※この記事は掲載時(2012年12月)の情報に基づきます。
京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
本丸御殿
この櫓門の先に本丸があります。かつてはこの部分に二の丸と本丸をつなぐ渡り廊下があったそうです。
二の丸庭園を抜けた先、橋を渡った先には本丸御殿があります。かつては二の丸と本丸の間には直通で移動できる二階建ての渡り廊下があったそうですが、現在は残されていません。
天守閣跡から望んだ本丸御殿と庭園。
創建当時の本丸御殿は、二の丸御殿とほぼ同じ規模の建物でしたが、天明の大火の際に焼失してしまいました。その後長く空き地状態となり、幕末に十五代将軍・慶喜の居室が建てられましたが明治時代には撤去されています。現在の本丸御殿の建物は、京都御苑の敷地内にあった桂宮家の屋敷を1893年(明治26年)から1年かけて移築したものです。完全な形で残っている宮家の屋敷はほとんどないため、宮御殿の遺構として貴重な存在として重要文化財に指定されています。武家らしい力強さのある二の丸御殿とは異なる雰囲気を味わうことができます。ちなみに、まだ京都御苑内に建物があった頃は、幕末に14代将軍・家茂に嫁いだ皇女・和宮が1年8ヶ月この屋敷で暮らしていたそうです。かつて屋敷があった敷地跡には築地塀や表門・勅使門、庭園が現存しています。(以前は年2回の一般公開が行われていましたが、現在は耐震性問題があるため内部は非公開となっています)
本丸庭園
本丸御殿の前に広がる本丸庭園は、本丸御殿が移築された後、1896年(明治29年)に明治天皇の命で作庭されたものです。それ以前にあったものは枯山水の庭園だったようですが、それを7ヶ月かけて大改造し、芝庭風の築山式の庭園にされました。曲線的な道が印象的な落ち着いた雰囲気で、丸く刈り込まれた植え込みや芝生の広がる景色はヨーロッパの庭を意識したものです。庭が造られた明治中期には、洋風の庭が多く日本でも作庭された時期であるので、本丸庭園もその影響を受けたものと考えられます。
天守閣跡
本丸庭園の奥には、かつての天守閣跡があります。ここには伏見城から移された五重五層(5階建て)の天守閣があり、二の丸御殿からも庭園越しに眺めることが出来たといわれています。その天守閣も1750年(寛延3年)に雷が落ちて焼失してしまい、その後再建されず石垣だけが残されました。現在は展望スペースのようになっており、上に上ると本丸御殿と本丸庭園を一望することができます。石垣の上からでも壮観な眺めが楽しめますが、天守閣があったころは二条城全体、京都の街の景色も見ることができたことでしょう。往時のしのばれるスポットです。
※本丸庭園を抜けて続く道には、桜やつつじ、椿といった花木が多数植えられています。ほかにも梅や桜が多く植えられたエリアもあるので、季節ごとに違った景色が楽しめます。
清流園
※庭の中にはライオンの形に見える石もあります。見学の際はぜひ探してみてください。
本丸を抜けて道沿いに進むと、もうひとつの庭園「清流園」があります。二条城の創建時には、この付近に天守閣があったといわれています。その天守閣は後に淀城へ移築されてなくなり、幕府の役人の居住エリアとされました。明治に入ってから住居は取り壊され、緑地として整備されました。大正時代には大正天皇即位祝賀の宴会場として使われ、その後近代日本を代表する作庭家・小川治兵衛(*4)が庭園として作り直したそうです。
第二次世界大戦の後、アメリカの進駐軍に一時接収されてテニスコートになっていたこともあったそうですが、1965年(昭和40年)に河原町二条にあった旧角倉りょうい(*5)の屋敷の一部と庭石・庭木、また全国各地から集めた銘石などを用いて新たに京都市民の庭「清流園」として整備されました。清流園は半分が川の流れる和風、もう半分が芝生をメインにした洋風という和洋折衷の庭になっているというユニークなつくりで、庭の中には茶室「和楽庵」もあります。日によっては茶室が公開され、中で庭を眺めながらお茶を楽しむこともできます。(清流園は通常は非公開ですが、茶室の公開日や市民大茶会などのイベントの際には見学することができます)
*4)7代目小川治兵衛(おがわ・じへえ/1860-1933)近代日本庭園の先駆者と呼ばれ、京都では平安神宮の神苑や円山公園など明治・大正期を代表する庭の多くを作庭している。
*5)(すみのくら・りょうい)江戸時代の京都の豪商。貿易で成した私財を投じて高瀬川運河を開削したほか、幕府の命を受けて富士川や天竜川などの開削整備を行った。屋敷の一部は現在も、河原町二条の高瀬川畔に残っている。
現在、二条城は京都市の管轄となり、市が整備と運営を行っています。1994年(平成6年)には「古都京都の文化財」のひとつとして、他の京都の歴史ある寺社などと共にユネスコの世界遺産にも登録されました。
