠に収まらなくても生きていく道はたくさんあるんじゃないか。彼らの舞台を見て僕はそう感じました。そして、その世界に少しでも近づいてみたいと思うようになったんです。それもあって、それまで法学部志望だったのに進路も変えて、文学部に進んでしまいました。

プロデューサー業の師匠は、神社の宮司さんでした。

―― 人生を変えてしまうほどの出会いだったのですね。その後、橋本さんが京都で舞台芸術の世界に携わるようになった理由は何だったのでしょうか。

当時はまだ、演劇や舞台芸術を専門に扱っている学校はほとんどありませんでした。一方で京都は、昔から演劇やダンスが盛んだという話を聞いていました。芸大の演劇科ではなく、一般の大学の文学部などで勉強しながら活動している人たちがたくさんいる、と。僕もそこに関わってみたいと思い、とりあえず大学の学生劇団に入ったんです。そこはいわばサークルのようなものだったので、卒業後は演劇から離れてしまう人が多いのですが、三つ上の先輩が一人、卒業後も活動を続けると言って、自分で劇団を立ち上げたんです。その縁で、僕も卒業後に先輩の劇団で舞台の活動を始めました。演劇を続ける人が少ない中で、世の中に打って出ようとする志に共感したんです。

その後、劇団で野外劇をやることになったんです。それも吉田神社で。たまたま僕は当時神社の近くに住んでいたので、「ちょうどいいから神社と交渉に行って来て」と言われて、神社の宮司さんのところに開催の交渉に伺ったんです。それまでも、舞台に立つ他にチケット切りなど裏方スタッフのようなこともしていましたが、場所を押さえたり、企画したり、宣伝したり、といったことは全くの未経験でした。でも、このことが今やっているプロデューサー的な仕事の原点になりました。本当に初めてだったので、この時はもう資料も何も用意せず、手ぶらで行ってしまったんです。そうしたら宮司さんに「君が何者なのかどうかも分からない状態じゃどうしようもない、せめて企画書を作ってきたまえ」と指導を頂いてしまいました(笑)それから持って行った企画書もチェックして頂いて何度も書き直して…吉田神社の宮司さんが、僕にとってプロデューサー業の最初の師匠といえるかもしれません。

―― それはすごい(笑)ある意味、それも京都ならではの体験ですね。

そうですね(笑)それに、それまでは劇場など演劇用に用意された場所で活動していたので、来る人も元々興味がある人か同じ役者仲間など身内が中心でした。でも、この企画は野外で行うということで、それまで演劇に全く縁のなかった人の前でも舞台を見せることになります。それも僕にとってとても大きな経験になりました。自分のやっていることは実はとても社会的なことで、色々な人に開かれているものなのだと実感しましたね。

―― 劇場でだけでは出会えない人と接する機会が出来たのですね。

もちろん、劇場でやる場合とは違う大変な部分もあります。でも、準備の様子を散歩途中に見ていた人が当日来てくれたりもしましたし、多くの人を巻き込むことの面白さがこの野外劇でわかったように思います。慣れない営業活動や、近所の方に一軒ずつあいさつ回りや説明をするといった対応など、今も行っている仕事のトレーニングにもなりましたね。そして当日、普段演劇を観に来ないような人も大勢いらしているのを見て、今後もこの仕事を続けていきたいなと思ったんです。

そして、京都芸術センターが設立されたことも、プロデューサーとしての仕事を続けていく上でとても大きかったです。

京都だからこそできたイベント:「演劇計画」から「KYOTO EXPERIMENT」へ

「演劇計画2008」報告書―― 京都芸術センターができたのは2000年ですね。芸術センターは京都市が設立した施設ですが、橋本さんにどのような影響を与えたのでしょうか。

それまでは「外に向けて開いている」といってもあくまで私的なレベルでの活動の話でしたが、京都芸術センターができたことで、京都市という公的な存在を意識するようになりました。特に若手の活動にフォーカスをあてて支援を行うという、京都芸術センターの指針も、身近なものに感じましたね。行政は先の展開が分からないものへの支援はなかなか行わない、という認識があったのですが、まだ価値が定まっていないものを支援する、という京都市の姿勢は、未来への投資という側面では公的な活動としてとても意味のあることだと思います。

