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※この記事は掲載時(2015年6月)の情報に基づきます。

特集記事

京都MUSEUM紀行。第二十四回【二條陣屋】

京都ミュージアム紀行 Vol.24 二條陣屋

お客様をもてなし守る―こだわりの空間と仕掛け 後編

・春日の間


庭の奥には春日神社が鎮座。この他にも二條陣屋には敷地内にいくつか神社があります。

建物の中ほどにある少し小規模な部屋。小川家の故郷・奈良を偲んで作られたもので、随所に奈良を思わせる意匠を見ることができます。床の間に描かれているのは、雲間に浮かぶ三笠山(若草山)。天袋には東大寺や春日大社の風景を描き、庭には小さな春日神社。ひょうたんのような形をした下地窓も、猿沢池を模しているといわれ、まさに奈良尽くしの部屋となっています。
襖には和歌を記した扇面があしらわれ、欄間には古来幸福の象徴といわれていた蝙蝠(こうもり)の姿が見えます。一族のルーツに思いを馳せつつ、家の幸福とちょっとした遊び心を感じさせてくれる空間です。
この部屋は、隣接する茶室(皆如庵)の待合としての役割も持っており、面する庭から石橋を渡り、茶室の入口へ向かうことができるようになっています。

★庭には長方形の大きな井戸が備えられていますが、これは茶席用の水を確保すると同時に、火災時には貴重品を唐櫃(からびつ)ごと井戸に沈めて保護できるようにした防災設備でもあるそう。このほか、二條陣屋のあちこちには十数個の井戸が備えられており、水道のように何処からでも水をくみ上げられるようになっていたそうです。京都は非常に火事が多い街だったため、二條陣屋でもこのような火災対策が大変重要視されていました。

・茶室「皆如庵(かいにょあん)」

春日の間に隣接する茶室。一畳台目と呼ばれる、一畳の畳と炉を切った台目畳で構成された非常に小さなもので、客と主人が向かい合って座るつくりです。炉のかたちも独特で、普通は四角く切るところ、ここでは丸く切られています。これは「角を立てず丸くおさめる」という商売の心得を表したものだそうで、この茶室で商談が行われていたためと考えられているそうです。 入口は通常の茶室でよく見られる身体を屈めて入る「にじり口」ではなく、身分の高い人に配慮し、頭を下げなくても潜ることのできる「貴人口」になっています。また、この部屋も廊下へすぐに抜けられるようなつくりになっており、緊急時の逃げ道が確保されています。

・湯殿(ゆどの)・雪隠(せっちん)



湯殿。壁は朱色に斜格子模様、床も亀甲柄や菱形などを敷き詰めたデザインで、大変お洒落です。

二條陣屋では江戸時代のバスルーム「湯殿」とトイレ「雪隠」も見ることができます。本来、大名は旅行の際移動式の湯殿を持参していくため、宿泊場所に湯殿がない場合が多いそう。二條陣屋の独自性を示す部屋のひとつです。
特に浴槽は、陶製の白タイル張りという当時としては非常に珍しいもの。解体修理によって嘉永年間(1848-1853)に作られたことがわかり、現存する同タイプの浴槽では日本最古とされています。また、お湯の沸かし方はなんと給湯式。外でお湯を焚き、それを壁の穴から竹筒で流し込めるようになっています。また、浴槽の横には炭窯を備えた保温槽もあり、お湯が冷めることを防ぐほか間仕切り板を上げ下げすればお湯の温度を調整することができたそうです。ほぼ現代の湯沸かし器付のお風呂と同じことができ、その先進性に驚かされます。


雪隠。修復時に江戸時代のしつらえで復元されたそう。

《2階》

・釣り階段

二條陣屋では、一階から二階へ続く釣り階段があり、普段は天井に収納されています。収納状態はまるで戸棚のよう。近くに茶室用の水屋があるので、茶壺を収めておく棚に見せかけられるというわけです。もし敵が入ってきても見つかりにくくするための工夫のひとつです。