二条城は2003年(平成15年)に、築城から400年を迎えました。二条城には江戸時代の始まりから幕末、明治、昭和と各時代のものが同時に存在し、400年分の美しい歴史絵巻を眺めていたかのように感じさせてくれます。その歴史と文化を次の時代に受け継いでいくためには、建物の修理、庭園の手入れ、障壁画の保存修復などが欠かせません。現在も城内の各所で、随時修復工事が行われています。
未来へ向けて時を刻み続けている二条城。その歴史に触れに、改めて訪れてみてはいかがでしょうか。通常の一般公開のほか、桜の開花時期に合わせてのライトアップや、夏の「京の七夕」、秋の紅葉シーズンのお城まつりなど、様々な催しの会場としても使われています。きっと訪れるたびに、四季折々の多彩な姿を見せてくれることでしょう。
☆あなたも二条城の「城主」になれる?「一口城主募金」
二条城では文化財の保存事業の一環で「一口城主募金」という募金活動が行われています。これは、二条城の保存継承のための事業資金を募金してくれた方を「城主」として認定し、様々な特典を付与してくれるというユニークな試みです。募金の金額に定めはなく、千円程度の小額からでも参加することができます。一定額以上を募金した「城主」の方にはステッカーや「入城証(フリーパス)」の発行のほか、抽選で通常非公開の部屋やエリアに入ることができる「一日城主」の限定イベントも行われています。二条城の現地にての募集のほか、インターネットから申し込むことも可能です。あなたも歴史あるお城の「城主」になってみてはいかが?
(取材にあたっては元離宮二条城事務所様に多大なご協力を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます)
元離宮二条城
所在地
〒604-8301
京都市中京区二条通堀川西入二条城町541
開城時間
8:45~17:00(入城は16:00まで)
休館日
毎年12月・1月・7月・8月の毎週火曜日 (祝日の場合は翌日休城)/年末年始(12/26-1/4)
お問い合わせ
TEL:075-841-0096
FAX:075-802-6181
公式サイト
■料金
一般:600円(団体500円)
中学生・高校生:350円
小学生:200円
■交通のご案内
【市バス】 9、12、50、101号系統にて「二条城前」下車すぐ
【地下鉄】東西線「二条城前」駅下車すぐ
※専用駐車場・駐輪場有り(有料)。お問合せは二条城駐車場(075-801-5564)へ。
京都MUSEUM紀行。アーカイブ
- 京都MUSEUM紀行。第一回【何必館・京都現代美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二回【河井寛次郎記念館】
- 京都MUSEUM紀行。第三回【駒井家住宅】
- 京都MUSEUM紀行。第四回【龍谷ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第五回【時雨殿】
- 京都MUSEUM紀行。第六回【京都陶磁器会館】
- 京都MUSEUM紀行。第七回【学校歴史博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第八回【幕末維新ミュージアム 霊山歴史館】
- 京都MUSEUM紀行。第九回【新島旧邸】
- 京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
- 京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第十二回【京菓子資料館】
- 京都MUSEUM紀行。第十三回【木戸孝允旧邸・達磨堂】
- 京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
- 京都MUSEUM紀行。第十五回【京都万華鏡ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第十六回【京都府立堂本印象美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十七回【相国寺承天閣美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十八回【細見美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十九回【清水三年坂美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十回【千總ギャラリー】
- 京都MUSEUM紀行。第二十一回【京都国立博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十二回【京都大学総合博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十三回【京都工芸繊維大学 美術工芸資料館】
- 京都MUSEUM紀行。【建勲神社】
- 京都MUSEUM紀行。第二十四回【二条陣屋】
- 京都MUSEUM紀行。Special【京都市美術館 リニューアル特集】