―― 既に価値がわかっているものを支援することは簡単ですが、先行きの不明なものに対しては博打的要素もありますし、行政も腰を上げにくいものですからね。京都市は特殊なのでしょうか。

他の地域の例はあまり聞いたことがありませんね。京都市の芸術支援の姿勢は全国的に見てもかなり先駆的だと思います。特に廃校を芸術関連の施設として活用するスタイルは、当時はまだ目新しく、京都市ならではの試みでした。

―― 橋本さんが現在プログラム・ディレクターを務められているKYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)にも、この京都市のスタンスは繋がっているのですか。

実はそうなんです。京都芸術センターの主な活動のひとつに、アーティストへの活動拠点の提供があり、僕の所属していた劇団も芸術センターにスタジオを借りて活動を行っていました。普段は稽古場やリハーサル場所として使用されているのですが、芸術センターには講堂やフリースペースなど、実際に作品発表にも使えるスペースがあります。作品を「作る」ところと「発表する」ところが同時にある空間。その利点をもっと活用できれば面白いのでは?と思いました。
そこで2004年に、個人的に芸術センターに話を持っていきました。そこで生まれたのが「演劇計画」という企画です。

―― それが現在のKYOTO EXPERIMENTの前身になったのですね。

「演劇計画」はKYOTO EXPERIMENTを開催する前年、2009年まで6年間開催していました。
この企画は準備段階としての「作る」から「発表する」までを一連の作品としてやる、という点が特徴でした。演劇では舞台セットや音響といった設備が用いられますが、普通は本番まで稽古場で何も無い場所にセットがあるものと仮定して練習をしていて、実際にセットの中でやるのは直前のリハーサルだけなんです。でも舞台美術も音楽も、演技と同じくらい大切な要素ですし、最初からそれがある状態で作品を作っていった方がいい。通常の劇場なら難しいことですが、稽古場と舞台が同時にある京都芸術センターだから実現できたことでした。

―― この場所だから出来た企画、ということだったのですね。しかし稽古場をそのまま舞台へ、と言う試みは前例がなかったアイディアだったと思いますが、難しかったことや苦労されたことはありましたか。

やはりそれなりの規模の企画でしたからが、金銭面が懸念材料でした。予算にも限りがありますから、実力のある演出家の作品をプロデュースするにしても、ピックアップできる人は年に1人か2人いるかどうかです。一方で、今後に続く更に若い世代を見つけることも必要です。そこで、京都を拠点に活動している若手演出家向けの賞を設けて、才能の発掘を図りました。予め公募で集まった公演を、期間中審査員の方々に京都市内をまわって対象の公演を審査してもらい、受賞者は次回の事業で芸術センターが作品のプロデュースを行う…という流れでした。
また、作り手は作品さえ作っていればいいわけでないこと、話をしても身内はともかく一般の人がついていけないようではだめだ、とも考えました。そもそも、舞台芸術は集団で作っていくものですから、メンバー間でもきちんとコミュニケーションが取れなければ演出家の意図が伝わらず、良い作品はできません。作り手も自分で何を考えて作品を作っているのか、言葉で説明できるようになろう、ということも企画の大きな柱でした。そこで、事業の過程で行ったシンポジウムなどのイベントでの発言を、記録集を製作することで、舞台を観なかった人にも伝えられるように努めました。

演劇計画2009 白井剛演出作品『静物画 - still life』 photo: Ayako Abe―― なかなか普段の生活ではアーティストさんに一般の人が直接交流する機会はありませんし、とても大切な試みだと思います。その後「演劇計画」はKYOTO EXPERIMENTに移行していくわけですが、これはどのような経緯があったのでしょうか。