・赤壁の間

二條陣屋の2階にある「赤壁の間」は、その名のとおり鮮やかな赤色の壁が特徴的な部屋。こちらも家臣用の控え室として使われていました。昔からこの名前で呼ばれていたそうですが、以前は普通の白壁になっていました。しかし、平成21年の解体修復時に時代ごとに塗り重ねされた壁土が見つかり、ここで嘉永年間は紅柄を含む赤い壁土が使われていることがわかりました。そこで部屋の名前にあわせ、当時の色合いで復元されました。
隣の部屋と繋がる襖も大変ユニークな作品で、江戸から九州(長崎)の東海道沿いにあった各宿場町の姿が描かれています。これは二條陣屋の主な宿泊客が西国(西日本)の人々だったからでしょう。よく見ると地名もきちんとかかれているので、ついじっと拝見してしまいます。
なお、この部屋から大広間上の武者隠に出入りすることができるようになっていました。

・苫舟の間

棟から突き出すように作られた茶室。ちょうど昔は部屋の下を小川が流れていたため、部屋が舟に見立てられ、天井も屋形船を思わせる意匠となっています。
かつて襖に蘇鉄が描かれていたことから「蘇鉄の間」とも呼ばれていたそうです。また、小川の水を茶室へ引き込めるよう、真下の庭には川の水を引き込むための井戸が、屋根には桶を引き上げる滑車が取り付けられていました。その跡が現在も残されています。


元々襖には蘇鉄が描かれていたことから「蘇鉄の間」とも呼ばれていたそう。現在の襖は修復時に現代の画家によって新たに描かれたもの。

★2階には他にも、家臣の控え室兼茶室となっていた部屋があります。


建物と建物の合間に作られた「囲の間」。天井は網代張り、床も釘を使わずに竹竿で吊り上げるというユニークな構造となっています。


一段床が高くなっている茶室。屋根上への非常口にもなっていたとか。

・隠し階段


隠し階段に身を潜めたところ。引き戸を引くとちょうど一人が隠れられるスペースになります(特別にご許可をいただきました)

2階には隠し階段も備えられています。2階側には階段を隠す引き戸がついており、この戸の下に身を隠すことで敵をやり過ごすこともできました。この他にも、部屋の各所には身を隠せる部屋や緊急脱出口が、一見わからないような場所に多数設けられています。

京都は江戸時代から幕末にかけて何度も大火に遭い、江戸時代に立てられた民家も現在ではあまり数は残っていません。そのなかで、現在まで江戸初期~中期の建物の姿を留めてきた二條陣屋は、当時の人々の暮らしや考え方を今に伝える、時代の生き証人といえます。
江戸時代は官庁街だった二條陣屋の周囲はすっかり閑静な住宅街となり、年月を経て確実に変化はあります。しかし、敷地に一歩入るとそこは江戸時代の京都の空気を確実に今に伝えてくれています。かつては限られた人だけが堪能できた豪華な歴史的建造物、タイムスリップする感覚で足を運んでみてはいかがでしょうか。

(この記事の執筆に関しては、二條陣屋・小川家の皆様に多大なご協力をいただきました。この場を借りて御礼を申し上げます)

二條陣屋

所在地

〒604-8316
京都市中京区三坊大宮町137

開館時間

10:00~/11:00~/14:00~/15:00~
※1日4回案内(各回約50分)
※定員各回10名(最大20名)

※英語パンフレット有り
(There are English brochure.)

休館日

水曜日(祝日を除く)、年末年始(12月28日~1月3日)

お問い合わせ

電話番号:075-841-0972(受付時間 10:00~18:00)

公式サイト

http://nijyojinya.net/

English page

If you can't understand Japanese, please look at this page.

http://kyoto-tg.blogspot.jp/2015/11/the-nijo-jinya.html

■料金

大人:1,000円
高校生:800円
※ 見学は高校生以上の方のみ
※ 原則として要予約(受付は電話のみ/予約・キャンセルは前日まで受付)

■交通のご案内

【京都市営地下鉄】
*東西線「二条城前」駅下車、3番出口より徒歩3分
【京都市バス】
*15号系統にて「神仙苑前」下車、徒歩2分
*9、12、50、67、101号系統にて「堀川御池」下車、徒歩5分
【JR】
*「二条」駅下車、東へ徒歩15分
【阪急電車】
*「大宮」駅下車、北へ徒歩15分




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