※この記事は掲載時(2013年6月)の情報に基づきます。
京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
根付鑑賞豆知識
根付には、最も主流である全体を彫って立体的な形を作った「形彫(かたぼり)根付」をはじめ、シンプルな円形の饅頭根付、細長い形で刀のように帯に差して使う差根付、箱状の箱根付など、いくつかの種類があります。なかにはカラクリを仕込んだという手の込んだものも見られます。
まるで本物そっくりな能面型の根付たち。能面をモチーフにした根付は「面根付」と呼ばれ、面を作る能面師が副業で作り始めたと言われています。
蓋と本体に分かれる「箱根付」。提げているときは桜の花をあしらったシンプルな形ですが、蓋を開けると中から女の人が現れるという遊び心のきいた逸品です。
デザインのモチーフは、七福神などの神様や、歌舞伎の演目や昔話の登場人物、動物、草花、河童など架空の生き物までさまざまです。ほとんどの作品は手のひらに収まってしまう程度のサイズですが、その中に驚くほど精緻な造形美や、粋な遊び心が込められています。
作品PICK UP
水中を泳ぐ河童を上から見た構図。水の流れまで表現されていて、大変ユニークです。
コタツで本を読む猿と小さな蟹。本の字までしっかり書かれています。モチーフは昔話の「さるかに合戦」でしょうか。
カブトムシとクワガタのバトル!よく見ると小さな虫がもう一匹…
七福神は昔から好まれたモチーフですが、これはふくよかな布袋さんに逆立ちさせてしまったというユニークなもの。タイトルの「シェイプアップ」も洒落がきいています。
「身に着ける芸術」根付ならではの鑑賞ポイント
鹿角で作られたキリンの差根付。素材の細長い形をそのまま活かしつつ、ひと塊にまとまるように仕上げています。網目模様も大変リアル。
根付の素材には、主に象牙や鹿角、木材、陶磁器、金属や漆などが用いられています。なかにはイッカク(鯨の仲間)の牙やマンモスの牙の化石といった、珍品といえる素材を使った作品もあります。現代の根付も、使われている素材は江戸時代からそれほど変わってはいないそうですが、アルミなど現代ならではの素材を用いた根付も見られます。実に多種多彩ですが、どれも「軽くて持ち運びがしやすい」点は共通しています。
他にも根付には、実際に身に着けて用いることを前提とした独特の表現や特徴があります。
例えば、根付はできるだけひとつの塊になるように作ったものが良いとされているそうです。あまり凹凸の多い形では、実際に身に着けた際に破損しやすく、提げた印籠などにぶつかって傷をつけてしまう恐れがあるためです。通の方は、良いデザインかどうか、根付を手で握って確かめることもあるそうです。限られた大きさや形の中でいかに個性を表現するのかが、作家の腕やアイディアの見せ所です。
江戸時代から人気の高かった「丸ねずみ」と呼ばれる作品。小さなねずみたちが集まって球のように丸くなっています。可愛らしさとデザインの面白さ、機能性を見事に両立させています。精密な彫りにも注目!