「演劇計画」自体は好評で、若手発掘の効果もあり、毎年良い作品が生まれました。しかし、京都や大阪など近郊のお客さんには来て頂けていたのですが、他の地域、特に東京など関東からの人は少なかった。それに不満が残っていました。僕らはたとえ遠方でも、面白いものがやっているならそこまで足を運びます。同じように、京都に面白いものを観に、全国各地から来てもらいたい。 そこで、より広範囲から足を運んでもらう仕掛けとして考えたのが、「フェスティバル」方式でした。「フェスティバル」方式とは、一定期間に集中して、町のあちこちで色々なイベントを同時開催するものです。その期間中のどこか1日でも京都にいるなら、どれかの舞台を見ることができる、というわけです。「演劇計画」で生まれた作品には、後に海外公演が実現してとても好評だったものもありました。でもそれを東京の人はほとんど知らない。それはとても口惜しかった。東京くらいの大都会だと身の周りに色々な催しがありすぎて、現状で満足しているかもしれない。でもその間にも別の地域ではとても面白いことが起きているんだぞ!ともっと広く伝えなければと思ったんです。

―― そのKYOTO EXPERIMENTも、2013年度で4回目の開催となります。最近では同様の国際的な芸術フェスが多く開催されますが、毎年の開催でここまで長く継続して開催されているイベントも貴重であると感じます。その点についてはどうお考えですか。

先ほど海外公演が実現した作品があったと言いましたが、それをベルギーのフェスティバルで公演した際に、主催者の方とお話しする機会がありました。その時に日本でもこんなフェスティバルをやりたいと思っている、と話したら、その方に「4年は続けろ」と言われたんです。「1~3回目は何かしら失敗する。一通り失敗をした上で4回目までやれば、今後どうするかが見えてくる。それまでは気合で続けなさい」って。別にフェスティバルの作り方なんて、どこで習うわけでもないですし、成功も失敗も必ず出てきます。でも、そこで失敗だけを見ていては続かなくなる。失敗した部分については今後こうしていこう、と毎年メンバーと共有できたので、ここまで続けていくことができたと思います。

また、理解あるスポンサーについて頂いたことも大きかったですね。「演劇計画」を初めた頃から引き続きサポートしてくださっている企業さんもいらっしゃいます。フェスティバルを立ち上げる前からアーティストのマネンジメントの仕事をしていたので、当時から繋がりを持っていた企業の方にも支援していただきました。アーティスト個人がどれだけ発展するかだけではなく、いかに広く、そして長期的に波及する効果があるものかどうか、とういうことをどこも重視されていました。その姿勢も、KYOTO EXPERIMENTを考える上でとても役立ったと思います。

「KYOTO EXPERIMENT」=「京都の実験」―― 新しい何かが始まるきっかけにしたい。

KYOTO EXPERIMENT2013


―― 前身の「演劇計画」も含め、KYOTO EXPERIMENTというイベントには、ただ舞台公演を行う、見せるだけに留まらない、アーティストの支援・育成や、アートイベントを続けて開催していくためのノウハウ作りなど、本当に様々な要素があるのですね。

そうですね。実際、KYOTO EXPERIMENTの運営スタッフにはインターンで参加している学生さんもいますし、次代を担うスタッフ育成の場にもなっていると思います。 それに、KYOTO EXPERIMENTというタイトル自体も「京都の実験」という意味です。伝統文化のイメージが強い京都ですが、大学がたくさんあって、若者の多い街という側面も持っています。京都の20代前半の若者の人口って全国に比べてすごく高いんですよ。全国からそれだけ若者が集まっているのに、彼らを大学時代しか滞在しない、卒業したら出て行ってしまうだけの人にしてしまうのは勿体無い。彼らの持つエネルギーや才能、感性を京都の街を活性化させることに使うべきではないか、と僕は思うんです。若者が多くいるのだから、彼らが当事者になる機会を作ってもいいんじゃないか。このイベントが、自分たちも何かやってみよう!と若い人たちが考えるきっかけになればいい。その気持ちを込めてこのタイトルをつけたんです。

