※この記事は掲載時(2013年4月)の情報に基づきます。

特集記事

京都MUSEUM紀行。第十三回【木戸孝允邸・達磨堂】

京都ミュージアム紀行 Vol.13 木戸孝允旧邸・達磨堂

  • 木戸孝允旧邸
  • 達磨堂

達磨堂

木戸孝允邸の隣には、「達磨堂」と呼ばれる建物があります。これは、木戸孝允の息子・忠太郎さんが大正12年(1927)に木戸邸の改修と併せて新築したコレクションルームです。 忠太郎さんは木戸の妻・松子(幾松)の妹の子どもとして明治4年に生まれ、3歳の時に木戸の養子となりました。地質学を専攻した彼は明治31年に東京帝国大学(現在の東京大学)を卒業、南満州鉄道株式会社(満鉄)に就職し、会社が経営していた鉄鉱山の地質学研究所に勤めました。
当時満鉄は国際開発事業を担う、日本ではトップクラスの大企業でした。忠太郎さん自身も大変有能な人で、明治42年(1909)には中国・満州の鞍山(あんざん)というところで鉄鉱脈発見に貢献しています。また彼は交友関係も大変広く、広辞苑の執筆者である新村出(しんむら・いずる)をはじめ、民俗学者の柳田国男や文学者の尾崎紅葉などとも親しくしていたといいます。
そんな忠太郎さんが生涯に渡ってこだわり、コレクションしていたものが、達磨でした。中国で鉄鉱脈を発見した明治42年の春、忠太郎さんは大連の街を訪れた際に現地の店で何気なく見つけた達磨の起き上がりこぼしを購入します。達磨の起き上がりこぼしは日本にも各地に類似したものがあり、これに興味を持った忠太郎さんは、以後86歳で亡くなるまで50年以上も達磨とその関連資料を集め続けました。

達磨堂の内部には、忠太郎さんが集めた達磨コレクションが、隙間がないほどに収められています。その数は数万点にも及び、忠太郎さん本人も幾つあるのか把握できないほどだったようです。お堂の中に収められなかった所蔵品も数多くあるといいます。
コレクションの内容は、関東や東北地方で作られた縁起物の達磨をはじめ、お土産や民芸品の起き上がり達磨や手足のついた達磨、リアルな達磨大師の像、書画、達磨をモチーフにした子ども向けの玩具、日用品、装飾品、ポスターや看板などの広告まで実に様々。大きさも、数名がかりでなければ運べないような大きなものから、指先程度の大変小さなものまでが揃っています。


また、達磨の形なのに恵比寿や大黒を模したものや、顔が達磨ではなく天狗や女性、招き猫になっているもの、マトリョーシカのような入れ子細工のものなどユニークな品も多いのも特徴で、見ていて飽きさせません。とにかく「達磨」に関わるものなら何でも、といった具合に収集されていたようです。


展示室ではある程度制作地ごとに分類がされており、比較してみると作られた地域によって形や表情に違いがあることがわかります。中には現在では職人が絶えてしまった地方の作品や、現存数の少ない江戸時代の張子の達磨など貴重な品も含まれており、研究者の方が調査に訪れることも多いそうです。
現在も訪れた達磨ファンの方が自分の持っている達磨を置いていかれることがあるそうで、コレクションの数はまだ増えているかもしれない、とのことでした。


忠太郎さんの達磨熱は相当なものだったようで、達磨堂の建物自体にも忠太郎さんのこだわりが詰まっています。入口にも大きな達磨がまるで狛犬のように配置されていますし、屋根の鬼瓦にはよく見ると可愛らしい達磨が鎮座しており、窓も達磨の形になっているという徹底振りです。

内部には天井に明り取りの大きなガラス窓が取り付けられ、達磨たちが良く見えるよう、光が注ぎ込む構造になっています。また、入口の正面に置かれた大きな衝立は、京都画壇の巨匠の一人・下村観山が描いた作品で、観山がロンドンのホテルに宿泊した際、部屋のシーツをキャンバス代わりに、新聞紙を束ねた作った筆にインクをつけて即興で描いたという一品だそうです。

そして忠太郎さんはものを集めるだけでは飽き足らず、自ら達磨の研究書を執筆したほか、何と自らをモデルにした達磨も制作しています。お堂内に掲げられた忠太郎さんの肖像画にそっくりな、眼鏡をかけた達磨がひとつ、陳列棚のどこかに置かれています。達磨堂を訪れた際にはぜひ探してみてください。

木戸旧邸と達磨堂は、昭和18(1943)年、忠太郎さんの手によって京都市に寄贈されました。忠太郎さんはその16年後、昭和34年(1959)に88歳でこの世を去ります。その後建物の周辺にはホテルや京都市厚生会職員会館など大きな建物が建ち並び、風景は様変わりしました。二つの建物がある場所だけが、まるで時を止めたように昔の京都の姿を留めています。 普段広く公開されているわけではありませんが、見学前に隣接の「職員会館かもがわ」にて申請をすれば、見学をすることができます。会館の中のスペースにも、忠太郎さんの達磨コレクションの一部が展示されています。町の中にひっそりと残る歴史の痕跡とユニークな達磨たちに、一度出会いに出かけてみてはいかがでしょうか。

(取材に関しては、京都市行財政局総務課の尾崎様、職員の皆様にご協力をいただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。)

木戸孝允旧邸・達磨堂

所在地

京都市中京区土手町通竹屋町上ル東入

開館時間

10:00~16:00

休館日

なし

■料金

見学無料
※見学時は隣接する京都市厚生会職員会館「かもがわ」の受付にて事前にお申し出ください

■交通のご案内

市バス「河原町丸太町」下車、徒歩5分




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