根付は紐を通して使用するため、どの作品にも必ず紐を通すための穴が開けられています。この穴がないものは、根付ではなくミニチュアの置物として扱われます。穴は根付の「アイデンティティ」ともいえる存在なのです。
実は、この穴の位置も優れた根付を見極める上で大変重要なポイントだそうです。誤った位置に穴を開けると、身に着けた際に根付が逆さまになったり、表側が見えなくなったりしてしまいます。帯から提げた際に根付が美しく見え、かつ見栄えを損なわないように、穴を開ける位置を見極める力が、優れた作家には求められます。なかには、デザインに取り込む形で穴を隠してしまっている作品もあります。根付を鑑賞する際は、ぜひ「穴」にも注目してみてください。
この根付の穴は背中に2つ。紐を通して提げると、ちょうど正面を向くようになっています。
根付の文化を次世代へ―作家を支える発表の場としての根付館
清宗根付館では、年間5回の一般公開時に、常設展と併せて毎回企画展を開催しています。企画展には2種類あり、特定の作家作品を特集する作家展(年3回)と、共通のお題で制作された作品を展示するテーマ展(年2回)で構成されています。特にテーマ展では、何人かの根付作家さんに予めお題を提示し、展覧会のために制作された新作を展示しています。
元々根付は、作家へオーダーメイドすることがよくあったようで、その文化を受け継ぐ意味もあり、このような形式にされているのだそうです。制作された新作根付は、全て新たな収蔵品として館のコレクションに加わっています。
テーマ展での展示品解説パネル。1点ごとに作家さんの作品に対するコメントなども添えられ、より深く作品を楽しめます
取材時の企画展のテーマは「飛躍」。同じお題でも作家さんによるイメージはさまざまで、それぞれ全く違う解釈をしているところもポイントです。これは今にも飛び立ちそうなペンギン。
また、根付館での展示は現代の根付作家さんにとっても大切な需要となると同時に、創意工夫に溢れた新作を生み出すのきっかけとなっています。
「最近はこちらからお声かけをすると「非常に緊張する」という作家さんもいらっしゃるんですよ」と伊達さんは仰っていましたが、それは作家さんにとっても根付館という存在が大変大きなものであるという証拠といえるかもしれません。
この他にも、根付館では優れた現代根付作家を表彰する賞の創設も行うなど、作品展示に留まらない、根付文化の支援活動に積極的に取組まれています。
「次世代に文化を継承するためには、良い作家を支援することはとても大切なことです。作家が作品を作り、発表できる場を提供することは、根付館の大切な役割だと思います」(伊達さん) 現在、根付館に作品が収蔵されている現代根付の作家は100名を超え、毎年1、2名が加わっているそうです。なかには海外の作家も含まれているとか。清宗根付館の今後の活動は、日本だけでなく、より国際的なものへと広がっていくのでしょう。
手のひらに収まるほどの小さな中に、実用性と芸術品を併せ持つ根付。小さなものにも手を抜かず、限られた中で自由で新しい表現を生み出していくところは、日本ならではの伝統的な美しさと新しさが同居しています。小さくも奥深い日本の美の世界を味わいに、この機会に清宗根付館へ出かけてみてはいかがでしょうか。
取材に関しては、企画担当の伊達様、広報ご担当の日置様、他関係者の皆様にご高配を賜りました。
この場を借りて御礼を申し上げます。
京都清宗根付館
所在地
〒604-8811
京都市中京区壬生賀陽御所町46番1号(壬生寺東側)
開館時間
10:00~17:00(最終入館は16:30まで)
休館日
開館期間以外は休館(期間限定開館となっております)
お問い合わせ
TEL:075-802-7000
公式サイト
■料金
一般 :1,000円
中学・高校生 :500円(学生証をご提示下さい)
■交通のご案内
【JR・近鉄】
「京都」駅下車、市バスにて26・28・71系統で17分、「壬生寺道」下車、徒歩2分。
【阪急電車】
「大宮」駅下車、徒歩8分
【京福電車(嵐電)】
「大宮」駅下車、徒歩8分
【バス】
京都市バスにて「壬生寺道」下車、徒歩2分
京都MUSEUM紀行。アーカイブ
- 京都MUSEUM紀行。第一回【何必館・京都現代美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二回【河井寛次郎記念館】
- 京都MUSEUM紀行。第三回【駒井家住宅】
- 京都MUSEUM紀行。第四回【龍谷ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第五回【時雨殿】
- 京都MUSEUM紀行。第六回【京都陶磁器会館】
- 京都MUSEUM紀行。第七回【学校歴史博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第八回【幕末維新ミュージアム 霊山歴史館】
- 京都MUSEUM紀行。第九回【新島旧邸】
- 京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
- 京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第十二回【京菓子資料館】
- 京都MUSEUM紀行。第十三回【木戸孝允旧邸・達磨堂】
- 京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
- 京都MUSEUM紀行。第十五回【京都万華鏡ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第十六回【京都府立堂本印象美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十七回【相国寺承天閣美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十八回【細見美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十九回【清水三年坂美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十回【千總ギャラリー】
- 京都MUSEUM紀行。第二十一回【京都国立博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十二回【京都大学総合博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十三回【京都工芸繊維大学 美術工芸資料館】
- 京都MUSEUM紀行。【建勲神社】
- 京都MUSEUM紀行。第二十四回【二条陣屋】
- 京都MUSEUM紀行。Special【京都市美術館 リニューアル特集】