今までの行政が関わるアートイベントは、ただ人が集まり開催するだけ、参加することに意義があるで終わってしまっているものも多いようです。見せるものを主催の側で選別せず、観る側に好きなものを選んでもらうのは良いのですが、かえってそれが観客を増やせない要因になっているように僕は感じます。ほとんどの人はたくさんの作品から自分でどれが良い、どれが好きと判断できるほど舞台やアートに詳しいわけではありません。観客を広げていくには、ある程度専門的な知識を持つ人がお薦めのもの、ぜひ見せたいと考えるものを、「責任を持って」セレクトして提案する方が、「だったらこれを見てみようかな」という気になってもらいやすいのではと思うんです。

池田亮司『superposition』 photo: Daniel Karl Fidelis Fuchs―― レストランのお薦めメニューのような感じですね。初心者だと特に、選ぶ判断基準もない状態ですから数を並べられても混乱してしまいます。そこで詳しい方にお薦めをしてもらえば、安心して観に行くことができますね。

出す作品・アーティストは皆平等に扱わなければいけないと勘違いしがちですが、平等にすべきは作品や作り手ではなくてお客さんなんです。詳しい人もそうでない人も楽しめるような形式にするとか、近くの人も遠くの人も足を運びやすいようにアクセスをしやすくするとか、主催者が配慮するべきはそこだと思うんです。今までの行政主導のイベントだと、アーティストを「趣味でやっている人」と低く見積もってしまっている面も背景にあったのかもしれませんね。

―― 恐らく、この記事を読んでおられる方にも演劇や舞台をあまり見た経験のない方が多いと思います。ぜひ初心者の方に、KYOTO EXPERIMENT、舞台芸術の楽しみ方などメッセージをいただけますでしょうか。

KYOTO EXPERIMENTで紹介している演目は、舞台と客席の空間が地続きになっているような場所で行なうものがほとんどです。大劇場では舞台と客席の間に隔たりがあるように感じますが、ここでは手を伸ばせば届きそうな会場ばかりです。それだけ舞台と客席の距離が近いので、直接舞台に上がったり喋ったりというわけではありませんが、気持ちの上では「お客さんがいて初めて成り立つ」ものだとわかるはずです。演じる側も、お客さんの反応がダイレクトに伝わるので、その日その日の反応を見て出来もわかりますし、作品の印象も変わってくるかもしれません。お客さんも参加したい、という気持ちで望んでもらえば、その思いが空間全体の熱気や盛り上がりに繋がってきますし、ずっと楽しいものにになるはずです。

―― 舞台と客席が同じ空間を共有しているからこそ、観る人も積極的になることが、舞台を楽しむコツなんですね。

KYOTO EXPERIMENTに限らず、舞台芸術は舞台の上に生身の人がいます。また、国際フェスティバルなので海外の人も多く参加していますから、「人間ってこんな形をしているんだ」「人はこんなにも話し方、動き方が違うのか」といった、人間そのものの姿を観て頂く機会でもあると思います。なかなかこう、じっくり人を観るということってありませんから、それだけでも面白いのではないでしょうか。海外の演目も、字幕があるので話も理解できると思いますが、別に言語がわからなくても、「ドイツ人はドイツ語をこんな風に喋るのか」「どんな風に動いて気持ちを表現するんだろう」と、声の響きや体つき、動作といったことで十分楽しめるはずです。「人」を観る面白さを、舞台でぜひ味わって頂きたいですね。

ロラ・アリアス『憂鬱とデモ』 photo: Lorena Fernandez―― 演劇などは特に、台詞を聞き取らないと楽しめないように思いますが、物語以外にも注目して楽しめるポイントがたくさんあるのですね

物語が分かるか否か、は別にそこまで重要ではないと思うんです。シェイクスピアのように何百年もずっと演じられ続けているものは、物語はもう皆大体知っている。そこでは観客は、役者の動きや演出の違いといったところを楽しんでいるんですよ。

―― そこは他の芸術分野とは異なる、舞台ならではのポイントですね。

そう思います。観るものが「生の人間」であるからこその、その場ごとの違いや変化があるんです。同じ演目でも今日と明日では全く違うものが観られるんです。

―― 展覧会には行くけど、舞台を観に行くのは敷居が高いと感じる人もいそうですが、舞台を観に行くのは「人」という作品を観に行くということでもあるんですね。これは目から鱗です。

―― 今後の橋本さんはどのような活動をしていきたいと考えていらっしゃいますか。

僕もいつまでも現在のディレクターの立場でイベントに携わっていけばいい、とは思っていません。ゆくゆくは、KYOTO EXPERIMENTも誰か別の人にディレクターを担っていけるようにしたいです。僕だからこういうポジションで仕事をしている、というわけではなくて、このポジションに必要な知識やノウハウが何なのかを見定め、確立すべきだと思っています。そしてそれを担える人材が増えていくことによって、フェスティバルを続ける仕組みにしていきたいと考えています。

―― 次に受け継いでいける形を作っていくんですね。

そうですね。スポーツでいえば監督のようなもので、監督が変わったらチームの色が変わるように、ディレクターが変わったら、今度はどんな演出のイベントになるんだろう、とわくわくしてもらえるようになったらいいな、と思っています。何年かに一度のサイクルで交代して、イベントが変化していったら、とても面白いんじゃないかと。もちろん、こりゃ良くないぞと思ったら観ている人が意見を出して、それでまた次の人に交代していけばいい。その方がイベントにもずっと活気が出るでしょうから。それは観る側の目も肥えているという証でもありますしね。

―― 橋本さんが立ち上げたイベントが、そのサイクルを繰り返してずっと続いていくこと、期待しています。橋本さん個人で何かこの先挑戦してみたいことなどはありますか。

やはり海外進出でしょうか(笑)世界各地にこのような舞台芸術のフェスティバルや劇場は星の数ほどあるので、将来そういうところに招待をいただけて、仕事ができたらいいですね。その国やその街だからこそできることもあるでしょうし、僕は生まれてから今までずっと日本で過ごしてきたので、日本人の感性ならではのやり方もできると思っています。別の国の文化とぶつかったときにどんなものが生まれるのか、楽しみです。

―― ご活躍を期待しています。本日はどうもありがとうございました。

今まであまり舞台芸術に触れる機会が少なく、どんなお話になるのか少し最初は緊張しながらお伺いしたのですが、とてもフレンドリーかつ熱心にお話をしていただき、発見と刺激をたくさんいただきました。

舞台とは「生きている人」の姿を見る芸術。ということには、何か胸にすとんと落ちるような、それまで感じていた舞台芸術に対する見えない壁のようなものが取り払われたような、そんな感覚を覚えました。なんだか今まで思っていたよりずっと、親しいものに感じられました。

そして橋本さんは舞台芸術というものを、そこから周辺の人、町、そして国境を越えて沢山のものに波及していく、より大きな存在にしていこうとされています。
「京都の実験」、KYOTO EXPERIMENTの結果が、どのようなものをこの先の京都にもたらしていくのか。
そしてこの先、どのような形に変化していくのか…楽しみでなりません。

 

【今回お話を聞いたひと】

橋本裕介さん(KYOTO EXPERIMENT2013 プログラム・ディレクター )

KYOTO EXPERIMENTプログラム・ディレクター(2010~) 1976年、福岡生まれ。 大学在学中から演劇に携わり、以降、京都を中心に、様々なイベントのプロデュースを手がける。

【展覧会情報】

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2013

2010年から始まり、今年で4回目となる本フェスティバルでは、日本国内のみならず、ブラジル、フランス、イギリス、ドイツ、アルゼンチンから、世界の舞台芸術を牽引する先鋭的な作品、アーティストが京都に集います。 既存のジャンル・枠組みを超えた未知なる表現に出会うことは、「エクスペリメント=実験」を冠したフェスティバルの核心と言ってよいでしょう。世界初演の作品をはじめ、アーティストとの共同製作を重ねるなど、国内外のネットワークを活かしながら、フェスティバルそのものが創造的な場として動き出しています。

■日時: 2013年9月28日(土)- 10月27日(日) ■会場: 京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)、元・立誠小学校、 京都府立府民ホールアルティ、Gallery PARC、京都市役所前広場 他 ■主催: 京都国際舞台芸術祭実行委員会(京都市、京都芸術センター、公益財団法人京都市芸術文化協会、 京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター、公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団 )

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